第九十八話 試験終了
第九十八話! さて、ラルクたちはどこまで進んだのか……!?
「あと……10秒! 危なかったぁ……。もう少しで間に合わない所だったよ……早く倒せてよかったね」
「ライア、だからってあの倒し方は酷くない……?」
そうやって話している僕らの背後に倒れているのは、鉄の巨躯をもったアイアンゴーレム……80階層のボスの死体だった。このアイアンゴーレム、こちらが一撃を与えないと攻撃してこない……という特徴がある。
ライアはそれを逆手に取り、たったの2分ほどで『65万分の1の奇跡』を5セット分発動して……アイアンゴーレムは起動する前に倒されてしまったのだ。本当に酷いと思う……そう心の中で少し引いていると……
『……2人とも、お疲れ様。そろそろ『帰還の宝珠』で帰ってきてね』
「「アルトさん!」」
急にあたりに響くアルトさんの声。多分、固有スキルの効果だと思うのだが……ダンジョンの中でも発動範囲内なのか。
『2人ともずっと戦ってたから忘れてるかもしれないけど、20時間ぶっ続け攻略だよ……あぁ、ライアのせいか。でも、早く帰っておいで……気づいてないだけで、疲れは結構溜まってると思うから』
相当な疲労が溜まっているのは確かだ。正直なことを言うと、今すぐベッドに飛び込んで眠ってしまいたい……
「ラルク、そろそろ帰ろっか」
「うん、早く帰ろう……ライア、僕はもう疲れたよ」
『「なんか死にそうだからやめて?」』
じゃあ、冗談はここまでにしておいてそろそろ帰ろうかな……そう思った瞬間。
『…………ギィィィィィ!!』
何だ!? 後ろから金属の軋む音が……まさか、アイアンゴーレムをまだ倒し切れてなかったのか!? 僕はそう思い後ろを振り返ると……
「何、これ……!?」
そこには、既に動かなくなったアイアンゴーレムが……空中でどんどん圧縮されていた!
「なんだこれ!?」
『ああ、驚かせてごめんね。私がちょっと回収してるだけだから安心して』
嘘でしょ!? 鉄の硬さを持つアイアンゴーレムを遠隔で圧縮して回収するとか……もう人間技じゃないよ。
「ラルク、『神龍の翼』に常識は通用しないんだよ……分かった?」
圧縮されていくアイアンゴーレムを見ながら、日常茶飯事とでも言うようにそう言うライア。君、本当に苦労したんだね……。
『……さて、回収終了。早くライアたちも帰っておいで』
「「はーい」」
そして、僕たちは今度こそ『フォーマルハウト』から地上に帰還したのだった……
「2人とも、おかえり」
『帰還の宝珠』で到着したところの前では、アルトさんがそう言いながら出迎えてくれた。
「アルトさん、ただいまー!」
そう言ってアルトさんのほうに飛び込んでいくライア。アルトさんはそれをぽすっと受け止めて……
「……寝ちゃったね。よいしょ……っと。おやすみ、ライア」
疲れて寝落ちしてしまったライアを優しくおんぶした。戦ってる時はあんなに活き活きしていたのに、試験が終わったから気の緩みが解けたんだろう。幸せそうな寝顔を浮かべながら身をアルトさんに任せている。
「アルトさん……試験監督、ありがとうございました」
「お疲れ様、ラルク。試験結果だけど……まあ、合格だね。合格ラインを遥かに超えて」
そこまで!? いや、落ちていないだろうとは思っていたけど……
「この試験、60階層まで行けたらOKだったのに、さらに20階層進むなんて……君たち2人ともSランク冒険者でもやっていけるレベルだよ」
そこまで言ってもらえるのは素直に嬉しい。でも……
「黒騎士のところとか……僕、ライアに頼りっきりでしたし。ライアのおかげです」
ライアがいなければ危なかった……というところがいくつかあったのも事実だ。僕はアルトさんに言われるほど強くない。そう思い、アルトさんにそれを伝えると……
「こら、誰も君に完璧にするようになんて求めてないよ。君たちは臨時といえ、お互いに助け合うパーティーだったんだから……連携のとれた、いいパーティーだったよ」
怒られてしまった。そっか、お互いに助け合うパーティー、か……ずっとソロだったから、縁がないと思ってたけど……案外、悪くないな。
「それに、この子にだって結構危なっかしい所はあったしね。急なアドリブとかにちゃんとラルクは対応できてた……ライアの動きは、ラルクあってこそだったんだよ」
そこまで言われると、何だか嬉しいな……
「……そう、ですか。ありがとうござい……ま……」
そうお礼を口にした直後。恐らく、ライアが眠ったことで魔具への魔力供給が途絶えたのだろう….…急に、疲れ……が……。
体に力が入らなくなり、前に倒れていくのがわかる。このままでは地面にぶつかる……
「おっと……ふふふ、ラルクも頑張ったから、疲れたんだね……お疲れ様。ゆっくり休むといいよ」
……どうやら、ライアと同じようにアルトさんが抱き止めてくれたみたいだ。その柔らかい肌から伝わる、人特有のほのかな温かさは僕を眠りに誘うのには十分な役割を果たした。ああ、安心する……懐かしい……
「おやすみ……────……」
当の自分でさえ何を言ったかわからない程の小さな声で口から無意識にこぼれたその声を最後に、僕の意識は途絶えた……
◆◆◆◆◆◆
目を開くとそこは、前にもきたことがある真っ白な空間だった。僕はその中にたった1人で漂いながら、何かを待っている。これは……夢、なのか?
目を開いたばかりで状況が掴めないでいると、誰もいなかったはずの後ろから不意に声をかけられた。
『……おはよう。久しぶり……じゃ、ない。初めまして、かな……ラルクくん』
「あなたは……!」
ずっと前に聞いたような気がする、その声の主は────
たびたび出てくるこの空間は一体……!?




