第九十六話 ショータイム
第九十六話! ライアのターン!
「イッツ、ショータイム」
そう言い放ったのは、目の前に転がっているライアの首……何が起きてるんだ!? ライアはさっき、確かに黒騎士に首を切られて死んだはず……
『貴様! なぜ生きて……ぐはっ!?』
背後から聞こえるはずのない声が聞こえ、動揺して叫ぶ黒騎士。その背中には、魔力のこもったトランプが数枚刺さっている。その絵柄は全て……
「道化師……そういうことか!」
『貴様らぁ! 何を言って……』
そうだ、ライアには……あの技がある!
「さぁ、扉の方を見てみなよ、誇り高き騎士さん?」
ライアの……いや、人形の首が言ったように扉の方を見てみると……
『あ、あれは……』
そう驚きのあまり呟く黒騎士の目線の先にあったのは……
「そろそろ種明かしの時間だね……いや、自分でも良くやったと思うよ」
吹き飛ばされた人形の胴体と、それに開け放たれた扉……そして、そこから悠々と歩きながら闘技場型のボス部屋に入ってきているライアの姿だった。
一体何が起きているのか……その原理は、こうだ。
まずライアは恐らく……この黒騎士の存在を知っていた。
よく考えたらおかしかったんだ。今までのこのダンジョンに関する発言、そしてライアはフィーズさんの妹ということから……ライアがこの黒騎士の存在について知らないとはあまり考えられない。
その上で、黒騎士にも……そして僕にも、その存在を知らないふりをしていた。なぜならライアは、この黒騎士の種族スキルのことも知っていたから。
つまり、ライアは種族スキル……『絶望の魔眼』で両方動けなくなって全滅するということを危惧していたんだろう。
それを防ぐためにライアは使っていたのだ。あの瞬間……扉を開き、中を見た瞬間。黒騎士が生首の上に座っているのを見て、僕が気を取られていた時に……
────思わず声にならない声を漏らして────
違う。あの時に、詠唱していたんだ……『奇術師の二択』を。だから近くにいた僕でさえ気づかなかった……まあ僕がライアに警戒を向けていなかったのもあるのだが。
そして、ライアは自分が正面戦闘では活躍できないことも見越していた。サポートが適任だと分かっていたのだ。だから彼女自身は分身でも特に問題ない。
そしてこの時、ダンジョンのルール……『一度誰かがボス部屋に入ったら5分間は扉が開かない』というルールを思い出してほしい。
このルールの前提として、そもそも誰かが中で戦っている間は外からボス部屋の扉は開かない……というものがある。だから、ボスと戦ってたら急に別の人が入って来る……とかないのだ。
しかし、内側からなら別だ。5分経った後に、『|
奇術師の二択』で中から扉を開けて戦いに参加する。倒されたのは『奇術師の二択』で操っている魔具(人形)に過ぎないから、どれだけ傷ついても動けば問題ない。
だから敢えて自分からヘイトを買い、自分を殺させることで完全に警戒を解いた……そして、その間に扉を開けて盤面を安全に整えた上で参戦したんだ。
しかも黒騎士はさっき『絶望の魔眼』を使っていた。いや、使わされていた。あれだけ強力なスキルだ、3〜5分のインターバルがあるんだろう。つまり、今の状況は……!
「さて、ラルク。これで準備は整った……ショータイムの始まりだよ!」
僕たちに、圧倒的有利……! ライアはまさかここまで考えていたのか……!?
「ラルクはもう気づいたみたいだね……ここからはボクも本格的に戦うよ! 『シャッフルレイン』!!」
『貴様ぁ……散々手玉にとりおって! だが、数だけの攻撃で我を倒すことはできんわ!!』
ライアは黒騎士に向かって無数のトランプを飛ばすが、それは黒騎士が剣を一振りしただけで吹き飛ばされる。そして黒騎士がライアに迫り……
『もう一度殺して……何だ、これは!?』
「ダメだよ、ショーの間に攻撃しちゃ……今だ、ラルク! 『イリュージョンマント』!!」
あれは……ワイヤー!?いつの間にかライアが彼女自身の前に張っていたワイヤーに引っかかった黒騎士の動きが一瞬鈍る。その隙を見逃すはずもなく、ライアは黒騎士の背後に僕を移動させて……
「ナイス、ライア! 『一撃必閃』!!」
黒騎士を背後から穿つ!! 完全に不意を突いた一撃が決まった! 短剣は鎧を貫き、黒騎士を完全に捉えた!!
『ぐっ……なんの、これしき……!!』
これでも致命傷じゃないのか!?
「ここで畳みかける!! 『奇術師の……」
『鬱陶しい……はぁぁぁあ!!』
「「うわっ!?」」
黒騎士の咆哮と共に、僕らの体は奴の近くから引き剥がされる! くそ、倒しきれなかった……だが、黒騎士が負傷していたこともあり飛んでいる間に追撃されることもなかったからまあ良しとしよう。
『奇術師! 貴様も立派な敵だ! 認めよう……だが、ここからは私も容赦せん!』
「そりゃどうも! 『奇術師の選択・高貴なる血族』!!」
『効かんわぁ!!』
黒騎士めがけて飛んでいくJ・Q・Kのカード。それら全ては防がれることなく黒騎士の鎧に当たるが……鎧に張り付いただけで、ダメージは全くないみたいだ。防がれるのは分かっているのに、一体なぜ……
「ラルク、交代するよ! 『イリュージョンマント』!!」
ライアが攻撃を受ける寸前、僕との位置を『イリュージョンマント』で入れ替える。体勢が整ってる今なら、あれが決められる!!
「了解……『ダブルアップ・カウンター』!」
『何っ……ぐぁぁぁぁあ!!』
「『奇術師の選択・踊り狂う道化』!! 一気に決める!!」
僕のカウンターと、ライアの追撃により吹き飛ばされる黒騎士。闘技場の壁に叩きつけられ、砂埃をあげて倒れている。これは……倒したのか?
僕らは動かなくなった黒騎士にゆっくりと近づき、生きているかどうか確認する。黒い鎧のところどころにトランプが張り付いた状態で倒れており、『索敵』では奴から魔力の流れが感じられない……ということは!
「「やっ────」」
『『絶望の魔眼』……ふふ、ははははは!! 掛かったな!』
嘘、だろ────!? まだこいつ、生きて……死んだふりをしていたのか。気を緩めすぎた!
『結局汚い手に頼ることになったが……勝てば良いのだよ、勝てば』
こいつ……! 誇り高き騎士だのなんだの言っておいて……! 黒騎士はゆっくりと立ち上がり剣を持って、動けない僕らの方に近寄って来る。
「く、そ……」
鎧のところどころにスペードのトランプが張り付いているが、ライアも『奇術師の選択』は使えないだろう。彼女もあのスキルを受けてしまったのだから……
『正直、私も負けたと思ったぞ……だが、少し。ほんの少し私の方が上手だったようだな……残念だったな……さあ、死ね』
そう言って、奴は剣を僕に向かって振り下ろした────。
なんと! 評価ポイントが1000PTとなりました!!
ここまで読んでくださった方々、ブックマークや感想、評価していただいた方々、本当にありがとうございます! 残り半分ほどのこの小説、最後まで見てやってください!!




