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第九十五話 圧倒的

第九十五話! ラルクの命運やいかに……!?

 目の前の黒騎士から振り下ろされる漆黒の大剣。しかし、さっきのあの殺気を受けてから体が竦んで動かない。このままではまずい────!


「『不可視の奇襲(ブラインドタッチ)』!!」


『……ほう?』


 僕は『索敵』で広げていた魔力を強引に動かして、僕自身の体を大きく後ろに吹き飛ばす。元いたところの地面はその剣に抉り取られるように凹んでおり、その攻撃力の高さを物語っている。


 早く体勢を整えなければ…………まだ足もすくんでいるし、全身の震えだって止まらない。それでもさっきよりかは幾分かマシになった。


「ラ、ルク……」


 ライアもまだ動ける。これなら……


『……なるほど。ただの弱者という訳ではないようだ」


 戦う意思を見せた僕ら二人のことを、紅く鋭い眼光を黒い兜の奥より光らせて見つめる黒騎士。その目はまるで、僕らを品定めしているかのようで……


「ラルク……正直に言うよ。今のボクたちじゃ、純粋な実力じゃあ……絶対に勝てない」


 そんなことは肌で理解している。まだほとんどこの黒騎士の実力は見れていないが……僕ら二人で戦って、勝てるビジョンが見えない。


「ライア、サポートよろしく……攻撃は、僕がする」


「了解。傷一つつけさせない」


 しかし、戦うしかない。僕はライアに作戦会議で伝えた通りの動き……僕がヘイトを集めつつ、ライアが動きやすい盤面を整える動き……を指示する。


『では……征くぞ。抗って見せろ』


 その瞬間……目の前の黒騎士が、消え────


「────っ!!」


 こう言う相手は基本……背後をとってくる! 僕はほぼ反射にも近いスピードで振り向いて、その攻撃を『魔具工房』で強化された鉄の短剣で捉える。


『直感……いや、経験か? 中々に面白いな……』


 そう感心したように呟く黒騎士。しかしその攻撃の威力が緩むことはなく、短剣にかかる力はどんどん増していく。やはり、普通の剣と短剣では競り合うと不利だ、このままでは……!


「『魔術師の選択トリックアンドトリック名もなき者たちの宴(ナンバーズバンケット)』!!」


『鬱陶しい……』


 僕が競り負けそうになった瞬間。ライアの援護が入り、鍔迫り合いが中断される。しかし黒騎士はそれに水を差したことが気に食わなかったのだろう。一瞬にして僕の目の前から消えて……ライアの方に向かっている!


「まず……」


『まずは貴様からだ……邪魔な小蝿が、消えろ。誇り高き騎士の戦いに水を差すな』


「『電光尖牙』!!」


『ぬうっ!?』


 『電光石火』と『剣術』、そして『衝撃』に加えてさらに『突っ張り』の合わせ技『電光尖牙』。とりあえずまずは、ライアからこいつを引き剥がす!


 黒騎士は僕の奇襲をもろに受け、反対側にある闘技場の壁に思いっきり叩きつけられる。なんとか引き剥がすことはできたが……手応えがなかった。多分……ダメージはそれほどでもないだろう。


『やはり……貴様()良い! それでこそ興が乗るというものだ!』


 くそ、もう回復したのか!? 黒騎士はそう大声をあげながらまたもやほぼ一瞬で僕の目の前まで接近してきて……


『貴様なら……これも受けられるだろう!?』


 僕に向かって、ほんの一瞬で振り下ろされた無数の斬撃。一撃一撃の威力はさっきより落ちているが、あまりにも速すぎる……!


「……ぁぁぁあ!」


 ダメだ! 『思考加速』『覚醒』『身体強化』『受け流し』……その他考えうる全ての能力を使っても、あまり長くはもたない……! 


『そうだ! それでいい! もっと足掻いて見せろ!!』


 さらに加速する連撃。既にほぼ限界だったというのに、さらに速くされたら受けきれなくなる……っ! 案の定僕は少しずつ押されていき、ついにその凶刃が僕の目の前に迫り…………


「『イリュージョンマント』!!」


 僕が真っ二つにされる寸前。ライアの『イリュージョンマント』によって僕は黒騎士から離れたところまで瞬間移動させられる。危なかった……


『一度でなく二度までも……!』


 って、安堵している場合じゃない! どうやらこの黒騎士、剣を打ち合っている最中に他から手を出されることがとても気に食わないらしい。最初の冷静さはどこへいったのやら、今放った声はあからさまな怒気を孕んでいた。


()()()()で怒るなんて……君、相当怒りっぽいんだね? 誇り高き……えーっと、騎士だっけ? ボクにはとてもそんなものがあるように見えないんだけど」


 なんでそこで煽るの!? 非常にまずい……黒騎士から放たれているプレッシャーが桁違いに高くなってる! 早く助けに行かないと……! 僕は『電光石火』で一気に黒騎士に詰め寄り……


『貴様ぁ……!! 私をコケにしたことをあの世で後悔するがいい!! 『絶望の魔眼(ディスペアアイズ)』!!』


 僕が黒騎士の目の前に到達した瞬間。黒騎士が激昂しながらそう言い放つと、黒騎士の紅い眼光がさらに明るさを増した。そしてそれと同時に、僕らはまた最初と同じ感覚に陥る。腰は抜けて、全身の震えが止まらない。まさか、これが……奴の種族スキルだったのか……!


(早く……助けないと……ライア、が……)


 動けない僕を横目に、ゆっくりとライアに近づいていく黒騎士。僕は止めようとするが……


「あ、ぁぁ……」


 出てきたのは情けない声だけだった。


「い、やぁ……」


 ライアは涙目になりながら震えている。早く、早く助けに……でも、体はいうことを聞かない。あまりにも至近距離で受けすぎたのだ、『不可視の奇襲(ブラインドタッチ)』さえも使えない。


「や……めろ……!」


 その言葉も虚しく、黒騎士はライアの前に立ち剣を振り上げる。


『……あれだけ威勢があったというのに……憐れだな。では今度こそ……消えろ』


 その言葉と共に、黒騎士は持っていた剣をライアに向かって振り下ろし……


「あ…………」


『これで……終わりだ』


 あたりに斬撃の音だけが虚しく響く。動かなくなったライアの体を蹴り飛ばす。体はくの字に曲がり、蹴られた勢いのまま壁に叩きつけられる。


『さて……邪魔者は消えた。次は……お前だ』


 まだ動けない僕の目の前に立ち、そう言い放つ黒騎士。その後ろでは、虚ろな目をして転がっているライアの首が────


「イッツ、ショータイム」


 そう、言い放った。

次回、第九十六話『ショータイム』。

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