第八十七話 VS奇術師 and More……
第八十七話! ラルクvs奇術師、その戦いの行方は────!?
「『魔術師の選択・クラブ』!」
「またか! 【ファイアウォール】!!」
戦いが始まってから数分。僕たちはずっと一進一退の攻防を繰り広げていた。トランプの攻撃は燃やして避け、僕の『不可視の奇襲』は瞬間移動で避けられ……いたちごっこになっていた。
「君もしつこいなぁ!」
「君には言われたくないな!」
両方同じことしかしてないからお互いにヘイトを溜めている。え? そんなにドンパチやり合ってて他の人が攻めてこないのかって……?
そんなの、僕らの近くに来た瞬間に『不可視の奇襲』で片っ端から気絶させている。ずっと『索敵』をフル使用しているから魔力が広がって、どんどん範囲が広くなっていくな……あ、宝玉持ってる人がいる! この人から奪っちゃえば、戦わなくても良くなるのでは……!
「ねえ! ちょっと待って!」
「いいよ……ってなるわけないでしょ! 『奇術師の二択』!」
ダメだ聞く耳を持ってない……って当たり前か。戦ってる相手の言うことなんて聞くわけないもんな……仕方ない、なんとか『魔力操作』で宝玉を拾って来るまで時間稼ぎをするか……
side:ケント
突然だが自己紹介をしよう。僕の名はケント。自分で言うのもなんだが、新進気鋭のBランク冒険者だ!
『鑑定の儀』で戦闘系の固有スキル『魔力装甲』を授かった……そしてそれは、とんでもなく強いスキルだったんだ! 自由自在に魔力を纏って変形させ、右腕に鎌を、左腕に大盾を顕現させて戦う戦闘スタイルをとっている。
また武器を顕現させるだけでなく、魔力による身体強化、『索敵』と組み合わせた自動防衛など……まさに戦闘面において万能なスキルなんだ。
そんな『魔力操作』を使って、冒険者になった僕はダンジョンを登録から3ヶ月足らずで踏破したり、Aランクモンスターから街を防衛して撤退させたり……そんな功績を積んで、たった半年でBランクまで成り上がった!
そして今、王立ファイルガリア学園に推薦されて一次試験の真っ只中。さらにクリア条件である赤い宝玉も他の受験者を倒して手に入れ、これなら一次試験は受かれるな……そう思っていた時のこと。
(……なんだ、この魔力?)
試験中ずっと纏っていた『魔力装甲』が僕のものでない魔力を感知した。その魔力はどんどん僕を包むように広がっていって……
「んなぁっ!? いったいどこから!?」
急に空中から見えない攻撃が飛んできた! いやこれは……魔力自体を動かしているのか!? 自動防衛モードにしてなかったら危なかったぞ……
「くそっ! 遠隔攻撃なのか……?」
一撃一撃の威力はあまりないため防ぐことは可能だが、とんでもなく鬱陶しい! しかも時間が経つにつれ魔力の濃度が上がってきている。このままではジリ貧だな……
「魔力の元は……あっちか!」
こうなったら、本体を直接叩くしかない!
「行くぞ……【魔力変形・大網】……【魔力変質・伸縮+粘着】……『ワイヤーチャージ』!!」
僕は移動系の技『ワイヤーチャージ』を発動する。この技は手のひらから蜘蛛のように粘着性の伸縮する糸を出し、それを壁や天井にくっつけて飛んでいく技! 勢いもついたことだし、これで一気に近づいて……
「かはっ……!?」
その瞬間、僕は見えない壁にぶち当たり気絶した…………
side:ラルク
うわっ!? さっきまで『不可視の奇襲』で攻撃していた人が突っ込んできたから、思わずハエ叩きの要領で叩き落としてしまった。大丈夫かな、食らった人。
でもまあこれで宝玉をもう一つゲットしたわけだし、なんとかこれで和解できるかな……? 僕は飛び交うトランプの弾幕の中、ライアさんに向かって叫ぶ。
「あの! 宝玉もう一個手に入れたんですけど! 戦うの止めませんか!」
「……話を聞こうか」
宝玉をもう一つ手に入れたと言うワードに反応したのか、ライアさんは一旦攻撃を止め、声のトーンを落としてそう僕に話しかけてくる。
しかし、戦闘態勢を解いていないあたりまだ信用はしていないようだ。これは実物を見せた方が早そうだな……そう思っていると、ようやく『魔力操作』を使ってこっちに持ってきていた宝玉が到着する。
「さっき言ってたのはこれです。あなたにこれを渡すので、戦いはやめにしませんか」
「……ねえ、ちょっと待って。君さ……どうやってそれを奪ったの?」
「秘密です」
僕からわざわざ手の内を明かす必要はない。特にこの人には情報を与えすぎると何されるか分からないしな……
「へえ。奪ったことは否定しないんだ」
「……っ!?」
完全に見透かされている!?
「ボクとやり合ってるのに、その片手間で……もしかして誰も乱入してこなかったのも君のせいなの?」
「…………。」
この子に話術で勝てる気がしない……。僕はこれ以上余計なことは言わないように、沈黙で答える。
「……はぁ。正直、舐められたみたいでちょーっとイラッときたけど……宝玉をタダでくれるんだ、チャラにしてあげるよ」
うっ……そのつもりはなかったが、言われてみると確かにそうだ。悪いことしたな……
「じゃあそれ、こっちに投げて。お互い近づくのはリスクが高いしね……もちろんスキルは使わずに、だよ」
当たり前だよ。僕はライアさんに宝玉を投げて、確かにそれが彼女の手元に届いたのを確認する。
「じゃあ、ボクはこれで。今からはお互い無関係……たとえ道ですれ違っても、両方宝玉を持ってるから戦う必要はないよね」
「うん、もちろん……それじゃあ僕も行くよ」
「結構楽しかったよ。またやり合えるといいね」
「……そうだね」
そんな会話を交わして、僕たちはお互い反対方向にむけて出口を探して走って行った……はずだったのだが。僕がある程度の距離まで走った時、なんと僕の宝玉が急にものすごい勢いで光を放ち始めた! どうして!? 魔力は込めていないはず……って、これは!!
「ジョーカーのトランプ!? やってくれたな……!」
いつのまにか僕の宝玉にジョーカーが貼り付けられていた……だと。『索敵』で周りの人たちが集まってくるのがわかる……!
『戦いの途中に気を抜いちゃダメだよ☆』
そう言う顔が頭に浮かんできて、僕はしてやられたことを悟ったのだった……
舐めプ、ダメ、ゼッタイ。そして、ケントくんに救いはあるのか……!?




