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第八十話 ドキドキお泊まり会・前編

第八十話! 果たして野菜炒めのリベンジなるか!?

「お邪魔しまーす」

「お邪魔しますにゃ〜」


 そう言って、僕とフォンセはフィリアの家の扉を開ける。すると僕たちのことを待っていたのか、フィリアはすぐに出迎えてくれた。


「2人とも遅かったね。何かあったの?」


「「べ、別にぃ……?」」


「何か隠してるでしょ! 私にも教えてよー!」


 いや、言えないです。あの後、虐められていた冒険者は腰を抜かして壁にへたり込んでいた。僕は立たせてあげようと手を差し伸べたのだが、その人はそのまま失禁して倒れた……本当に、どうしてあんなことをしてしまったんだろうか。


「むぅぅぅ……いじわる……」


 フィリアが仲間外れにされたと思って、少し不機嫌になっている。でも言えないんだ、許してくれ……


「ごめんね……大したことじゃないよ」


「そうにゃ。ラルクが勝手に王都をうろつき回って迷子になっただけにゃ」


 フォンセ!? 何を言って……あ、そうか。この場を収めようとしてくれてるのか。ただし、僕を犠牲に。フォンセの方を見ると、フィリアにバレないようにこっちにウィンクしてきている……はぁ。仕方ない……


(スキル『演技』……発動)


「フォンセ! それは言わない約束じゃ……」


「あっ……口が滑ったにゃ。フィリア、今のは忘れてにゃ……」


 そうやって2人で小芝居をうっていると、フィリアが急に笑い出してこう言った。


「あはははは! ラルクもドジだね! 道に迷うなんて……私みたいだよ!」


 フィリア、それ自分にもダメージ来てない? でもフィリアの機嫌が直ったならそれでいいか。


「あっははは……ふぅ……笑った。2人とも、中に入って!」


 そうやって中に僕たちは中に招き入れられる。そのすれ違いざまに、フィリアは僕にコソッとこう言った……


「で……お店とかの建物が崩れてるのに、どこに行きたかったの?」


「えーっと……」


「寄り道するなんて、()()()ね、ラルク」


 ……僕たちが嘘をついたこと、多分バレてるなぁこれ。やっぱりフィリアには敵わないなぁ……僕は小声で『ごめんね』と言いながらフィリアの家の中に入っていった。




「「…………」」


 部屋の床についた、ぶちまけられたような紅いシミ。そしてその上にうずくまるフィリアと、それを見下ろす僕とフォンセ。目線の先にいるフィリアの左手には包丁が握られており、何をしていたのかが見なくてもわかる。


「どう……して……」


 信じられない……そんな声色でフォンセが言う。僕だって信じられない。まさか、こんなことになるなんて思ってなかったのに。


「フィリア、何で……何でこんなことを……」


 思わずそんな言葉が零れた。でも、仕方ないじゃないか。だって……


「「何でカレーを作ってる時にケチャップを地面にぶちまけてるの(にゃん)!?」」


 確かフィリアは、


「リベンジの料理はカレーにするよ! お母さんも煮込むのと洗うのは面倒だけど作るのは簡単って言ってたし!」


 って張り切っていたはず。確かにカレーなら変なことは起こらないだろう思って少し目を離した隙に……それは起こっていた。


 何でだよ! なんでカレーを作ってたのにケチャップが床に広がってるんだよ! いや……まだ、ルーを入れた後の隠し味なら分かるよ? でもまだ野菜煮込んでる途中だよね!?


「だって……ラルクもフォンセもケチャップ好きでしょ……?」


「うっ!」

「うにゃっ!」


 しゅんとした声でフィリアがそう言ってくる。そんなこと言われたら何も言えないじゃないか……! しかも床に雑巾がけをしながらそう言ってきているため、必然的に上目遣い……こいつ、やりおる。


「で……でも、初めての時はちゃんとレシピ通りにするのがいいにゃ、フィリア! 今度から気をつけるにゃ!」


「じゃあ早くこれ片付けて、料理の続きをしようか」


「うん!」


 よかった、元気になった……だから、とりあえず。


「「その包丁を早く机に置いて?」」


「あっ……」


 どうやらフィリアは、本当に要領が悪いみたいだ……




「「「で……出来たぁぁぁあ!!」」」


 ケチャップぶちまけ事件から30分後。入れようとしていたお肉が羊肉だったり、フィリアが力を入れすぎてまな板を切ったり、カレールーを丸々一袋入れようとした時は本当に驚いたが……なんとか僕とフォンセのフォローもあり、『見た目は』まともなカレーが完成した。


 しかし、まだ()()()()()()。それはある種の恐れ。心に刻まれた恐怖。どれだけ美味しそうでも、あの野菜炒め(さつじんへいき)を食べた後に無警戒で食べるのは……


「私が、行くにゃ」


 おもむろにスプーンを持ち上げ、そう告げるフォンセ。


「フォンセ!? ダメだ、死ぬかもしれないんだぞ!」

「危ないよ! フォンセ……どうして!」


 ただのお手伝いさんが食べるには()()は危険すぎる!


「 大丈夫だにゃ……。私はフィリアのお手伝いさん……これもお仕事のうちにゃ。それに、2人にはまだ……生きていてほしいにゃ」


 フォンセ……! 手が、声が震えている。本当は怖いんだ。それでも食べるっていうのか……だったら。


「「死ぬ時は一緒だよ、フォンセ」」


 そう言って、僕とフィリアはスプーンを持ち上げる。


「フィリア!? ラルク!? やめるにゃ!」


 君1人に苦しい思いをさせるもんか! 僕らだって覚悟を決めたんだ……


「……はぁ。2人とも、ありがとうにゃ。じゃあ……」


 『その言葉』を言ってしまえば……もう、後戻りは出来ない。でも、もういいんだ。3人なら……何とかなるさ。唾を飲み込み、僕らは声を揃えて言う。


「「「いただきます」」」 


 僕らは鍋の中のカレーをスプーンですくい、それを口に運ぶ。その味は……


「「「美味しい……!!」」」


 美味しい、美味しいよこれ。野菜の甘さと程よい辛さの混ざった、シンプルなカレーの味がする! リベンジ、成功だ……!


 目の前にあるのはただのカレーのはず。なのに何でだろう、涙が出そうなほどの達成感が込み上げてくる。


「やった……やったよ! カレーの味がする!」


「2人とも……私、こんなに嬉しい料理は初めてにゃ!」


「フィリア、フォンセ……2人とも、最高だよ!」


 僕たちは3人で涙を流して喜んだ。喜んだのだが、その途中にふと3人同時にあることに気づく。


「「「お米は……?」」」


 どうやら晩ご飯はもう少し先になるみたいだ。

※彼らは料理を作っているだけです。

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