第八話 特訓は成長の始まり
第八話です。主人公、ここから急成長致します。
僕は村はずれの約束の森に着いた。この地が僕の初めての依頼の……そして、これからの僕の冒険者人生の、始まりだ!! そう思いながら、僕は意気揚々と森に乗り出した。
結論から言おう。何も起こらなかった。本当に何も起こらなかった。魔物に出会うこともなく、ただただ薬草採取しただけだった……うん、平和なのはいいことだよな! 安全第一! めっちゃ拍子抜けしたけど!
(……というか、まだお昼か)
依頼は達成したが、このまま帰ってもお金以外に何の成果もない。ということで、森の中で少し『武芸百般』の検証をすることにした。
「今このスキルについてわかってるのは…….」
1.恐らくこのスキルを発現したのは僕が初めて
2.ノーマルスキルに対する資質……つまり、ノーマルスキルが覚えやすくなるという能力だと推測できる
この二つだ。
この世界では、ノーマルスキルはある一定の行動を起こせば、誰もが入手できる。そして、さらにこれが自身のジョブとマッチしていると、スキルは強力になる。
例えば、スキル『剣術』。これは、剣の素振りを1000回ほどすれば身につけられる。ただし雑に振るのではなく、きちんとフォームなどを見直しながら振らなければならない。
また、これを持っている人のジョブが『魔法使い』である場合と、『剣士』である場合ではスキルの強さがかなり変わる。同じスキルレベルで同じステータスだとしても、剣士の方が大体2倍くらい強く剣をふれる。
これが、ノーマルスキルとジョブについての概要だ。
閑話休題。
ということで、僕はまず最初に取得が最も簡単だと言われる、『投擲』のスキルを得ることにした。このスキルの詳細を本で見た時、こう書いてあった。
スキル『投擲』最大レベル10
取得条件 物を同じ所に1000回投げる
効果
物を投げる速度が2倍になる。レベルアップで効果上昇
スキル適正ジョブ(効果2倍) 盗賊 戦士 調教師
ということで…
「せーの、いぃぃぃち! にぃぃぃ! さぁぁぁん!……」
僕は、近くの背の低めな木に向かって、採取がてら集めていた石を全力で石を投げまくり始めた…
そして十五分後。大体石を200回ほど投げたところで、体の中から何か変な感じがした。スキルを獲得したのだろうか? だとしたら、仮説2は正しいことになる。試しに、発動を意識しながら投げてみる。
(スキル「投擲」……発動!)
そして僕の手から放たれた石は視認できないほどの勢いで木へと飛んでいき……ドゴォォン!
………木の幹に風穴を開けた。
「うん?」
目の前の信じられない光景に対して理解が追いつかない。たしか、スキル『投擲』の効果は投げる速度を2倍にする能力だったはず……おかしくない? たったの2倍で木の幹を貫くなんて……いや、まさか。
「『ノーマルスキルに対する資質』って……ノーマルスキルが取得しやすくなるだけじゃなくて、全てのノーマルスキルが、スキル適正ジョブと同じレベルで扱える……ってことなのか…!?」
この仮説が正しければ、投げる速度は4倍。流石に風穴を開けたのは不自然だが、木が脆かったとも考えられる。多分、そうだったのだろう。少し違和感があるが、そうじゃないと逆に説明できない。
しかしこれ、もの凄いスキルなんじゃないか?幾らノーマルスキルといえど、適正ジョブの人が放つそれは相当な強さを発揮する。
そしてこの『武芸百般』、多分、恐らくだがスキルレベルも上がりやすくしてくれるだろう。ノーマルスキルが弱いといわれる理由の一つに、スキルレベルが上げづらいのにちゃんと上げないと使えない、というものがある。
しかし、そんなの僕には関係ない。ノーマルスキルのレベルを上げて強くなるのは他の人よりも簡単だ。
(これなら僕は……もっと強くなれる!!)
そう思った僕は、特訓を始めることにした…明日から。いや、サボったわけではない。今日は薬草持ってるから。いったん帰る。スキルの確認もしたいし。
そう心の中で呟きながら、僕はギルドへ向かった。
この時の僕は、まだ知らなかった。違和感を感じた時に、気づけたはずだった。職業『冒険者』の適正ジョブとしての、本来の能力を。
次の話から、特訓&成長回に入ります!