第七十九話 『ただいま』
第七十九話! お泊まり会は次回からです!
なりゆきでお泊まり会を開くことになってしまった僕とフィリア。ちなみにフォンセは……
「にゃっふっふ。私も泊まっていいにゃ?」
と聞いてきたので勿論OKを出した。これで2人っきりじゃなくなるから大丈夫……うん、大丈夫なはずだ。
お泊まり会ということで僕とフォンセは一旦荷物を取りに自分たちの宿に戻ることにした。
崩れた王都の街並みの中を、僕とフォンセは2人で歩いていく。なんと話によると、フォンセの宿は僕らが泊まっている宿の近くにあるらしいので、おおかた歩く方向は一緒だった。
「フォンセ、お泊まりって……急にそんなこと言いださないでよ……」
僕は歩きながら、フォンセに愚痴をこぼす。あまりにも唐突すぎるよ、急にお泊まり会なんて……まだフィリアと再開してから2日も経っていないのに。
「だってじれったいにゃん! フィリアもラルクもお互いのこと好きじゃにゃいのかにゃん!?」
好き……か。僕はフィリアのことをどう思っているんだろうか。確かに、フィリアは大切な存在だ。少しの仕草も可愛いと思うし、ずっと一緒にいたいとも思う。でも……
「好き……っていう感情なのかは、分からないや……」
僕にとっては、やっぱりフィリアはどこまでいっても幼馴染なのだ。家族に向けるそれに近い感情を持っているのも事実なんだよなぁ……
「青春にゃんねぇ……」
ニマニマとした表情をしながらこっちを見てくるフォンセ。絶対にいつか仕返ししてやるからな……!
「って、なんで僕がフォンセにそんなこと言わなきゃいけないんだ!」
「恋バナってやつにゃん」
本当にこいつ……! なんだかんだその後もフォンセにからかわれながら、僕たちは宿へと向かって歩いていくのだった。
「じゃ、ラルクまた後でにゃ〜」
「僕はもう疲れたよ、フォンセ……」
ふう……散々いいようにからかわれた。これが一日続くのか……きついな。そんなことを考えながら、僕は宿の階段を上がる。この宿も冒険者が数人泊まっていたからほぼ無傷で済んだみたいだ。
宿の2階の廊下は僕たちが出ていった時と違い静まりかえっていて、戦いが終わったことを改めて感じる。
(本当は、2人で帰ってきたかったな……)
シュヴァルツさんはもういない。それは分かっているのだが、どうしてもそう考えてしまう。冒険者になった時点で、僕もあの人も覚悟はしている……仲間を失うことも、自分が死ぬことも。それでも……
「ただいま」
自分の部屋の扉を開けて、ついそう呟いてしまった。
「にゃあ! ラルク、待たせたにゃ?」
「大丈夫、あんまり待ってないよ」
「にゃふふ。ラルクは優しいにゃんね〜」
僕が支度を終わらせて、フォンセを待って10分ほど経ったころ。メイド服から茶色のセーターにオーバーサイズのカーディガンを着たフォンセと宿の下で合流し、フィリアの家へと向かい始め、冒険者ギルドの前に差し掛かった。そんな時のことだった。
「……ラルク」
フォンセがやけに険しい表情をしながら、急に僕の名前を呼んできた。何かあったのか……?
「どうしたの? 調子悪い?」
「違うにゃ。あそこ……」
そう言いながら狭い路地裏を指差すフォンセ。あそこに何かあるのか?
「あそこがどうしたの?」
「あそこから血の匂いがするにゃ。でも、音からしてケンカじゃないにゃ……」
そうか。フォンセは獣人だから、聴覚や嗅覚が人間よりも優れている。だからそれが知覚できたのか……。
それよりも、路地裏で、ケンカじゃなくて血の匂い……これは、あれだな。ケンカなら放っておく所だけど、これは見過ごせない……
「フォンセ、ちょっと待ってて。すぐ終わるから」
「みゃあ……私も行けるよ?」
「大丈夫。何かあったら危ないし」
そう言ってフォンセを置いて僕は路地裏に近づき、その中を覗く。やはり案の定、そこでは……
「久々にいい遊び道具ができたなぁ! 今度は長持ちするといい……な!」
「いだっ! や、やめ……」
気弱そうな少年の冒険者が、大人達……というか前に冒険者ギルドで突っかかってきたハゲ頭の冒険者とその取り巻きにリンチされている。胸糞悪いな……
「逃がさないよ? 最近はこういうの出来なかったからねぇ……」
「今度は俺の魔法で焼いてみるか?」
「おら! まだまだ俺の番だぜぇ……!」
そう言って拳を振り上げる冒険者。それを見て、もう容赦しないことを決めた。
(シュヴァルツさんのことも……そうやって殴ったのか? じゃあそんな腕……いらないよな。『縮地』)
僕は『縮地』を使ってそいつに一瞬で近づいて、腕を勢いのまま殴る。細い木の枝を殴った時のようになんの抵抗もなくその腕の骨は『く』の字に折れた。
まさにそれは一瞬の出来事だったが、怒りのあまり対人にも関わらずつい『思考加速』と『身体強化』を強めに発動していた僕にとって、奴がそれに気づくまでの時間は欠伸が出るほど長いものだった。
「……あ? あぁぁぁぁぁあ! 痛え! なんだお前!!」
やっと気づいたのか。待ちくたびれたよ……さて、どうやってトラウマを植え付けようか?
「殺す……殺す殺す殺す!! お前らもやれ!」
「死ねぇ!!」
背後から武器を持った奴が襲いかかってきて、もう1人も魔法を唱え始めた。でも……
「遅い」
「「ぐあっ!?」」
僕は突っ込んできたほうを直接殴って気絶させ、その攻撃に『衝撃』を使って魔法使いのほうを吹き飛ばし詠唱を止め気絶させる。
「何が起こって……く、来るな! 来るなぁ!!」
気が動転しているのか、尻餅をつき半泣きになりながらあとずさる残り1人の冒険者。でも……
「それを聞かなかったのはお前達だろ? 都合が良すぎないか」
「あ、あ……うぁぁぁあ!」
おっと、突っ込んでくるのか。だったら……
「寝とけ」
僕はそいつの腹を殺さない程度の威力で殴り飛ばす。その体は紙切れのように吹き飛ばされ、相手は失禁しながら気絶した。さて、ここからどうしようか……そう思った時だった。
「ラルク……じゃ、ないのかにゃ?」
大通りの方から聞こえてくる、怯えるようなフォンセの声。僕はそれを聞いて、やっと我に帰った。
(……!? 僕は、一体……!?)
何をしていたんだ、僕は? 確かにそれをしたのは僕だ。僕自身の意思だ。でも……
(僕じゃ、ない……)
途中から、僕じゃない何かに意識を持っていかれたような……残虐な何かが、僕を支配したようなそんな感じがして……
「怖い……」
自分でも何が起きたのかわからず、僕はその場にうずくまった。フォンセはただ、何も言わずに近くにいてくれた……
……『ただいま』。




