第七十八話 お手伝いさんは猫耳少女
第七十八話! 果たしてラルクは生きているのか……!?
「────にゃ〜。おきて下さいにゃ〜!!」
僕を起こそうとしている、女の人の声がする。まだ少し朦朧とする意識の中、僕が感じたことは……
(……良かった、死んでない)
安堵だった。正直、あの野菜炒めはシルクさんの特製ポーションにも勝る破壊力があった。『気絶耐性』LV6が太刀打ちできないレベルって、おかしいと思うんだ。ある意味才能だよ。
「起きて下さいにゃ〜!! 生きてるにゃ〜!?」
その言葉と共に、僕の頭が揺らされる。揺さぶられたのかな……と思って目を開けると、そこには……
(山……っ!?)
二つの山がそびえ立っていた。この景色で、頭の下にある柔らかい感触……ああ、そういうことか。
(膝枕だ、これ……え、膝枕!?)
恐らく見ず知らずの女性に膝枕をされている!? それに気がついた僕は急に恥ずかしくなり、咄嗟に飛び起きる。するとそこには……
「獣人の……メイドさん?」
メイド服を着ている、猫耳と尻尾を生やした同い年くらいの獣人の女の子がいた。銀色の髪を腰くらいまで伸ばしている、黄色と青のオッドアイの猫の獣人。フィリアに匹敵するレベルの美少女だった。
「あ、起きたみたいにゃね! フィリアは上で寝てるから、行ってくるといいにゃよ〜……って、私に何かついてるにゃ?」
おっと。ついじろじろと見てしまった。生まれてこの方獣人を見たことがなかったから、つい新鮮で……
「いえ……ただ、獣人の方に会うのは初めてで。えっと……介抱してくれたんですか? ありがとうございます」
この人が誰だかわからないが、とりあえず介抱してくれたことは確かだ。僕はある意味命の恩人とも言える目の前の人に感謝を伝える。
「敬語じゃなくてもいいにゃ。それに、私はフィリアのお手伝いさんにゃ、これくらいやって当然にゃ!」
えっへん、と言わんばかりに大きい胸を張るその少女。なるほど、この人がお手伝いさんだったのか。
「お手伝いさんでしたか。僕はラルク、フィリアの幼馴染です。ラルクと呼んでください。よろしくお願いします」
「にゃあ!? ラルクはフィリアの彼氏じゃないのにゃ!?」
彼氏!? 僕がフィリアの!? いや、そんなことは……
──── じ、じゃあね!ラルク!私、もう行くから!────
その瞬間、僕はフィリアと『約束の森』で話した日のことを────あの時にされたことを思い出して、顔が真っ赤になる。
「いや、そんなことは……」
「顔が真っ赤にゃ! 絶対に図星にゃ!」
ここぞとばかりにグイグイ聞いてくるお手伝いさん。この人、苦手だ……! 僕はどうにかしてこの状況を打破しようと思い、とりあえず話題を変える。
「そういえば! まだあなたの名前を聞いてません! 教えてください!」
「話題転換が露骨すぎるにゃ〜! でもまあ、一旦この辺で聞くのはやめておいてあげるにゃ。で、私の名前にゃ?」
うん、この人絶対に後からまた掘り返して聞いてくるね。頑張れこの後の僕。今の僕はもう諦めることにしたよ。
「はい、名前です」
「私の名前はフォンセ! お察しの通り、白猫族の獣人にゃ! ラルク、よろしくにゃ!」
「フォンセさん、こちらこそよろしくお願いします」
「だーかーら! 敬語はやめるにゃ! 『さん』もいらない! フォンセでいいにゃ!」
そう言いながら手を差し伸べてくるフォンセ。
「じゃあ……分かったよ、フォンセ。よろしく」
結構グイグイくるし、テンションも高いが……悪い人じゃなさそうだな。僕はその手を握って、よろしくの握手しようとした。しかし僕がその手を握ろうとした時、僕の手に感じたことのない感触が走った!
(なんだこれ……柔らかい!? そして気持ちいい!)
僕はついついむにむにとそこを触ってしまう。すると急にフォンセの手から力が抜けていくのを感じる。
「うみゃぁ!? ふにゃぁぁぁぁ……ラルク……そこ、むにむにするなにゃあ……変な感じするにゃ……」
目をとろんとさせてヘナヘナと地面に倒れ込むフォンセ。なんだろう、ものすごく悪いことをした気分だ。
「ごめん!」
そう謝り、すぐに握っていた手を離して脱力状態のフォンセを立ち上がらせる。大丈夫かな……?
「ラルク、人の肉球はむにむにするもんじゃにゃいにゃ! 触るのが下手だったらパンチしてたところにゃよ!」
フォンセが怒ったようにそう言う。一応、体に異常が出たとかそんなのじゃなくて良かった……
「ごめん……気持ち良くてつい……」
僕はまたもや謝る。でも、心の中でまた触りたいと思っている僕がいるのは秘密だ。
「そこまで謝るなら許してあげるにゃ……今度から触るときは先に言うにゃ」
え、それって……
「また触ってもいいの?」
「悪い奴じゃにゃさそうだし、別にいたくもにゃいからにゃ……でも次勝手に触ったらパンチが飛んでくるにゃよ!!」
「あ……ありがとう」
僕は密かに心の中でまたあの肉球を触れることに歓喜しながら、あくまで平静を装ってそう言ったのだった……
「フィリア……生きてる?」
「ラルク……ごめん、あんな野菜炒めを食べさせちゃって……」
フォンセと話終わった後、僕はフィリアが寝かされている、2階にあるフィリアの部屋に行ってフィリアを起こした。
「うん、大丈夫だよ……今度からは味見しようね」
「うん……」
ベットの上でしゅんとするフィリア。どうにかして励まさないと……
「ま、また食べにくるから! 近いうちにさ! その時にまた作ってよ!」
「ほんと……!?」
顔を上げて一気に明るい顔になるフィリア。よし、これで大丈夫……
「じゃあ、晩ご飯がてら泊まっていって貰えばいいにゃ! お泊り会にゃ!」
「「フォンセ!?」」
唐突に部屋の扉を開けて、とんでもない提案をするフォンセ。いや、まさか……フィリアの家に泊まるなんて……
「別に嫌ならいいにゃ〜。嫌なら仕方ないにゃんね〜♪」
その言い方は卑怯だろ! ニヤニヤしながらこちらをしてやったりという顔で見てくるフォンセ。フィリア、どうにかしてくれ……
「ラルク……嫌、なの?」
その言い方は卑怯だろ! いや、いくら上目遣いで言われたって、流石に二人きりで泊まるのは……
「「どっちにするの(にゃ)?」」
ぐっ……上目遣い……その言い方は卑怯だろぉぉぉぉ!
「はい、泊まらせていただきます……」
フォンセの思惑にはまってしまったフィリアと僕。一体どうなってしまうんだ────!?
変人筋肉の次に描きたかったキャラ、猫耳メイド参戦!!
次回、ドキドキお泊まり会。
もう少しほのぼの回が続きます。




