第七十六話 神龍の翼【第三章プロローグ】
第七十六話! 第三章プロローグです!
「悪気は無かったと言えば嘘になるが許してくれ!!」
王都の近くにある国内最大の平原『ファイルガリア平原』で、僕たちがなんとなくいい雰囲気で話しているところに割り込んできた……というか殴り込んできたSランクパーティー『神龍の翼』。
そのパーティーのリーダー……及び割り込みの主犯格であるSランク冒険者であり、僕が試験を受ける予定の王立ファイルガリア学園の学園長である女性・フィーズさんが、僕たちの目の前で……
「実際、悪気がなかったと言えば嘘になる! ただ、イチャコラしてるのを見てつい体が勝手に動いてしまっただけなんだ! この通りだ許してくれ!」
清々しいまでの土下座を決めながら、許される気があるのかと疑ってしまうほどの馬鹿正直な謝罪をしていた。
「大丈夫ですよ。しっかりとお仕置きされてくれれば」
そう言いながら、土下座しているフィーズさんのことを普段のほわほわした雰囲気からは想像もつかないほどの冷徹な目つきで見下しているのは、僕の幼馴染であり最強格の固有スキル『剣聖』を持つフィリアだった。
というかフィリア、相当ご立腹だな……。こうなったら、僕にはもうどうすることもできない。頑張れフィーズさん。
「フィリア! 頼む……どうかお仕置きだけは! それだけはやめてくれ! アルトのあれは地獄なんだ!!」
「地獄とは失礼な。ただ、物質どころか時間の概念さえもない真っ暗な空間に閉じ込めるだけでしょ?」
涼しげな顔でサラッとえげつないことを告げる、白色の髪をした16歳くらいの風貌をした女の人はアルトさん。フィーズさんと同じSランク冒険者らしい。
「それが地獄なんだ! 頼む許してくれもう嫌だ!!」
「でも〜。そこまでして懲りないフィーズも悪いよね〜」
「だめだ私の味方がいない!!」
ドラゴンの上に乗りながら無慈悲に呟くのはシェイラさん。この人もSランク冒険者であり、その小人族特有の低い背丈と子供っぽい顔、栗色の髪の毛という可愛らしい容姿なのに、3体のドラゴンを従えている実力者だ。
そしてこの3人のSランク冒険者達……序列3位『神出鬼没』のアルト、同じく序列2位『小悪魔』のシェイラ、そして冒険者内で最強の序列1位、『前人未踏』のフィーズの3人からなる最強のパーティーが『神龍の翼』なのだが……
「フィリア……あのさ」
うん、なんて言えば良いんだろう。引き連れている魔物とか、話の内容とかは常識外れなのだが……
「ラルク、言いたいことは分かる、分かるよ。私も最初に会った時は同じこと思ったから」
「だよね。なんかさ……」
「「思ってたより普通」」
「「「それは気にしてるから言わないでっ!!!」」」
果てしなく続く広い平原に、『神龍の翼』の3人の息ぴったりなツッコミだけがただ響き渡った。
その後『神龍の翼』はギルドに用があったらしく、必死の形相で許してくれと訴えるフィーズさんを連れて、ドラゴンに乗って王都へと戻っていった。
あの人たちが帰った後、僕とフィリアは今度こそ2人きりで色んなことを話した。『武芸百般』が実はすごいスキルだったこと、迷宮氾濫が起きたこと、ブラックオーガと戦ったこと……
もちろん、僕の話だけじゃない。フィリアと王都で色々とあったみたいだ。王様と謁見したり、貴族達の集まるパーティーに呼ばれてナンパされたり、それを全員返り討ちにしたり……とにかく、互いにとても濃い3ヶ月間を送っていたみたいだ。
そんな風な他愛もない会話の途中、僕が王都に来た経緯を話していた時のこと……
「そう言えば、ラルクはなんで王都にきたの? 観光?」
「残念ながらうちにそんな余裕はないよ。冒険者ギルドからの推薦で、学園の入学試験を受けに来たんだ」
「えっ!? 学園って……王立ファイルガリア学園!?」
王都の学園といえばそれだからね。でもどうしてそんなに食いついてくるんだ?
「そうだけど……どうしてそんなに驚いてるの?」
「いや、だって……私もそこ、通う予定だから」
「えぇ!?」
次代『剣聖』なのに!? 学園で学ぶことなんてあるのかな……剣術ではあんなに強いのに。
「え、でもさ……フィリアの師匠にはグレアさんがいるんじゃないの?」
「ああ、ちがうちがう。私が通うのはちょっと特殊なクラスらしくて……戦闘訓練、っていうよりダンジョンとかに潜る実践が多いクラスなんだって。あとは人との関わりも持っておいた方がいいから」
なるほど……でも、僕が聞いた限りだとそんな話はウォードさんからされなかった気が……
「なんて名前のクラスなの?」
「名前……というか、クラス的にはSクラスって呼ばれてるらしいよ。公にはされてないらしいけど、毎年何人かがそのクラスに移されるんだって」
へぇ。Sクラス、かぁ……名前からして、多分Aクラスの中でもトップクラスに強い人が入るところなのかな? 僕も行けるか分からないけど、もしその機会があったら……フィリアと同じクラスになれたらいいな。
「ラルク、私たち同級生になるんだね!」
そう満面の笑みを浮かべながら言ってくるフィリア。そんな顔されたら、絶対に入学試験に落ちられないじゃないか。
「うん……頑張って受かるよ、入学試験」
僕はフィリアの方をまっすぐ向いて、そう決意を述べるのだった。
ちなみに……フィリアのレベルはまだたったの20くらいらしい。本当に『剣聖の加護』って強いスキルなんだな……!
side:フィーズ
私以外何も存在しない、アルトが固有スキル『空間操作』で生み出した真っ暗な場所。そこでは時間が緩やかに流れ、疲労も空腹も眠気も感じない、自分の体に干渉することさえできない……という、恐怖の空間だった。
(人は3日間暗闇に放置されると狂うってこと知らないのかな、アルトは)
もう体感では1週間くらい経った気がするのだが。しかしここから出た時にはきっと現実空間の方では2、3時間くらいしか経っていないのだろう……本当、私じゃなければ狂っているところだ。
いつもなら1週間もすれば退屈で死にそうになるのだが……
(フィリアと一緒にいたあの子供……強い)
私はこの1週間の間、ずっとあの少年のことを考えていた。
私には固有スキルではないある特技のようなものがある。それは、人の潜在的な強さ────その人がどこまで強くなることができるか────を、直感である程度見抜けるというものだ。この特技のおかげで優秀な人材を集め、国内屈指の学園の長まで上り詰めたわけだが……
恐らく、あの少年はまだまだ化ける。
私が28年の人生の中で、『潜在的な強さでは勝てない』と直感した人間はたった5人。『最強の剣聖』ホープ・グロウハート、『希望の勇者』アルス、『賢者』エフィロス、『剣聖』グレア・グロウハート、……そしてあの『剣聖』の少女、フィリアだ。
彼らに共通していたのは、その圧倒的な強さやスキルを最大限に活かしきっていること。だから、歴史に名を残したり、周囲から期待されたりしている。
しかしあの少年は違った……彼はまだ目覚めていない。いや、厳密にいうと……目覚めた形跡はあるが、封じ込めているのか……?
(まあどちらにしろ……彼は、『候補』だな)
あの少年なら、きっと参加させてもいいだろう。私の学園の最高峰であるSクラスに……
第三章はやっっっっっと学園編の予感……!?
明日中に活動報告に第三章開始時点のキャラ設定を載せておきますので、よかったら見ていってください!!
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