第六十九話 偽りの剣聖
第六十九話! すみません、過去回は次回からです……前回の後書きで嘘つきました。すみませんでした。
side:フィリア
全身が痛い。土埃が舞う中、全身を鱗に切り裂かれ出血が止まらない。師匠に教わった通り致命傷になりかねない所は出来る限り弾いたけど……
(ダメ、意識が……)
これは……多分、魔力酔いだ。魔力をあまり持たない人間に強い魔力を当てた時に起こる症状……恐らくあの鱗に結構な量の魔力が込められていたんだろう。
もし、あの無数の鱗一枚一枚に同等の量の魔力が籠められていたとしたら、魔法の撃ち合いなんてしたら勝てる訳がない……。かと言って近づくのは危ない。せめてラルクだけでも逃げてほしい……!
それをラルクに伝えなくちゃ……そう思ったが、既に意識の飛びかけている私の口から出たのは途中までだった。
「危ない、よ……」
『逃げて』。その言葉が出なかった。それを言わなければきっとラルクは、昔みたいに無茶をしてでもファフニールから私を守ろうとする。どうにかして、言わなくちゃ……しかし、その言葉が届くことはなかった。
「大丈夫。僕が絶対に守るから」
そう言いながらファフニールに向き直り、飛んできた鱗を焼き払うラルク。……また、私は守られることしかできないみたいだ。なら、せめて……
「……がんばれ……ラルク」
その声が届いたかは分からないまま、私の意識は途絶えた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
……何かが弾けるような音がする……もう夜だと言うのに、あたりが明るい……気持ちが、悪い……そうだ。今は確か戦いの途中で気絶して……
「……ラルク!!」
ラルクは無事だろうか。私は意識を覚醒させて立ち上がる。全身に痛みがまだ残っているが、そんなことはどうでもいい。焦りを覚えながら辺りを見渡すと、すぐにそれは見つかった。
そこには、既に死んでいるファフニールと酷い出血で倒れているラルクがいた。それを見て私の中に、最悪の未来がよぎる。底知れない恐怖を感じて、私は体の痛みなど忘れたようにラルクに走って駆け寄る。
「ラルク! 大丈夫!? 私のせいで……ラルク……!」
息は……大丈夫、まだある。致命傷……は、ない。が、しかし出血の量が多い。このままではいずれ失血死してしまう。病院はこんな状況で開いているわけない。一体どうすれば……!
(……王宮! あそこなら上位の治癒士がいるはず……!)
王宮には騎士団直属の治癒士がいる。そこまでいけばラルクを治して貰える!
(ラルク……もう少しだけ頑張って! 絶対に死なせないから!)
私は体の片側にラルクを担ぎ、開いた片手で剣を握って王宮に向けて駆け出した。迫り来る魔物を切り捨てながら、ただただ走った。ほんの十数秒の間に、何十体もの魔物を切り裂いた。これなら間に合う……そう思っていた。
『その音』は突然あたりに響き渡った。進行方向から聞こえてくる、何かが爆ぜたような音。最短距離で王宮に向かうため、私がその音を気にせず走っていくと、そこには……
「出来るのか……偽りの剣聖のお前に!」
「何故貴様がそれを知っている!」
「『魂』の記憶……心に刻まれた過去……それを読んだだけだ。さあ来てみろ! 『剣豪』グレア!!」
信じられないことを口走る異形の魔族と、それを否定することで肯定する師匠の姿。その衝撃の光景に、思わず声が零れる。
「師、匠……?」
まずい。敵に存在を気づかれる……そう思った時には、既に遅かった。ラルクを逃がそうとした瞬間、それを遮るように信じられないほどの速度の拳が飛んでくる。それが目の前の魔族の攻撃だと気づいた時には、既に防御不可能だった。
(せめて、ラルクだけでも……!)
私は抱えていたラルクを乱暴に横に投げ捨てる。この攻撃をもろに喰らえば、きっと私は……ごめんなさい、師匠……ラルク……
「フィリア!」
私が諦めようとした瞬間、攻撃とは違う衝撃を感じ、私の体は真横に吹き飛ばされる。そして代わりに私が立っていた場所に居たのは……
「師匠!!」
私の代わりに攻撃を……! 普通の人では知覚さえできぬほど一瞬の出来事。当然、満足な防御などできるはずもなく……
「が、あぁ……!」
師匠の体は紙切れのように吹き飛ばされ、いくつかの石造りの建物を貫通した後地面に叩きつけられた。
「師匠ぉぉぉ!!」
私はすぐに助けに向かおうとするが……
「遅いぞ、小娘」
「何っ……ぐあぁっ!」
それよりも速く私の目の前に奴が回り込んできて顔を掴まれて押し倒され、私の体は背中から地面に叩きつけられた。奴は私の背中を掌で押さえつけ、動けないようにしながらこう告げる。
「折角『剣聖』相手にこの力の確認をしていたと言うのに……お前の乱入で興が冷めた。その代償、魂で償ってもらうぞ?」
私は脱出しようともがくものの、背中を押さえつける力が強すぎて出られない。骨の軋む音がして、今度こそ私は殺されるのか……と、理解する。すると、心の底から悔しさと悲しさが溢れ出してきた。
「私を殺したところで……私の師匠が……『剣聖』グレア・グロウハートが! 必ずお前を倒す!」
その感情に任せ、私は声を張り上げる。願望にも近いような未来。この絶望的状況下からは想像できないような結末。それに縋るように、私は声を張り上げる。
きっと、『剣聖』の師匠なら。私と同じ、『剣聖の加護』を持つ師匠なら……その憧れるほどの強さに縋るように。
だから、奴のその宣告は、私の胸に深く突き刺さった。
「そんなに『師匠』を信用しているのか……ならば、冥土の土産に教えてやろう。お前の師匠は『剣聖』などではない……奴の固有スキルは『剣豪』。希少とはいえ、『剣聖の加護』には遠く及ばぬスキルだ」
……嘘だ。そんなわけが無い。だって……
「信じられない……という顔をしているな。ならば教えてやろう。『剣聖』……いや、『偽りの剣聖』グレア・グロウハートの過去を」
そう言って、奴は俄かに信じられないような師匠の過去を語り始めたのだった。
次回、今度こそグレアの過去が明らかに……
最後の方を少し編集しました。話に大きな影響はありません。




