第六十八話 『適合者』
第六十八話! 剣聖グレアvs覚醒ドーヴァです!
side:グレア
「……貴様、さっきの言葉はどういうことだ……?」
さっきの奴の言葉。『王』の魂? やっと見つけた? 『適合者』? 訳が分からない……さっきの瘴気で狂ったか?
「お前如きが知らんでいい……ここで死ぬのだからな! そろそろ魂も溜まってきた頃だ。まずは手始めに、大事な弟……ヴァイスの元へお前を送ってやろう! 『剣聖』!!」
何故奴が私とヴァイスの関係を知っているのか……そう驚くよりも前に、私の中に沸いた感情は『怒り』だった。
「貴様の汚れた口で……ヴァイスの……弟の名を呼ぶなぁぁ!!」
「何を言っている? ヴァイスとやらを見捨てたお前が……」
「知ったような口を聞くなぁぁ!! 消えろ、『紫電一閃』!!」
何が起きているんだ、一体……!? 私は訳が分からなくなり、奴に突っ込んでいく。そしてその直後、自身の過ちに気づく。
(……っ!? 私は一体、何をしている!? 無策で敵に突撃するなど……)
「自ら捨てた弟に囚われているとは……滑稽だな、剣聖! 【魂壊衝】!」
まともに攻撃を、食らってしまう……そう思った次の瞬間には、私は既に吹き飛ばされていた。
(早すぎる……っ!?)
まさに一瞬。冷静さを欠いていたとはいえ、私が反応できないほどの刹那。たったそれだけの間に、私の体は王都上空まで吹き飛ばされた。ほぼ本能的に防御したものの…….殺しきれなかった衝撃が遅れてやってくる!
「……っぁあ!!」
体が砕け散りそうなほどの威力。さっきまでとは比にならないほどの圧を感じる。この強さ、SSランクなど比ではない……!
(これは……非常にまずい!)
私が飛んでいっている方向。その方向にあるのは……王城。今は騎士団が守護しているだろうが、あんな化け物を向かわせてしまってはまずい!
「くははははは!! これが……『適合者』の力! 力が溢れ出してくる!」
もう追いついてきている……だと? 本当に何なんだ、この化け物は!?
歩けば5分はかかるであろう距離を一瞬にして跳躍する膂力。人間の反応力が間に合わぬほどの速い攻撃を繰り出す瞬間的な機動力と筋力。完璧に攻撃をクリーンヒットさせる瞬発力。
そして……まだこれは推測の域だが……奴自身の、魔物や人間の魂を使用して魔法を発動する能力の『固有スキル』。どれも厄介すぎる……
(しかし……ここで引くわけにはいかない!)
私は『剣聖』。王国を守る盾であり、国に害を及ぼすものを穿つ矛。だからこそ私には、今ここでこいつを倒す責任がある。私は空中で剣を振り、その反動で地面に向かって落ちていく。
「次は私の番だ! 『反撃』!」
『反撃』を使いつつ地面にオリハルコン製の剣を打ち付け、強引に着地の勢いを反転させる! そしてその勢いのまま奴に向かって吹き飛んでいく。
「向かってくるか『剣聖』! 面白い……【魂成強化】! 喰らえ!」
奴の拳が振り抜かれ、こちらに向かってくる。それに私は剣で応える。
「舐めるな! 『居合・剛の型』!!」
剣を振る瞬間の『剣筋の強さ』に特化した『居合・剛の型』。とっくに音速など超えた2つの攻撃が衝突し、あたりの空気が揺れた……いや、割れた。
常人ならそこから落ちたら形も残らぬであろうほどの高さにあるにもかかわらず、地上の人々がその衝撃音に釣られて空を見上げるほどの轟音がした……
(嘘だろう……!? そんなこと……あるはずがない!)
そう。奴は、オリハルコン製の剣を持った『剣聖』の一撃と、拳一つで互角に打ち合ったのだ。
それでも驚愕に値するというのに、奴は現在進行形で私の剣と競り合っている!
(負ける……かあぁぁぁあ!!!!)
もはや意地にも近い思いで、私は振り抜く剣にさらに力を込める。それが功を奏し、なんとか奴を地面へと叩き落とす!
地面に叩きつけられた相手を追うように、私もすぐ地面に着地する。しかしながら、予想外というべきか……いや、もはや予想通りというべきか。
「やはりその名を与えられただけはあるようだな……『剣聖』!」
ほぼダメージは通っておらず、打ち合った右の拳から魔族特有の赤紫色の血が出ている程度だった。
奴は着地した私に一瞬で近づき、尋常ではない速度の連撃を叩き込んでくる。私はそれを捌きつつ反撃の機会を窺うが……ダメだ! 攻撃が途絶える気配すらない!
「やはりこの体はいい! 実にいい! 全力で魔法を使おうが、全く『反動』が来ないぞ!」
そう声高らかに笑いながら言う姿をみて、私の中に言いようのない嫌悪感が走る。
「貴様……その力を得るため、どれだけの人を殺した!!」
昂る気持ちを抑えながら続く攻防の中、私はやっと奴が見せた一瞬の隙を見逃さず力を込めて攻撃を弾き返して奴の顔を剣の腹で打ち、怯んでいる間に距離を取る。
「ほう……流石だな、『剣聖』。やはり力押しでは勝てぬか……」
普通の魔族なら頭が破裂するほどの一撃を叩き込んだというのに、こめかみから血が垂れている程度のダメージ。やはり奴の防御力は異常だ……
「もう一度問おう。貴様のその力……私と互角に打ち合うために、一体どれだけの人を犠牲にした?」
恐らくだが……とても胸糞悪い予想だが、もし私の考えが正しければ、奴の固有スキルの能力は……
「気づいていたか。その通りだ……私の固有スキルは『魂奪』。その名の通り魂を奪い、自らの糧に変える力……虫けらが我らの役に立てるのだ、何をそんなに怒っている?」
虫けら……だと? こいつは人を……人間の命を、なんだと思っている? 再び心の底から怒りが湧き上がってくる。
「弟も有効活用してやるから安心しろ。お前と共に、未来永劫我が僕として使ってくれる!」
「黙れ! 貴様にその未来はない! 今ここで私が貴様を討つ!」
「出来るのか……偽りの剣聖のお前に!」
偽りの、剣聖……その名で呼ばれたのは久しぶりだ。そのはずなのに、何故……
「何故貴様がそれを知っている!」
「『魂』の記憶……心に刻まれた過去……それを読んだだけだ」
まさか、あの魔法陣で生命力を吸い取る時に……なんて胸糞悪い能力なんだ!
「さあ来てみろ! 『剣豪』グレア!!」
やめろ。その名で呼ぶな……私は……
「師、匠……?」
その不安げな声が聞こえた瞬間。私は悟った。今の話を聞かれていたのだ……と。一番聞かれたくなかったはずの人に……
「フィリア……どうして、ここに」
私の弟子であるフィリアに、私の『嘘』のことを聞かれてしまったことを。




