第六十六話 守る約束と戦う覚悟
第六十六話! フィリアが大ピンチ……!?
ファフニール……あいつは、フィリアを殺そうとした。当たり前だ。これは殺し合いなのだから。命を賭している戦いなのだから。
それは分かっている。しかし、僕にはどうしてもそれが許せなかった。
『貴様に絶望を与えてやろう……来い』
ああ、言われなくてもそうするさ。僕は『無詠唱』で【フレイムメテオ】を10連続で発動する。
「食らえ」
上空から降り注ぐ、およそ100個の火の玉。ファフニールはそれを見上げ、鼻を鳴らしながら蔑むように嗤う。
『この程度か? 随分とまぁ……少ないな』
その言葉とともに、奴の周りにも100個ほどの魔法陣が生み出される。そこから氷塊が形成され、降り注ぐ火の玉を全て相殺する。だが、それは想定内。本当の狙いは、こっちだ……!
「ああ、この程度で十分だ。お前の気を引くならな」
そう言って、僕は『電光石火』を発動し、一瞬で奴の横を通り抜ける。さっきから見ていて分かったことだが、奴は魔法の発動前に魔法陣を出している。
魔法において魔法陣を使うメリットは、魔力の消費を抑えられる点だ。奴は何らかの理由で、魔力の消費を抑えている。
対してそのデメリットは、魔法の行使が二度手間になってしまうということだ。普通なら詠唱→発動で済むところを、詠唱→魔法陣展開→発動という手間が加わる。つまり……
「お前は、『電光石火』に対応しきれない……違うか?」
この隙に、なんとかフィリアを安全な所まで連れて行く! これならなんとか間に合う……
『小賢しい! 【龍鱗・追躡】!!』
くそっ! また鱗を飛ばして攻撃してきた! 迫り来る鱗に向けて『隕石砲』を使い、なんとか吹き飛ばそうとするが……
「避けたっ!?」
まるで意思を持っているかのように、その鱗はとてつもない速さで飛んでくる大岩を避けた。
そしてそのまま僕に突っ込んできて……
「ラルク! 危ない!!」
『死ね!!』
(『衝撃』!!)
人間の反応速度では間に合わないほどの間。予想外の動きをした鱗が飛んでくる刹那。僕はまた無意識に、『衝撃』を発動していた。
『反応した……だと!?』
「あっっぶない! でも、これなら……」
危なかった……もし『武芸百般』LV3の効果がなければ、今頃無惨に全身を切り刻まれて死んでいた……でも、ちょうどファフニールの意表をついた動きをした今なら!
「『空中歩行』からの『縮地』!! ここだっ!!」
僕はそのままフィリアに向けて、空中で踏み込む。そして……
「『跳躍』っ!」
『なんだその動きは!?』
奴の予想外の位置から、フィリアに向かって一気に吹き飛ぶ! そしてその勢いのままフィリアを抱きかかえ……
「スキル複合発動『跳弾』!」
『受け流し』『受け身』『縮地』『反撃』を複合発動し、その場から一瞬で離れる。なんとかフィリアを救出できたみたいだ。
「ラルク……私は、大丈夫だから……」
そう言って強がるフィリア。しかしその全身には無数の切り傷を負っており、所々から結構な量の血が出てきてしまっている。このまま放っておけば、すぐとは言わずともいずれ失血死してしまいかねない。
「喋らないで。ここで休んでおくんだ。ここは僕が何とかする」
「危ない、よ……」
そんなの百も承知だ。それでも……
「大丈夫。僕が絶対に守るから」
あの日の約束を、僕はここで守り抜く。フィリアを地面に降ろして寝かせ、ゆっくりとその不安気な瞳に背を向ける。
そして、まだ僕を追ってきていた金色の鱗を……
「【ブレイズウォール】」
一瞬で焼き焦がす。もう退けない。僕の後ろには、フィリアがいる。
『斯様な荷物を背負ったまま……我に勝つつもりか?』
今までの戦いは、王都のために……顔も知らない、王都に住む人たちのために戦っていた。でも、今は違う。
「ハンデ? 何を言ってるんだ、ファフニール」
今は、たった1人の幼馴染のために戦おう。心から護りたい人のために、戦おう。
「ここからが本番だ。やっと戦う覚悟ができた」
そう言って、僕は一歩前に出る。ファフニールは蔑むような冷笑を浮かべながら僕を見下ろし、こう言ってくる。
『覚悟……? 笑わせてくれるな。そんなもの、戦いにおいてなんの役にも立たんわ! それとも、実力でこの我に敵うとでも?』
確かに、何の意味もないかもしれない。正直、まだ勝ち筋も見えていない。でも僕はもう、覚悟を決めた。彼女を守るためなら、奇跡だって起こして見せる。
「勝ってみせる。お前はここで僕に負けるんだ」
その龍の顔を真っ直ぐに見上げて、僕はそう宣言する。それが、僕と奴が再戦の前に交わす最後の言葉となった。
『……消えろ。【龍鱗・千牙】』
「【ファイアボール】……50連!!」
無数の弾幕はそれぞれ衝突し、あたりに衝撃と爆発音が響く。
開幕の合図には余りにも大きすぎるその轟音と共に、戦いは最終局面に突入した。
果たしてラルクに勝機はあるのか……次回、ラルクVSファフニール最終局面です。




