第六十三話 姉として
第六十三話です! 時は少し遡り、シュヴァルツが『生魔変換』を発動した頃────
side:グレア
(ヴァイス……! 逃げろ……)
私は生命力が急激に吸われている間、ヴァイスとドーヴァの戦いをただ魔法陣の中から見つめることしか出来なかった。
ヴァイスは恐らく、『生魔変換』を使っている。そのおかげでドーヴァと互角に渡り合えてはいるが……このまま戦えば、ヴァイスは確実に命を落とす。
このままでは生命力が失われていくヴァイスが不利……そう思った、直後のこと。
ヴァイスがドーヴァに、見ただけで高威力とわかるほどの魔法をゼロ距離で叩き込んだ! ……しかし、ドーヴァは倒れなかった。ヴァイスはその魔法を打った反動で身動きが取れなくなり、地面に伏している。
そんなヴァイスにドーヴァはゆっくりと近づき……ヴァイスを、甚振り始めた。
「やめろ!!!」
魔法陣の中からそう叫ぶが、その声で奴が止まることはない。ヴァイスを蹴り、殴り、踏みつけ……殺さないよう、痛みを与え続けている。
それを、私は見ていることしかできない。結局、4年前と同じようにヴァイスを助けることはできないのか……!? そう、自分の無力さを心の内で嘆く。
ヴァイスを助けようと幾度も魔法陣を斬りつけるが、傷一つつかない……ついに自分の生命力も危うくなってきたことを感じ、諦めそうになった寸前。私はある変化に気づく。
ドーヴァが、何らかの魔法を詠唱している……!?そしてそれと同時に、魔力が奴の元へと集まっていき、こちらの魔法陣に込められた魔力量が減り始めた。
(これなら……斬れる!!!)
そう感じた私は咄嗟に剣を構え、スキル『魔法斬』で魔法陣を破壊する。弱体化したものなら、斬ることは容易い。
これで私も戦える!! 私は剣を構え、魔法の詠唱を終え巨大な火球を作り出している奴に向かって走り出す。奴の足元には、全身血塗れで既に意識の消えかかっているヴァイスが横たわっているのが見える。
……結局、私は助けられなかったのか……ヴァイスに、姉として何もしてやることが出来なかったのか……
そんな私の気持ちを見透かしたのかわからないが……倒れているヴァイスの口元が、微かにこう動いたのが見えた。
『おんがえしです あねうえ』
ヴァイス……私はお前に、何もしてやれなかった。立派な姉では無かった。自分の嘘を突き通すため、お前を見捨てた!!
それなのに……それなのに、まだ、お前は私を『姉上』と呼んでくれるのか? 私は、お前の姉でいてもいいのか?
もし、それが許されるというのなら。今は『剣聖』としてでなく……たった1人の大切な弟を奪われた姉として……奴を、倒す。
「……貴様は……もう、許さん」
ヴァイスを傷つけられた怒りを……たった1人の大切な弟を、また守れなかった自分への怒りを込め、思い切り奴をその火球ごと切り裂く!!
「しまっ……があぁぁぁぁ!!!!!」
体を真っ二つに裂かれ、奴は地面を痛みでのたうち回る。あたりには赤紫色の鮮血が舞い、奴の肉が焦げた臭いが充満している。しかしそんな重傷を負いながらも、奴はまだ生きている。
上級の魔族は生命力が桁違いに高く、体を二つに切り裂いた程度では死なない……
私はすぐにトドメを刺そうと、奴に向かって思い切り剣を振り下ろす。しかしその瞬間、あたりに謎の男の声が響く。
『支配魔法【ハザードオーバー】』
その直後。ドーヴァの心臓部分から黒い瘴気が溢れ出し、その真っ二つに割れた体の中に流れ込んでいく。
「ぐぉぉぉぁ!! ワタシは! 我が! 王のためにぃぃぃ!! このっ……苦痛をぉぉぉ!!」
奴が訳の分からないことを大声で口走りながら絶叫する。今、目の前で起こっている現象がなんなのかわからない……だがとにかく、放っておいてはまずいということだけは私の本能が訴えかけてきている。
私はすぐに剣を構え、瘴気ごと奴を斬り伏せようとするが……
(なんだこれは……効いていない!?)
密度の限りなく高い瘴気が防御魔法のような役割を果たしており、私の剣はいとも容易く弾かれた。そしてそれと同時に、奴の周りに漂う瘴気が奴の体に取り込まれた。
何が起こるかわからないため、一旦間合いを取る。少しずつうっすら残っていた黒い瘴気も晴れてきて、その向こうに立つ奴の姿が露わになる。
そこには、今までとは全く違う姿────大人2人分はあろうかという紫色の巨軀に、尋常じゃない量の筋肉。そして、頭から生えた2本の大きな角────まさしく、魔族の姿をしたドーヴァが、そこに立っていた。
ドーヴァはさっきよりも低い……しかし、高らかに笑うような声でこう叫ぶ。
「ははは……くはははは!! 我が王よ! これほどの力……私に与えて下さったこと、心より感謝いたします!! まずはこの『適合者』の力で、目の前の剣聖を葬ってやりましょう!!」
そう言った奴の体から今までとは比較にならない量の魔力反応を感じる。
(…………!! まずいっ!!)
私は咄嗟に後ろに跳躍し、その場を飛び退く。その直後、私が立っていた場所に火柱が上がり……石畳の地面を焦がした。
なんて馬鹿みたいな出力だ……! そう戦慄する暇もなく、奴は立て続けに次の魔法を発動する。
「ははははは!! 今の私ならあの魂も従属させられる……! 出でよ、【霊魂召喚・強欲なる金龍】!!」
詠唱を終えた瞬間、奴の目の前に巨大な魔法陣が形成され、そこから這い出すように一体の魔物が出現する。
金色の龍の鱗に身を包んだ、人よりも遥かに大きな大蛇。黄金色に光るその体は鞭のようにしなやかで、全長はゆうに大人4人分を超えている。
そのいやらしい戦い方と、高い知能を利用しあらゆる手段で勝ちを得んとするその性格から、目の前の魔物……Sランクの中でもブラックオーガとは比にならないほどの強さを持つ、最もSSランクに近い魔物は、こう呼ばれている。
【強欲なる金龍】────ファフニール。
そして、それを従える異形の魔族・ドーヴァ。これを相手するのは……私でもかなり難しい。生命力が結構吸われている今の状況で、この2体に勝ち目があるのか……? そう、私が不安に思った時だった。
住宅街の向こうの屋根の上に、2人の人影が見えた。それはどんどんこちらに近づいてきて……私に、こう叫んだ。
「師匠! 私も加勢します!!」
「グレア様! 僕も加勢します!!
その2人は、先日ギルドで出会った子供と、私の弟子であるフィリアだった。
次回からラルク視点に戻ります!




