第六十話 物情騒乱の王都
第六十話です!フィリアの実力やいかに……
「ラルク、遅くなってごめんね? あと……久しぶり!」
凛とした声でそう僕に告げるのは、『剣聖』らしき出立ちをしながら長いピンク色の髪を後ろにくくった幼馴染……フィリアだった。
「フィリア! 久しぶり……って、そんな場合じゃないよ! 何が起こってるんだ!?」
「わからない……けど、師匠から住民の避難と保護を任せられたからきたの! ラルクも今のうちに逃げて!」
フィリアも何があったのかわかっていないのか……というか『逃げて』って、こいつらを1人で相手できるのか!?
「フィリア! 僕もやれるから一緒に戦うよ!」
「ブラックオーガはSランクだよ! 5体にもなると私は食い止めるので精一杯だから、早く!」
「まあ見てて! 『分身』からのスキル複合発動……『跳弾特攻』!」
僕は再出現させた20体の分身達とともに『跳弾特攻』を発動する。ちなみに跳弾とつけたのはさっきの壁を蹴って再加速する動きを付け加えたからだ。
計21発の肉弾があたりに飛び交い、ブラックオーガ達にダメージを与える。これならいけるか? と思ったが、しかし……
『『『『『グォォォォォン!!』』』』』
まずい! あの足をすくませる咆哮が来た! スキルが強制的に解除され、分身たちは消えて僕は着地に失敗し、反動で動けなくなる。
そんな状態の僕を見逃すはずがなく、ブラックオーガたちは僕に近づいてくる。このままじゃ袋叩きになる……と思ったが。
「こっちも忘れないでよ! 『螺旋斬り』!」
フィリアがブラックオーガを背後から5体一気に斬りつける! その剣筋に沿って黒くて鉄のように硬い皮膚は切り裂さかれ、その場にいるブラックオーガたちは全員背中から血飛沫を上げた。
「フィリア! ありがとう!」
「ラルクこそ! ダメージが入ってたから斬りやすかったよ!」
僕はそう言いながら立ち上がり、再び戦闘態勢をとる。5体のブラックオーガも、背中に大きな傷を受けて動きが鈍っている。ならば……
(スキル複合発動、『無詠唱』『魔法強化』からの……上級光魔法【サンクチュアリ】!)
そこに向かって、現在僕が放てる中で対魔物では最大威力の魔法を放つ。すると……
「「「「「グ、グォォォォォォン!!」」」」」
5体ともHPが削り切られたのか、倒れて動かなくなってしまった。なんとか勝てた……!
「ラルク! 魔法も使えるの!?」
「うん、色々あったんだ。フィリアもブラックオーガを斬れるなんて、攻撃力高すぎでしょ……」
さすが『剣聖の加護』。強い。そうやって勝利の余韻に浸っていたのも束の間、僕らの近くになんの前触れもなく謎の魔法陣が形成され、そこから大量のBランク相当の魔物が出てくる。
「なんだこれ!? これが大量発生の原因!?」
「分かんないよ! でもとりあえず全員倒そう、ラルク!」
「了解! 『分身』っ!!」
僕たちは大量発生の原因を探る前に、まずは目の前の大群の相手をすることにした。
side:『剣聖』グレア
それとの邂逅は突然だった。私は黒幕を探し、王都をくまなく探していた時のことであった。
「「「「「グォォォォォン!!!」」」」」
フィリアを住民の保護と避難に送り出した後、私の目の前に突如魔法陣が現れ5体のブラックオーガが出現したので……
「今は貴様らに構う暇はない────消えろ」
そう言って、抵抗させる暇も与えず5体とも真っ二つに切り裂いた直後のことだった。
「見事な剣捌きですね、『剣聖』グレア殿────やはり、直々に手を下しにきて正解だった」
背後から突然、落ち着いた……そして、殺気の篭った男の声が聞こえてくる。それと同時に私は何かがまずいと直感し、一瞬で立っている場所から距離をとった。
するとその直後、そこの地面は凄まじいほどの熱に当てられ溶けてしまっていた。少し反応が遅れていれば死んでいた────私は思わず戦慄してしまう。
「ほう、これを避けますか。さすが剣聖といったところだ」
私はその声の主に向き直る。そこには、全身を黒いローブで纏った、老獪じみた……しかし、若い見た目をした男がいた。
なんなんだ、この男は。人間とは思えない……人の命を狙っているとは思えないほど落ち着いた雰囲気を出しながら私に話しかけるその男は、突如気配もなく私の背後に現れ、石畳を溶かすほどの攻撃を放ってきた……恐らく、かなり上位の魔族だろう。
「そんな話より、まずは名乗るのが礼儀という物だろう? まあ、大体の見当はついているが」
まずは少しでも、この男の情報を引き出さねば。その言動から、恐らくだが相手は私のことを知っている……それもかなり正確に。このままでは分が悪い。
そう考えていると、目の前の男はまるで自身の非礼を詫びる召使いのような……戦場には似つかわしくない丁寧な口調で、私に答える。
「おっと失礼……私としたことが、自己紹介が遅れておりました。私の名はドーヴァ……我が『王』の右腕にして、この都を今宵滅ぼす者でございます」
王都を滅ぼす……か。つまり、この男が黒幕というわけだ。ならば、ここで確実に仕留めるまで。
「私も名乗ろう。私の名はグレア・グロウハート。この国の民を守る『剣聖』であり、今から貴様を貫くこの国の矛だ……王都を襲った落とし前は、命で償ってもらおう」
そう名乗りながら、私は腰に下げた剣に手をかける。そしてその直後────私の周りに、急に謎の魔法陣が浮かび上がる。咄嗟にその上を離れようとするが、何かに拘束されたように動けない……!
目の前の男の仕業か!? と思い奴を見ると、目の前の男────ドーヴァは、勝ち誇ったように私に告げる。
「逃げようとしても無駄ですよ。私の固有スキル『魂奪魔法』で、あなたは既に拘束されているのですから」
固有スキルによる拘束か……抜け出すのに手間がかかりそうだ。しかし下の魔法陣は、そのためのものなのか? そう考えた直後、私の体が少し重くなったような感じがする。これは、まさか────!
「そろそろ効いてきたようですね。これはいわゆる弱体化と生命吸収の魔法……あなたのためだけに私が編み出した、特製の魔法ですよ? ぜひ受け取って下さい」
これは────非常にまずい。この魔法、私だけに作用するように作られている。その分魔法が強力になっており、魔法に抵抗することさえ難しい……!
このままでは弱体化され、逃げる事ができずに命を全て奪われて殺されてしまう! なんとか打開策を考えねば……そう、私が焦り始めた時のことだった。ドーヴァの背後から、怒りの篭ったような声が聞こえてきたのは。
「その人を離せ……! 【黒キ獄炎】」
その直後、辺りが燃え盛る黒い炎に包まれ、ドーヴァはその黒炎を魔法で咄嗟に防ぐ。
その向こうに立っていたのは────
「加勢しよう、『剣聖』グレア・グロウハート殿」
私のたった1人の大切な弟、ヴァイスだった。




