表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

58/204

第五十八話 決別

第五十八話! シュヴァルツ過去編、後編です。少し長いですがお付き合いください。

「ヴァイス! 殲滅頼む!!」


「【猛ル黒炎(グランブレイズ)】!!」


 ダメだ! 数が多すぎて全然効いてない!


「効いてません! このままじゃジリ貧です!」


「こうなったら……『魔術解放(マジックリリース)』! 吹き飛べ! ……くそっ! これでも効かないのかつっ……ぐぁぁ!」


「「セイル(さん)っ!」」


 まずい! セイルさんが攻撃を食らって……! 僕とシーラさんは助けに行こうとするが……


「……止まって、ヴァイス。もう、セイルは……」


 何で……!


「「でもっ!!」」


「これ以上、言わせないで。もう、反応が……」


 フィーアさんが噛んだ唇から血が出ている。あぁ、セイルさんは、もう……


「舐め、るな……! みんな離れろ!『暴走機関(オーバードライブ)』ッ!!」


「セイルっ!? 2人とも、後退!」


 そうフィーアさんが叫んだ直後。目の前で大きな爆発が起こる。あの人は、最後まで……っ!


 そのおかげで、少し距離を取ることに成功した。このままモンスターの視界から外れることができれば何とかなるかもしれない……そう思ったのも束の間。後ろからモンスター達の声が聞こえる。


「そんな……半分も減ってない!」


 そこには、全く勢いの衰えていないモンスターの大群がいた。それを見てフィーアさんが僕たちに強い口調で言う。


「『生魔変換』……2人とも、先に帰って増援を」


「無理ですよ! 1人でこんな量と……【黒キ獄炎(ブラックブレイズ)】! まだこんなに残ってるのに!」


 魔法を撃ち込んでも減る気配がない。3人でやれば、まだ何とか……


「……無理、だよ。シーラ、ヴァイスをよろしく。ここは私に任せて」


「フィーア……分かった。 【過剰回復(オーバーヒール)】!」


 その瞬間、僕の体に激痛が走る。気を失いそうになるほどの痛み。僕は倒れ込みそうになり、それをシーラさんに抱えられ……そのまま、持っていかれた。


「フィーアさん! フィーアさん!!」


 僕は動かない体で必死で叫ぶ。しかし、どんどん距離は離れていく。そして、彼女もついに大群に飲み込まれてしまう。


 …………じゃあね。


 最後に彼女の口がそう動いたように見えた。


(嘘だ……嘘だ! こんなの、酷すぎる……)


 僕は途方もない絶望感に襲われる。セイルさんも、フィーアさんも命をかけて戦ってくれた……逃がそうとしてくれた。それでも、止まらないのか。それも、無駄だったのか。そんな感覚が僕を覆う。


 しかし、シーラさんはまだ諦めていなかった。


「……ヴァイスくん、乗り物とか酔うタイプかな?」


「……どうしたんですか、急に」


「このまま逃げたら、2人とも死んじゃうね」


「……そう、ですね。2人には申し訳ないですけど……ごめんなさい、僕のせいで」


 結局、僕は2人の死を無駄にしてしまった。僕が我儘を言わなかったら。僕がもっと強ければ。逃げ延びることができたかもしれない。それなのに……


「じゃあ、今からちゃんと()()()()()()()()()()


「……え?」


 この人は、何を言って……


「魔力、足りるかなぁ……『生魔変換』」


 生魔変換……。自身の生命力を、魔力に変換するスキルだ。でも、何を……まさか。


「……シーラさん、嘘でしょう?」


 僕はある可能性に思い至る。でも、そんなことをしたらシーラさんは……


「これなら君は帰れるよ」


「……そんなの、嫌ですよ」


「私も、もっと一緒にいたかったなあ」


「じゃあ……!」


「でもね、2人もきっと……こうすると思うから。魔力を溜める時間を……作ってくれたんだよ、感謝しないとね」


 少しずつシーラさんが弱っているのがわかる。生命力が少なくなっているんだ。


「ならせめて、シーラさんが!」


「ヴァイスくんじゃないと……意味ないよ……動けないしね、私は……」


 そうかもしれない。でも、それでも僕だけが生き残るくらいなら……


「……あなた達に会えて、楽しかったんですよ。嬉しかったんですよ。まだ、何も返せてないんですよ。だから……っ!」


 あなただけでも、帰って欲しい。そう言おうとしたが、それは被せるように言われたシーラさんの言葉に阻まれる。


「ヴァイスくん……君が頼りなんだよ? ちゃんと……()()()を見つけてね?」


 そう、息苦しそうにシーラさんが言う。もうHPが残っていないんだ。そんな彼女から、シーラさんに生きて欲しいという僕の願いも虚しく、その呪文は紡がれる。


「ヴァイスくん……じゃあね。スクロール起動、【強制転移(テレポート)】」


「待っ……」


 その瞬間、体が浮くような感覚とともに眩い光に包まれる。その光の隙間から見えたシーラさんは……既に息をしていなかった。


 


 その後、僕はすぐにギルドに走って、複数のパーティーと一緒にダンジョンへ潜って……3人の亡骸を見つけた。


 骨を砕かれて、肉を裂かれて、着ているものもズタズタにされて……酷いとしか言いようがない状態だった。そんな3人の亡骸を抱えて、僕はひたすらに泣いた。結局、何も返せなかった。

 後悔の念と、申し訳ないという気持ちと、とてつもない喪失感を吐き出すように泣いた。


 そして、亡骸と遺品を持ち帰って教会に行って、3人のお墓を立てた。そしてギルドで事情を聞かれ、その日はもう帰るように言われたので帰ろうとした……そんな矢先のことだった。


 すれ違った冒険者……僕を虐めていた奴だ……が、僕にこう言った。


「やっと邪魔な奴らが消えたなぁ……また明日からよろしくな?」


 そう言われた瞬間だった。僕の中で何かが()()()。邪魔な奴ら、だって?


「…………おい」


「……あ? なんか文句あるのかよ?」


「……今、あの人たちのことなんて言った?」


 僕は強い口調で問いかける。しかし……


「はぁ? お前怒ってんのか? 珍しいこともあるなぁ!」


 目の前の奴は大声で笑った。何を、笑っている?


「……答えろよ。何て言ったんだ?」


「……あー、面白え。何度でも言ってやるよ。邪魔な奴らが消えてよかったって言ってんだ! で、どうする? やり返すの……ぐぁぁ! 熱い!! あづいぃぃ!!」


 気づいたら魔法を放っていた。目の前のゴミを、さっさと焼き消してしまいたかった。


「てめえ、やりやがったな!? 死ね!!」


 そう言って殴りかかってくるが、遅い。僕は拳を避け、その男の局部に火をつける。


「ぐぁぁぁぁ!!!! いでぇぇぇぇ!!!」


 そう叫びながら転がるゴミに唾を吐き捨て、僕はギルドを出た。




 その日から、ギルドの中で僕のこんな噂が流れ始めた。


『あいつが仲間を見捨てて逃げ出した』


 ……と。僕は、その噂に対して何も反論しなかった。【臆病者】ヴァイスという不名誉な二つ名までつけられた。


 嫌がらせもさらに悪質なものになった。家の前には毎日のようにゴミが置かれていたり、街の人にあらぬ噂を流したり……とにかく、僕を精神的に殺しに来ていた。


 だから僕は王都から逃げ出した。馬車に乗って、できる限り遠くの街へと。そして僕は誓った。次は守られないようにしようと。道化を演じてでも、強いふりをしようとも。


 今までの名前も、経歴も、過去も……全てを捨てて、新しい自分になろうと。だから口調を変えた。名前も変えた。剣も捨てた。


 そして、今の僕……いや、我、シュヴァルツは生まれた。

彼がしたのは、決別……なんでしょうか?




【作者からのお願いです!】


もしよろしければ、下の星からの評価、そしてブックマークの程をよろしくお願いします!励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
https://ncode.syosetu.com/n6670gw/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ