第五十六話 ヴァイス・グロウハート
第五十六話。シュヴァルツ:過去編の前編です。
side:シュヴァルツ
ファイルガリアには、並みいる貴族の中でもとりわけ強い権力を持つ御三家……グロウハート家、クロース家、フォルムス家がある。
我……いや、僕、ヴァイス・グロウハートは【王剣】と呼ばれるグロウハート家当主の妾の子として生まれた。
グロウハート家の中には、他の貴族とは違うある特殊な決まりのようなものがあった。
それは、剣術の腕が高いほど偉いというシステムだ。年齢性別関係なく、弱い者は強い者の命令に従う。それがグロウハート家の教育方針であり、掟だった。
そして僕には、剣の才能がなかった……いや、なかったというと語弊がある。グロウハート家の人間は、基本的に剣才を持って生まれてくるのだ。もちろん、手に入れる固有スキルも剣術系のものだ。
しかし僕には才能がなかった。どれだけ素振りをしても、どれだけ型を覚えても、剣術は人並み程度にしか上達しなかった。だから……
「ヴァイス、お前の小遣いちょっとくれよ」
「えぇ、嫌だよ……」
「いいだろー? 何なら勝負するか?」
「うぁ……わ、分かったよ……」
8歳になってから、僕は兄弟……といっても腹違いなのだが……にはいつもいじめられていた。お小遣いを取られたり、ご飯のおかずを取られたり、理不尽な命令をされたり……そんなことが、日常的に起こっていた。
それでも、僕がその家で暮らしていけていたのは、同じ母親から生まれた姉の存在があったからだった。
「ほう……? なら、私とも勝負をしてくれるのか?」
「げっ……! グレアだ、逃げろっ!」
僕より6歳年上の姉、『剣聖』グレア・グロウハート。僕がいじめられていると、助けに来てくれる強くて優しい姉だ。
「全く……この光景はいつ見ても面白くないな。大丈夫か、ヴァイス?」
「うん……大丈夫だよ、ごめん」
「気にするな、たった1人の同じ腹から生まれた弟だ。大事にするのは当然だろう」
そう言っていつも僕を助けてくれる姉。その優しさに甘えることしか出来ない僕に嫌気がさす。
「……でも、僕は姉さんに何も返せないよ?」
「だから気にするなと言っているだろうに。私がヴァイスを守りたくて勝手にやっているだけなのだからな」
その優しさが、痛い。僕は自分の無力さを呪いながら、毎日の日々を過ごしていたのだった。
そんな日々を過ごして8年、僕は10歳の誕生日を迎え、『鑑定の儀』を行うこととなった。
今まで、剣の才能がない僕では才能のある兄弟たちとは圧倒的な差があった。しかし、固有スキルがあれば話は別だ。それを磨けば、凡人でも天才を超えうるほどの力を持てる。
(どうか、『剣豪』とかの強いスキルが来ますように…!)
そう願いながら、水晶に手をかざす。すると、そこに浮かび上がってきた文字は────
『暗黒魔法』LV1
特殊属性である暗黒属性に属する魔法が使用可能となる
適正ジョブ:魔法使い
……魔法、だって? 嘘だろ? 僕は何度も水晶に手をかざす。しかし、浮かび上がる文字は変わらない。
グロウハート家の人間には、ほぼ確実に剣術系の固有スキルが発現する。するはずなのだが……僕に与えられたスキルは『暗黒魔法』。
そんなこと、僕の父親……当主であるヴォルムス・グロウハートが許すはずもなく……
「ヴァイス、お前は……勘当だ。ある程度の間生きていけるだけの金はやる。家も用意した。だからさっさと、今日中にこの家から出て行け」
────齢10歳にして、僕はグロウハート家から勘当された。
勘当されて最初の頃、僕は何をする気力も湧かなかった。ただ王都の隅にある小さな家の中で寝転んだり、王都の中を意味もなくブラブラするだけだった。
そんな生活を続けて3ヶ月。お金が底をつき始め、僕は冒険者になった。ギルドカードの名前の欄には、ヴァイスとしか書いていなかった。
最初の頃は、まあ順調だった。薬草を採取したり、王都の近くのダンジョンでモンスターを倒したり……生きていくだけのお金は、一応稼ぐことができた。
最初こそ使おうとしなかったが、僕の固有スキル『暗黒魔法』は戦闘において……特に、対モンスターにおいて、こと強いスキルだった。
小さい頃からの剣の教育と、魔法に対するセンスの高さで僕は冒険者として少しずつ力をつけていき、2ヶ月という一般的な冒険者よりも圧倒的に速いスピードでCランクに到達した。
……今思えば、それが原因だったのだろうか。ギルドの中で、こんな噂が立ち始めた。
『あいつはグロウハート家の恥晒しだ』
僕は最初、父親が僕を勘当したことをどこかで言ったのかと思った。しかしその可能性はすぐ捨てた。あの人は家の面子を大切にしている。それなのにわざわざ言いふらす理由がない。
ならば、何でこんな噂が立ったのか。それは、10歳だった僕の頭にも推測することができた。
それは……嫉妬だ。10歳になったばかりの子供が、すぐに自分たちのランクを超えていった。それが許せない人がいたのだろう。そんな噂のせいで、僕はギルド内でもいじめられるようになった。
年上の冒険者から舌打ちされるのは当たり前、カツアゲ紛いのことをされたり、時には路地裏でリンチもされた。
しかし、生きていくために冒険者を辞めることは出来ず、魔法で反撃したら殺してしまう……。
だから、僕は半ば諦めつつその状況を受け入れていた……そんな時だっただろうか。僕が、あのパーティーと出会ったのは。
それは、いつものように路地裏で冒険者5人ほどにリンチされている時のことだった。馬乗りになって殴られている僕の視界に、見慣れない3つの影が映り……その場にいた冒険者を、人数不利にもかかわらずボコボコにした。
1つの影……男性の冒険者だ……が、倒れている冒険者たちにに呟く。
「子供を虐めて何が楽しい?僕には分からないな」
もう1人の女の人もこちらに近寄ってきて、僕を介抱してくれる。
「大丈夫? 酷い怪我……!! 【ヒール】……もう大丈夫だからね」
「…………外道」
残りひとりの小さな女の子も、吐き捨てるように呟いた。この人達は、一体……?
「君、大丈夫かい? あぁ、何が何だか分からないって顔してるね。じゃあまず自己紹介から……」
そう僕をたたせながら、男の人は自己紹介をする。
この出会いこそが、僕の運命を大きく変えた。ある日突然王都にやってきて、僕に対しても変わらず接してくれたBランクパーティー。
後にパーティーに入れてもらって、一緒に冒険した仲間。そして……
「僕らの名前は『集う旋風』……今日から王都で活動することにした、Bランクパーティーさ」
僕が殺した人達との出会いだった。




