第五十三話 剣聖との邂逅
第五十三話です!!最初の方に名前だけ出てきた『剣聖』が登場!
「ああ、何が何だかわからない、という顔をしているな…ならば、少し遅れたがまずは自己紹介をするとしよう。私の名前は、グレア・グロウハート……『剣聖』と呼ばれている者だ」
……今、なんて言った……!?『剣聖』だって!?僕の聞き間違いか?でも彼女は確かに、僕に向かってはっきりとそう言っていた。つまり、目の前の彼女こそが人類最強の剣士───『剣聖』グレア様、ということなのか…!!
………って!だったらさっきまでの態度は不味くないか!?僕は咄嗟に頭を下げるが……
「そんな畏まらなくても大丈夫だ。私は『剣聖』と呼ばれているが……言ってしまえば、強いだけの女なのだからな」
いや!いやいやいや!強い『だけ』って!『だけ』って!人類最強がそれ言ったらおしまいでしょう!
『それ、あなたも前似たようなこと言ってましたよ?』
「うわっ!!」
2週間ぶりですねルキアさん!でも、急に喋りかけられると驚いてしまうのでやめて頂いても!?
「どうしたんだ?何かあったのか?」
あ…驚いて声が出てしまっていたようだ。グレア様が不思議そうにこっちを見ている。
「いえ……なんでもないです、すみません」
「ならばいいんだが…では、話の続きをしようか」
そうそう。話が逸れていたが、本題はシュヴァルツさんとグレア様がどういう関係かということだ。僕は話を聞くことに集中する。
「さっき私が話していた男……君の仲間である、……今はシュヴァルツと名乗っているらしいな……。彼の本名は、ヴァイス・グロウハート。私の弟であり、グロウハート家の末男……だった者だ」
シュヴァルツさんと、『剣聖』が、姉弟?そもそも、『だった』ってどういう意味なんだ?訳がわからない……!僕は2人についてさらに聞こうとするが、それを読んでいるかのようにグレア様は僕にこう言った。
「ヴァイスに何があったかは……まあ、私から伝えることではない。後で自分で聞くといい…ここで話すようなことでもないし、話していないのにも、何か理由があるのだろうからな」
そう言ってグレア様はシュヴァルツさんのほうに近づいていき、シュヴァルツさんに小声で諭すように言った。
「彼らを殺したのはお前じゃない」
グレア様は、シュヴァルツさんにそう言ったのだ。それは小声だったが、近くにいた僕には聞き取れた……聞き取れてしまった。
『彼ら』?『殺した』?本当に、何があったんだ……?そう困惑する僕と未だに声を発さない周りの冒険者たちを後ろに、『剣聖』グレア様はギルドを後にするのだった。そして…
「……ここを出よう、まずは宿に荷物をおかねばな」
いつものような元気さのない、低いトーンの声で下を向きながらシュヴァルツさんはそう言って、ギルドの外へとそそくさと出て行ってしまった。
僕はどうすればいいのか分からず、とりあえずついていこうと思いマールとリールを呼びシュヴァルツさんの後を追うのだった。
僕たちに宿泊場所として用意されたのは、ギルドから徒歩およそ10分ほどの場所にある二階建ての横に広い木製の建物だった。ちなみに道を挟んで反対側にも同じような建物があり、それぞれ男性棟・女性棟と分かれている。
シュヴァルツさんが聞いた話によると、ここはギルドが運営している寮のようなものらしく2人1部屋で宿泊するらしい。宿泊費は言われていた通り無料だが…さらに何と、朝食・夕食も一階の食堂で食べられるらしいのだ!!太っ腹!
建物の中に入って割り当てられた部屋を見ると、シンプルにベッド2つとランプが置かれており、残りは全て空きスペースという風な内装だった。2人で宿泊しても余裕があるくらいには広い部屋だった。
「ここが宿ですか……広いですね」
「相部屋らしいが、もう旅の間で慣れたものだ」
シュヴァルツさんもさっきまでシリアスな感じがしていたが….どうやらいつも通りに戻ったようだ。さっきの話についても聞きたいが…それは話してくれるまだ待つとしよう。少なくとも後1ヶ月は一緒にいるんだし。
そう他愛ない会話をしながら部屋に荷物を置いた後、僕たちは各々行きたいところに行くことにした。
シュヴァルツさんは『備えあれば憂いなしだ!』ということで魔法を使うためのリング───魔法を使うときに杖の代わりに使える指輪───を買いに行った。マールとリールは、『まずお金稼いでー!いっぱい食べる!』ということでギルドに依頼を受けに向かったそうだ。そして僕は……
(すごい数の本だなぁ……!)
王都の図書館に来ていた。ノーマルスキルに関する情報を集めるためだ。今までのスキル……基礎スキルに通常スキル、そこから派生した派生スキルと統合スキル……そして、シルクさんに教えてもらった称号系スキル。
それらだけでも十分すぎる程強いのだが………それではダメだ。今日、『剣聖』と出会っただけで感じた、あの圧。圧倒的な力の差。あれが『剣聖』────人類最強と対峙した感覚。
『格』が違う。
対抗心さえ湧かせてくれない。計り知れない程の強さ。僕は、それに追い付かなければならない。
そんな決意を新たに、僕はノーマルスキルに関する本を読み始めるのだった……
side:???
「来たか……」
そう呟き、眼下の町を見下ろす。人間どもが呑気に、怠惰に時間を浪費している姿が写り、唾を吐き捨てる。
しかし、もうすぐにこの風景も壊れる。無論、他でもない、私の手によって…。たかが1人の子供のために町一つ……それも国の都を消すとは少々大袈裟な気もするが、私はそれを実行するのみだ。
我らが『王』の願いとあらば。




