第三十九話 闘いの後に 【1章エピローグ】
第三十九話!第1章エピローグです!!
ブラックオーガとの戦いが終わって2時間がたった。
あの後、僕とウォードさんは僕の分身によりギルドに搬送され、そこで回復魔法使いによる治療を受けてなんとか一命をとりとめた…らしい。
僕とウォードさんは事情聴取のため、目が醒めると家ではなくギルドの受付の裏に備えられた個室でベッドに寝かせられていた。ウォードさんは、まだ意識を取り戻していない。
「あぁ、ラルク…生きててよかった…」
「街を守ろうとするのはいいが…心配させないでくれ…」
父さんと母さんもギルドまでわざわざ駆けつけてくれた。心配をかけてしまい、本当に申し訳ない気持ちになる。
「ラルクくん!!平気かい!?怪我は治ったの!?」
シルクさんも駆けつけてきて、個室の中が一気に賑やかになる。この人にも、迷惑かけてばっかりだなぁ…と、少しだけ思う。
「ラルク、この子は誰だ!?まさか…ガールフレンd「違うから」…そうか」
「そんな食い気味に否定しなくてもいいじゃないか!?」
……なんだろう、こうやって他愛無い話をしていると、2時間前までの死闘が嘘みたいに思えてくる。生きてるんだなぁ、という実感が湧いてくる。そんな幸せな雰囲気の中、ふと隣のベッドから声が聞こえてきた。
「…ん?ここは…あぁ…終わったのか」
「ウォードさん!」
そちらを見ると、両腕を包帯でぐるぐる巻きにされているウォードさんが目を覚ましていた!
「って、ラルク!ブラックオーガは!町は大丈夫か!?」
ウォードさんが慌てたようにそう聞いてくる。ブラックオーガ…恐らく、あの黒い巨体を持つ魔物だろう。
「それなら、なんとか倒すことが出来ましたよ。全身ボロボロになっちゃったんですけどね…」
本当、あいつの相手は大変だったなぁ。鋼鉄のような肉体に、馬鹿みたいな火力。そして信じられないほどの素早さ…本当に、命をかけなければならないほどの強敵だった…。
そうやって戦いを振り返っていると、ウォードさんとシルクさんが驚いたように声を上げる。
「ラルク、お前、一人でブラックオーガを倒したのか!?」
「えぇ!?ラルクくん、それ、本当かい!?あのブラックオーガを、たった一人で倒したなんて…!」
何か驚かれているが…ここは嘘をつく必要もないので、正直に答える。
「はい、何とか…とても硬くて、力も強い…強敵でした」
すると目の前の二人が呆然としながら口を開いて動かなくなる。大丈夫かな…?
「あの…大丈夫ですか?」
なかなか動かないのでそう聞くと、シルクさんがやっと反応を見せる。
「あ、あぁ、ラルクくん…君がブラックオーガを倒したって言ってる幻が見えてね…少し驚いていただけだよ」
ダメだ戻ってきてない。
「シルクさん、それは現実です」
「ラルクくん、冗談が上手いじゃないか。ユーモアのセンスもレベルアップしたのかな?」
ダメだ、現実に戻ってくる気配がない。
「シルクさん、早く戻ってきてください」
「……本当なのかい?」
怖い話を聞くときのように、トーンを下げてそう聞いてくる。
「はい、倒しました」
「本当に本当かい!?」
声が大きいよシルクさん。でもその声で目が覚めたのか、ウォードさんも現実に戻ってくる。
「ラルクお前…自分が何したか分かってるのか…?」
そう低い声で聞いてくるウォードさん。何か不味いことをしたのだろうか…!僕は怖くなってくる。
「何か不味いことでもあるんですか…?」
「不味いことじゃねえけどよ!あのモンスター、多分Sランクだぞ!それを倒すって…お前、相当やべぇな…」
「Aランク冒険者でも苦戦するモンスターなんだよ!?君、本当に10歳になったばかりだよね!?」
なるほど、Sランクモンスターなのか…通りであんなに強かった訳だ…って、Sランク!?嘘でしょう!?そんな強かったのあいつ!そう聞いて、僕はそんな相手と戦っていたのか…と、鳥肌が立つ。
「そういえばラルクくん、君全身がボロボロになっていたらしいけど、何があったんだい?」
「あー、えっと、まぁ色々ありまして…」
あっ…これはまずい。答えたら多分めちゃくちゃ怒られる…そう思い僕は言葉を濁す。しかし母さんにそれは通用しなかった。
「ラルク、何を隠してるの?怒らないから言いなさい?」
うっすらと笑みを浮かべながらそう聞いてくる──その目は笑っていない──母さんに、僕はあの魔物と対峙した時のような恐怖を憶える。
「言わないと…ダメ?」
「「「「ダメ」」」」
全員が教えないと怒る…というオーラを出しているので、正直に答えることにする…
「カウンターを入れるために相手の攻撃をもろに受けました」
「「「はぁぁぁっ!?」」」
父さん、ウォードさん、シルクさんが驚いて叫ぶ。しかしその中で一人、静かに笑みを浮かべている人が一人。母さんだ…もちろん目は笑っていない。
「ラルク…?ちょっとお話しようかしら…!?」
「よーし!俺らは一旦出ていくとするかな!」
「私も仕事があったんだった!早く帰らないと!」
「俺は少し体の痛みが…もう一回寝ることにするわ!おやすみ!」
待って!僕を一人にしないでくれ!そう思い、どうにかして引き留めようとするが…
「ラルク、母さんがじっくり話には付き合ってあげるから大丈夫よ…?もっと話を聞かせて?」
無情にも、それは母さんにより阻まれる。そして僕は悟るのだった。これから起こるのは、今日の死闘が生ぬるく思えるほどの、恐ろしい戦いなのだ…と。
1時間後。母さんは家事があるので家に帰って行った。僕はもう無茶しないと決めた。ムチャ、ダメ、ゼッタイ。
っと…まあそんなことは置いといて、そう言えば何か忘れている気がする…何が物凄く大切なこと…なんだっけ?
そう思っていると、個室の外が騒がしくなっているのが聞こえる。何が起こったのかと思い、僕はベッドから立ち上がって部屋の扉へと向かう。
体が少し痛むが…まあ、問題ないだろう。そして扉を開けて入り口に向かうと…沢山の冒険者たちが、まるでお通夜のようなムードで集まっていた。
いったい、何が…そう思って、僕は近くの冒険者に何があったのか尋ねる。すると、こんな答えが返ってきた。
「ああ、まだ知らねえのか…あのな、迷宮氾濫の鎮圧に行ったちょうどお前くらいの男のガキが、死んじまったらしいんだよ…ついさっき一緒に行った4人が帰ってきて、そう嘆いてやがったんだ…可哀想に…」
帰ってきたのは4人…全員生還してるじゃないか…ん?ちょっと待ってくれ…10歳くらいの、子供?…って、あぁぁぁぁ!!!
そういえば僕、何も言わずにこっち来ちゃったんだったぁぁぁあ!!!
それに気づいた僕は、急いで迷宮氾濫に一緒に行った仲間たちの元へ向かった。
最初集まった部屋にいくと全員揃っていたので、かくかくしかじかあったことを話し、何とか許しては貰えたのだが…
「…………本当に、本っっ当に怖かったんだからな…?」
「本当に申し訳ございませんでした…」
また30分ほど、シュヴァルツさんによるお説教をくらってしまったのだった…。
「今日はゆっくり体を休めろよー!」「お疲れ様ー!」
「期待の新人だな!」「まもってくれてありがとー!」
そのさらに1時間後、ギルドからの事情聴取と報酬受け取りを終えた僕は家に帰ることにした。沢山の町の人たちに見送られながら一人で帰るのは少し恥ずかしかったが……まあ、悪い気分はしなかった。
思い返せば、この1ヶ月半ほどで、本当に色々なことがあった。
『武芸百般』を手に入れて、その弱さに絶望した。
フィリアに元気付けられて、強くなることを志した。
『武芸百般』の真価に気づいて、本気で特訓して、強くなろうと思った。その過程でシルクさんと出会って、僕はさらに強くなれた。
ダンジョンを攻略しようと思ったら、急にウォードさんに戦いを仕掛けられて気絶した。
迷宮氾濫が起こって、ブラックオーガと命がけで戦って、そして勝った…上げていけばキリがないくらい、とても濃い期間だった。何度も死ぬかと思った。心が折れそうになった時もあった。それでも…
(きっと、今の僕は…『幸せ』なんだろうなぁ…)
誰かに必要とされている。『鑑定の儀』の時には考えられなかったそんなことを考えると、少し笑みが溢れる。
明日からはまた、世界最強に向けての特訓を始めようか。それとも、ダンジョンを攻略してレベルを上げることにしようか…
そんな明日への期待を胸に、僕は家へと帰るのだった。
side:ウォード
俺は部屋に戻り、受付嬢の手を借りながら書類の整理を行っていた。その時に一つ、目についた書類があった。それは…
『王立ファイルガリア学園 新星冒険者選抜コース 募集要請』
という題名の、あいつにピッタリなことが書いてある書類だった。
side:『◼️』
ミファレスに預けていた玉が崩壊した…忌々しい。実に忌々しい。『奴』は、どこまで我の邪魔をするのか…今のうちに消しておかねば…『奴』が力を取り戻す前に。
しかし我が直接手を下すことはできない…まあよい。次こそ、確実に───『奴』を、殺す。
はいっ!これで第1章完結です!次回から第2章(もしかしたら閑話を入れるかもしれません)の予定ですので、読んでいただけると幸いです!
【作者からのお願いです!】
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