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第三十七話 分身としての

第三十七話。ラルク(分身)VSブラックオーガです。

(間に合ってくれ…!)


 景色が流れるように過ぎて行く。少しずつだが、僕のスピードも上がっている…本体のレベルが上がっているのだろう。これならきっと間に合う!ナイス僕の本体!


 そんなことを思いながら、あと少しで到着する…そんな所まで近づいたその時だった。僕は『索敵』の反応に違和感を憶える。


(反応が、変わった(・・・・)?)


 なんだろう、なんと言えばいいのかわからないが…すでに弱々しくなっていた、ウォードさんと戦っていたと思われる人間に似たような反応がまるで魔物のような反応に変わっている…!?

 何か異常なことが起こっている…そう思い、僕は温存していた能力を使う。


(一気に詰める!スキル複合発動、『縮地』『跳躍』『渾身の一撃』……『電光石火』!!)


 『電光石火』───ある一定の距離を一瞬で移動する、『縮地』の強化版だ。もちろんこれを使わなかったのには理由がある。

 この技は着地時に反動が来て思い切り体勢を崩してこけてしまうため、何度も使うと逆にタイムロスになる。さらに、こけたときの勢いがハンパじゃないので結構ダメージを喰らってしまう。


 しかしその分、効果は絶大!本来ならあと30秒はかかる距離を、一瞬で移動する!なんと、砂埃で隠れてはいるがすでに戦っている二人の姿を視認できるほどには近づけた!

 砂埃の向こうに映るのは、ウォードさんの影と、禍々しいオーラを放つ大きく黒い『何か』。 僕は立ち上がり体勢を整え、『縮地』で距離を詰め…


「スキル…『投擲』!!!」


 その『何か』に向かって、思いっきり石を投げる!!その石は奴の側頭部にぶつかった!これで少しは怯んで…


「グォォ?」


 ……嘘だろ!?全く効いていない!この魔物、とんでもなく…強い。本体でも勝てるかどうか…

 そんなことを考えながら、僕はそいつと対峙する。戦いの準備は整った。

 辺りに充満する血の匂い。地面に形成された、夥しい量のクレーター。

 砂埃の向こうで僕の目の前に立つのは、漆黒の巨躯を持つ鋭く赤い眼光のオーガ。恐らく、ブラックミノタウロスなんか比にならないほど強いだろう。僕はその圧倒的な存在感に気圧されながらも、戦闘態勢に移った。間に少しの静寂が流れる…そして、


「グオォォォォォォ!!」


 目の前の相手の咆哮と共に、戦いの火蓋は切られる。互いに一気に距離を詰め…


「喰らえ!『一撃必殺(ザ・ワンショット)』!!」


「グォォォォォォォン!!」


 全身全霊の拳を放つ僕に対し、目の前の魔物も被せるように拳を放ってくる。その二つの拳は轟音と共にぶつかり…気づけば、僕の右腕は吹き飛ばされていた。


(が、あぁぁぁぁあ!!!痛い!!腕がぁ!)


 想像を絶するほどの痛み。痛い。熱い。痛い…そんな感覚が頭の中を駆け巡り続ける。僕は痛みに意識を支配されながらも、攻撃を受けないよう咄嗟に後ろに後退する。


(クソッ…『鋼の精神』!!少しはマシになったか…)


 痛みは結構マシになった…が、それよりももっと大変なことに気づく。現状の、僕の最大火力が通じない。何なら、普通の拳で捩じ伏せられた。僕は『思考加速』した状態でどうすべきか考えるが…


(通せる択が、ない…!)


 恐らくこの実力差では、『ダブルアップ・カウンター』も決まる前に僕が弾け飛ぶだろう。本体が変わるまで、時間稼ぎでも…そう思ったとき。僕の目に映ったのは、血塗れのウォードさんの姿。もし、本体が来るのが遅かったら───死ぬ。

 なら、僕がやるべきことは…


(目の前のコイツの体力を、できる限り削る…か)


 そうしないと、ウォードさんの命が危ない。でも、どうやって…


(いや…一つだけ…本当に一つだけ、ある)


 しかしそれには、タイミングが重要だ。ミスをすれば、僕の本体も、ウォードさんも、死ぬ。でも…


(決めれば…両方生き残れる可能性が跳ね上がる)


 僕は、覚悟を決める。その作戦を…命を捨てることが前提の作戦を行う覚悟を。それは、とても分の悪い作戦。賢くない選択。命をチップに置いた、危険すぎる賭け。それでも、決めるしか彼を生き残らせる方法はない。


 加速している思考の中、奴がこちらに向き直るのが見える。タイミングは、まだ来ない。

 少しずつじりじりと奴が距離を詰めてくる。しかし、タイミングは、まだ来ない。少し、焦りが出る。

 奴との距離が、ついに元の半分を切る。しかし、タイミングは、まだ来ない。しかし、焦るのを耐えてまだ待つ。

 奴が近づいてきて、拳を振り上げる。しかし、タイミングは───


(来た(・・)!!!)


 僕が待っていたのは、ある感覚。別のところに飛ばされるような、『陽炎』の感覚!!本体…気付くのが少し遅いが、後は頼んだ(・・・・・)!!

 そう覚悟を決め、僕は…


(スキル、『当身』『縮地』『跳躍』『渾身の一撃』『覚醒』『身体強化』『粉砕』中級光魔法【セイクリッド】…これで、吹き飛ばす!)


 まさに、現状の最高火力。

 命を捨てた特攻(・・・・・・・)。僕が消えることは確定するが…本体にそのダメージは引き継がれない!これが、僕の分身としての矜持。最後の…そして、最高の一撃。


「ぶっ飛ばせ!!『終幕の輝きプライド・デストラクション』ッ!!!!」


 その一撃は…命を対価に放たれた超火力の攻撃は、黒い巨体から放たれる拳に激突し───その拳を弾け飛ばした!!そして、敵を穿ち、勢いを失ったそれ(・・)は、移りゆく景色、薄れゆく意識の中、命が消えゆく感覚と共に思う。


(僕は、ちゃんとやれたかな?)


 少しずつ、体が冷えて行く。


(皆を、守れたかな?)


 痛みなんて、もう感じないほどに。意識が深い海に落ちてゆく。


(記憶の中の女の子に…フィリアに、恥じない行いができたかな?)


 そして、意識が途切れる最後、命の灯火が消える直前。彼が最後に思ったことは───


(僕も、誰かを助けられたかな?)


 そう考えながら、一体の分身の…いや、一人の少年の意識は、どこまでも…どこまでも深く、そして驚くほど緩やかに、落ちていったのだった。

…………。


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