第三話 もう、どうだって… side フィリア
前話とセットです。次話は明日6時に投下します。
〜side:フィリア〜
「ラルク……大丈夫?顔見せて?」
今日も返事は帰ってこない。ラルクは「鑑定の儀」で固有スキルが判明してから、ずっと部屋に篭っている。私を教会に置いて帰ってしまったあの日からずっとだ。私のこと、嫌いになったのかな……?
私の代わりに、ラルクが『剣聖の加護』を持っていれば、こんなことには……そう思うと、胸が痛くなる。
私には、なんてラルクに声をかければいいか分からなかった。そんな自分の不甲斐なさに腹が立つ。きっと、今のラルクに私がどんなことを言っても、彼は元気にならないだろう。
「また明日、会いに来るね……」
そう言って、ラルクの家を出る。私は彼に、なんと言えばいいんだろうか。ただ、彼に元気になってほしいだけなんだ。私は、ラルクがいれば『固有スキル』なんてどうだっていいのに……。
そんなことを考えながら歩いていると、私の家の前に沢山の鎧を着た人が集まっていることに気づく。
「おお、次代の剣聖様が帰られたぞ!」
鎧を着た人達のうちの1人が、そう声を上げた。
そのあと聞かされた話をまとめると、どうやら私は次代剣聖として王都に連れていかれるらしい。これは王命なので、逆らってはいけないそうだ。
私はそれを聞いた時、真っ先にラルクのことが頭に浮かんだ。もう、二度と会えないかもしれない。私は、彼とこんな別れ方はしたくない。いますぐにでも彼の元へ行って、話をしたかった。
でも、同時に私は……もうこれでいいのかもしれない、とも思った。思ってしまった。ここで諦めれば、王都で彼のことを悔いないで済むかもしれない。
私はどうすればいいんだろう。出発は明日。それを決断するには、あまりにも猶予が短すぎた。
翌日、私は見物に来た大勢の人々に囲まれている広場の真ん中に立っていた。周りの人々は私に視線を向けながら、すごいだの、信じられないだの言っている。
そんな観衆の中、他の騎士たちよりもひときわ豪華な鎧を着けている位の高そうな騎士様が声を張り上げてこう言う。
「我々はファイルガリア王国の騎士団である! この地より生まれし次代剣聖、ファリアを一人前の剣聖になるよう指導を行う故、これより王都へとフィリアと共に出発する!」
「「「「「うぉぉぉぉ!」」」」」
広場の人々が一斉に叫び、私は豪華な馬車に乗せられそうになる。そんな歓声とは裏腹に、私はたった1人の幼馴染のことを考えていた。
(ラルク……会いたいよ)
もう、二度と会えないかもしれない。
(でも、諦めたほうが……きっと、楽だ)
諦めれば、私の気持ちは楽になるかもしれない。
(そうだよ、あきらめ……れば……)
そんなことを考えていると、ふと、頬に涙が伝う。やっぱり、ラルクに会いたい…そんな自分がいたことに気づいて、私は覚悟を決める。
(私は……)
きっと、これは賢い選択ではないんだろう。
(私は、ラルクに……!)
────会いたい。ずっと、一緒にいたい。この気持ちを、伝えたい……!!
そんな思いに突き動かされるように、私は広場の外へと飛び出した。
広場からは驚いたような声や私を捕まえようとする人の声が響いてくるが、そんなもの今の私にはどうでもよかった。それよりも、早くラルクに会いたい。だからこそ私は、振り返らずにただ走る。
あの日から別れたままの彼に、今度こそ出会うために。