最終話 『鑑定の儀』
最終話、『鑑定の儀』。そして時は過ぎ……
side:ルキア
『……幸せそうですね』
魔王を倒したあの日から、もう18年が経ちました。
ラルクの記憶が戻った後、『神龍の翼』が解散したり彼自身が『武芸百般』という二つ名のSランク冒険者として序列1位になったりと……色々なことがありましたが、あっという間でしたね。
『やはり反吐が出るな……幸せとは、度し難いものだ』
『マキア、負けた貴方は口を出さないで下さい』
隣で愚痴をこぼしている邪神もいますが……今では彼も魔物を作って世界を回している1人です。きちんと働いてもらわないと。
『っと、そういえば……今日はラルクの子供が10歳になる日でしたね。子煩悩のあの2人ですから、きっとパーティーを開くでしょうし……私も少し、覗いてみますか』
side:リック
「……すごい、みんな集まってる!」
今日は待ちに待った10歳の誕生日パーティーの日。僕は屋敷の2階にある自室の窓の外から家の庭を見る。そこには僕の友達や、父さんや母さんの知り合いなどがたくさん集まっている。
準備が出来るまで部屋で待ってろと言われたけど……ダメだ、もう耐えられない!! 僕はパーティーの準備をしているほうとは反対側の窓を開け、落ちないように屋根の軒先の部分に乗る。
「よし、このままこっそりと……」
このまま早く出ていって、みんなを驚かせてやろう……と、思ったのだが。
「こら、なに勝手に出ようとしてるんだ?」
背後からドスの効いた声が聞こえてくる。ここ、一応屋根の上なんだけど……
「うわっ、フィーズさん!?」
そこにいたのは、父さんの知り合いであるフィーズさんだった。妹を蘇らせるという願いを叶えるために世界中に散らばった7つの玉を集める旅に出ていたはず。なのに、どうして……
「お前の誕生日だって言われて飛んできたんだよ! あいつら、侯爵の地位を貰っただけじゃ飽き足らずこんな可愛い子供と幸せな生活送りやがって……私にはまだ彼氏もいないのに!!」
「だってもうおば…「なんか言ったか?」…なんでもございません」
多分あれ以上何か言っていたら、僕の命は無かっただろう。危ない危ない……
「って、違う! なんで勝手に出て行こうとしてんだよ……分かった。お前、みんなを驚かせようとしてんだろ?」
「……はい」
ああ、バレてしまった……これは失敗したな。
「よし、じゃあ手伝ってやる」
「はい?」
「ほら、捕まれ。まだスキルもないから飛び降りるのは危ないだろ」
そうだった、この人はこういう人だった。僕は促されるまま、フィーズさんに抱えられて庭へと降ろしてもらう。すると、その下には……
「痛えっ!?」
「あ、ウォードすまん」
冒険者ギルドのグランドマスター……事実上トップに位置するウォードさんがフィーズさんの下敷きになっていた。ちなみになぜいつも上裸なのかは誰も知らないらしい。
「お前、俺じゃなきゃ死んでたぞ……」
「……安心しろ、ウォード。今からみっちりお仕置きしてやるから」
「また冒険者を脳筋トレーニングで扱いたらしいですね? 全くあの村にいた頃と変わらず、本当に変態半裸筋肉ですね貴方は」
「げっ……」
この人たちは……ウォードさんの妻のグレアさんと、秘書の怖い人だ!! また何かやらかして逃げてたのか……
「よしリック、お前は何も見なかったな? ほら、行くぞ」
「そうですね、そうしましょう」
「ちょっと待て、2人とも……」
うん、僕たちは何も見なかった。
「「逃がさない」」
「うわぁぁぁぁぁあ!!」
僕たちはその叫び声を背に、パーティーの準備をしている方へと向かっていく。すると、何も無かったところに突如黒い穴が現れ、そこから人が飛び出してきた!!
「見つけた……」
「いなくなったと思ったら、こんなところにいたんだね〜。しかも、リックを連れ出してるし」
この2人はシェイラさんとアルトさん、フィーズさんと一緒に『神龍の翼』というパーティーを組んでいた人たちだ。この2人も来てたのか……
「あ、えっと……これは違うんだ。そう、リックがどうしてもって言うから」
「そう、じゃあお仕置きしないとね〜」
「よし逃げろっ!!」
満面の笑みで恐ろしいことを告げるシェイラさん。フィーズさんはそれを見て全力で逃げ出そうとするが……
「はい捕まえた」
即座にアルトさんに捕まってしまった。僕も早く逃げないと……!!
「……あらら、行っちゃった。まあ、元々止める気なかったけどね」
「だね〜。というか、リックは大事なこと忘れてるよね」
何か言っているが、とにかく今は逃げないと……そう思って、僕は屋敷の門の方へと走っていく。するとそこからは、沢山の人が入ってきていた。
Aランクパーティー『奇術師の誓い』のリーダーのダリオさんや、Sランクパーティー『青龍の絆』に所属しているケントさんにセイルさん、『殺戮姉妹』として有名なAランク冒険者のマールさんとリールさん……いろんな人が入ってきている。
門から入ってくる人たちを庭の芝生に隠れて見ていると後ろから肩をポンポンと叩かれて、同時に聞き慣れた声が聞こえて来る。
「まだ準備終わってないのに何してるのかな、リック?」
「うわっ、ティナ!?」
どうしてここがバレたんだ……?
「フォンセさんが『リックの匂いがしないにゃ!』って騒いでたよ。だから探してたらこんなところに……もう、どうせみんなを驚かせようとしてたんでしょ」
「うっ……なんでわかるんだよ……」
「まあ、リックの幼馴染だしね」
幼馴染って魔法使いか何かなのかな?
「2人とも、そこでなにイチャイチャしてるんだ?」
「あっ、ブランさん!」
そんなふうにティナと話していると、今度は横からティナの兄であるブランさんが話しかけてきた。今日も真っ黒な服に身を包んでいる……かっこいい!!
「リック、何でそんなに目を輝かせてるの……?」
「ブランさん、今日もかっこいいですね!!」
「ふっ……やはりこの良さを分かるとはさすが我が弟」
さすがブランさん……口調もかっこいい!
「兄さん、家族じゃないでしょ……」
「でも、相思相愛だろう?」
「「えっ!?」」
「違うのか?」
いや……違うというわけではないが……
「え、えーっと……」
「青春にゃんねぇ〜」
「「「フォンセさん!?」」」
まずい、お手伝いさんのフォンセさんにも見つかった。これじゃもう、驚かすなんて無理だな……と、思った瞬間。
「『索敵』っ!!」
「「「「うわっ!?」」」」
僕達4人の体は見えない何かに掴まれて、パーティー会場のほうへと持っていかれる。これって、まさか……
「バレバレだったぞ、リック」
「リック、ちゃんと部屋にいなさいって言ったのに……結局、お父さんが言った通りになったね」
呆れたような顔でそう告げる母さんと、笑いながら僕を見る父さん。もしかして、最初からバレてたんじゃ……!?
「リックくんは変わらないねぇ。ラルクくんの小さい頃とは大違いだよ!」
「ふふ……そろそろ皆さん、集まったようですね?」
その横に立つシルクさんとシルファさんも、笑いながらそんなことを言っている。なんか手のひらの上で踊らされていたみたいな気分だ……!!
「えっ、もしかしてみんなリックが逃げたことに気づいてたの!?」
「我が妹よ……打ち合わせをしただろうに」
「やっぱりティナはどこか抜けてるにゃんね〜」
ティナはシンプルに忘れていたようだ……それはそれでどうなんだ?
「リックももう10歳……時間が過ぎるのは早いなぁ!」
「そうねぇ……ラルクが10歳になったのもつい先日みたいなのに」
「フィリアの息子が10歳になるのを生きているうちに見られるなんて……俺は幸せだ!!」
「お父さん、落ち着いて……」
まだまだ屋敷に空き部屋はたくさんあるのに王都には住まず、性に合っているという理由で村で農業をしているおじいちゃんおばあちゃん達も今日は来ているみたいだ。
「まあ落ち着いて……さて、そろそろ準備も終わった始めようか」
おっと、話していたらいつのまにか準備も終わっていたようだ。みんなを驚かせることは出来なかったが……でも、ここからは僕が主役だ!!
「リック、10歳の誕生日おめでとう!!」
「「「「「おめでとう!!!!」」」」
そして、僕の誕生日パーティーは始まった。
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誕生日パーティーも終わりに近づいてきて、僕の気持ちが昂ってくる。なんと、パーティーの終わりのメインイベントとして司教様に屋敷まで来てもらって『鑑定の儀』をしてもらうのだ!!
「もう待ちきれない!! ねえ母さん、まだかな!?」
「あと少しで来るからもうちょっとだけ待ってなさいね」
「どんなスキルかなぁ……『剣豪』とか、強いスキルだったらいいなぁ……!!」
僕は、どんなスキルを貰うのだろう。どんな人生を歩んでいくのだろう。それが今から楽しみで仕方ない。
「『剣豪』……リック、剣士になりたいの?」
「違うよ、母さん! 僕は……」
そんなの、決まってるじゃないか。僕は……
「僕は、父さんみたいな世界一の冒険者になるんだ!!」
ということで、ついに完結です!
まさか合計200話を越すとは……ここまでお付き合い頂いた読書の皆様、本当にありがとうございました!
『200話お疲れ様!』
『面白かった!』
『新作連載今書いてるってマジ?』
と思っていただけた方は、評価や感想をよろしくお願いします!
そして最後に……もし気が向いたら、もう一度この話を読んでやってください! 一周目では分からなかった挙動や疑問が晴れるかも……?




