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第二百話 そして、今

第二百話、最終章エピローグです。

投稿遅れてすみません。

 side:フィリア


「「「「うぉぉぉぉぉ!!!!」」」」


 今日は私たちの凱旋パレードの日。魔王を倒した英雄として、どうやら国をあげて祝ってくれるらしい。割れんばかりの歓声と無数の人の中を、私たちが立つ舞台を乗せた馬車は突き進む。


 パレードを見に来た人々は、誰しも憧れや喜びなどの表情を浮かべている。沢山の人に祝われて、英雄として讃えられる。これほど誇り高く、幸せなことはない……はずなのに。


(…………なのに、どうしてこんなにモヤモヤするんだろ)


 その理由は、きっと────



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 話は魔王を倒した直後まで遡る。


 ラルクが魔王を倒した後、私たちは魔大陸を抜けてファイルガリアへと帰ってきた。全員がかなり消耗していたが、魔王がいなくなったことにより魔大陸の魔物の数はかなり少なくなっており特に何事もなく帰ることができた。


 だけど、帰りの旅路は……魔王を倒すという希望があった行きとは真逆の、絶望感に溢れた旅路だった。


 まず、ライアが死んでしまった。フィーズさんは気丈に振る舞っていたが、夜な夜な悲しみに暮れて泣いていた。恐らく、旅の間はほとんど寝れていなかっただろう。


 アルトさんもライアを守れなかったことを悔やんでいたのか、帰りの行軍の間は一度も会話しなかった。ときおり空を見上げては、『ごめんね』とうわ言のように涙を流しながら何度も呟いていた。


 シェイラさんは自らの手で仲間を傷つけてしまったことを酷く気にして、ずっとラルクとアルトさんに謝っていた。自分の意思で攻撃したわけではないが、仲間を手にかけようとした自分のことを許せなかったようだ。


 師匠もシェイラさんと同じく、私を殺そうとした自分のことが許せなかったようで……その責任感と罪悪感のせいか、『王国に帰ったら二度と剣を持たない』とまで言っていた。


 そして、ホープさんと話すことも出来なくなってしまった。これの理由は全く分からないが……もしかしたら、何かあったのかもしれない。とにかく、気配も感じない……喋りかけても来ないし、心配で仕方ない。


 ……そして、私が1番悲しかったこと。それはラルクが記憶を無くしていたことだ。ただの記憶喪失ではなく、どうやら感情も希薄になってしまったようだ。


 基本的にずっと無表情で、無口で、ただ魔物を倒すその姿は以前のラルクからは想像も付かない。返り血を浴びてなお淡々と魔物を殺し続けるその様は、まさに殺戮兵器のようで……


(ラルク、何があったの?)


 王都に戻った後に、王宮にいる国内最高峰レベルのお医者さんに診てもらった。呪いの類かと思って、解呪をしたり教会で体を清めてもらったりした。それでも……ラルクは、元のラルクに戻らなかった。


「なんで? せっかく、魔王を倒したのに……!!」


 その先に待っていたのは、希望じゃなかったなんて……そんなの、酷すぎるよ。そう思っても私はどうすればいいか分からず……ただ、1人悩むしかなかった。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「……おい、大丈夫か?」


 私が考え事をしていると、横に立っていたラルクが声をかけてきた……そうだ、今はパレード中なんだった。


 『神龍の翼』の3人も、ラルクも、歓声に対して笑顔で答えている。みんな私より辛いはずなのに、その気持ちを隠して英雄らしく振る舞っている。


「ううん、何でもないよ。ちょっと……ね」


「そうか」


 だから私はまた前を向いて、今できる精一杯の笑顔で歓声に応えたのだった……頬を伝うこの涙もきっと、嬉し涙として語られることを願いながら。




 side:ラルク


「来たか……数が多いな」


 風魔法【フライ】で滞空しながら俺はそう呟く。その目線の先にいるのは、大量のSランクモンターがファイルガリア平原を王都に向けて進行している。『フォーマルハウト』が迷宮氾濫(モンスタースタンピード)を起こしたのだ。


「ラルク、あいつらが王都に着く前に倒せる?」


 隣にいる『彼女』が、俺に心配げに聞いてくる。


「大丈夫だよ、見てな……土魔法【メテオライト】」


 すると、およそ700個もの岩が空中に出現し、そのまま浮遊する。そして……


「『スキル強化』……『分身』、『投擲』ッ!!」


 それを全て同時に地面へと叩きつけるように投げつけた。全ての岩は音速を軽く超えた速度で地面に向かっていき、とてつもない音と摩擦熱を生みながら魔物達に着弾する。


「「「「「「「「「「ゴアァァァァァァ!!!」」」」」」」」


 その岩は大量のクレーターを形成し、地面を大きく揺らしながら全てのモンスターを撃滅した。元ののどかな平原の面影は跡形もなくなり、そこにあるのは無数の隕石が落ちた跡と、およそ500個の大人3人分の巨躯を持つモンスターの死骸だけだった。


「ふう…疲れた」


 そう呟きながら俺は土の上に寝転ぶ。周りに漂う屍臭と熱気にも、もう慣れてしまった。


「もう……まだ気をぬいちゃダメだよ?」


「分かってるよ、ちょっと休むだけだから…」


「分かったよ…………はい、魔物除けのお香焚いといたから、私も休むね」


 俺にそう言いながら、『彼女』は俺の横に寝転がる。


 そんな『彼女』を見ながら、俺はあの日のことを思い出す……が、しかし。


「ダメだ、思い出せない」


「また思い出そうとしてたの?」


 王都に凱旋してから数日後。俺はあの後から、なにも思い出せていない。手は尽くしたはずだが……とりあえず今は、毎日冒険者の仕事をこなしている。


 あと2週間もすれば、俺の両親……に、当たる人も王都に来てセレモニーをするらしい。そこで褒美として爵位やらも与えられるそうなのだが……あまり嬉しくないな。


 俺には、魔王を倒す以前の記憶がほとんどない。かろうじて『何か』を覚えているのだが……思い出そうとするとモヤがかかったように思い出せなくなる。


 それでも俺は、そんな記憶をたぐり寄せるように……絶対に忘れたくないそれを失ってしまわないように、今日も俺は思い出そうとする。


 俺が最弱と呼ばれ最強を志すきっかけとなった、あの日のことを。

次回からエピローグ、あとほんの少しだけ続きます。

……ちなみに、明日から1日2話連続投稿します。

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