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第百九十九話 たとえそれだけだとしても、僕は

第百九十九話、ラルク視点からスタートです。

「お前が復讐を望まないなら、どうして俺はここにいるんだよ……!!」


 まるで助けを求めるような声で、そう問いかけてくる魔王。きっと、魔王にも何か事情があったのかもしれない。


「知らねえよ、そんなもん。ただ……」


 でも、手加減はしてやらない。絶対にしない。俺にだって、戦わなきゃいけない理由がある。守らなきゃいけないものがある。そのために……


「どんな理由があろうと、勝つのは俺だ!!」


 ここでこいつを倒す。受け継いだ力と、魂に刻み込まれた思いに応えるために……! そろそろ『スキルバースト』の持続時間も切れてきた。ここで攻勢に出る!!


「『スキルバースト:身体強化・覚醒』……っ、痛え! けど……これで終わりだ、魔王!!」


 アイツがいなくなった今、『スキルバースト』の代償は全て俺に向かってくる。2つスキルを壊しただけでも、体が砕け散りそうなほどのだ……でも、この力なら────!!


「そうかよ……だったらやってみろ、偽善者! 『レベルバースト:100』!!」


 魔王もそれを悟ったのだろう、今までの最高火力……『レベルバースト』で、100レベルも使いやがった! ただそこに在るだけで辺りの空気が震えるほどの気迫と圧を放つその姿は、まさに『魔王』といったところだ。


 力はほぼ五分……お互いに全力を出した状態、思いの強い方が勝つ。そして恐らくこれが、お互いに最後の一撃になる。だから……全身全霊を賭ける!!


(スキル複合発動……『身体強化』『縮地』『空中歩行』『跳躍』『当身』『突進』『突撃』『渾身の一撃』『覚醒』『鋼の肉体』『思考加速』『見切り』……これが、俺の全力だ!!)


 今持てる全てのスキル、全ての能力を出し切った過去最高の一撃。光さえも置き去りにしてしまいそうなほどの速度で、俺の……そして、魔王の拳は同時に繰り出された。


「終わりだ、魔王!!」 

「これで消え去れ!!」


 全てを賭けた一撃。それがぶつかった瞬間に衝撃で地面が深く抉り取られ、火山が噴火したかのような爆発音が響き渡る。互いの攻撃の威力はやはり拮抗している。あとはどちらかが先に耐え切れなくなり倒れるかだ。


(強え!! これでもまだ足りないのかよ!)


 『スキルバースト』の副作用で体が痛い。出来るものなら、今すぐに意識を手放してしまいたい。


「さっさと……消えろ!!」


 地面を踏みしめる足も、魔王の攻撃を真正面から受けている拳も痛い。少しでも力を緩めたら、弾け飛んでしまいそうなほどの負担がかかっている。


 これが魔王の本気……抗えないとさえ思ってしまうほどの力の奔流が、俺を殺さんと襲いかかってくる。


(それでも、俺は……いや、()は負けない!!)


 だとしても、僕は負けられない。


「この世界は……フィリアは、僕が守る!!」


 ただそのために、それだけのために戦ってきた。僕は、フィリアを守るためにここまで来たんだ!! そのためなら、奇跡だって起こしてみせる!!


「っ!? こいつ、力が…………」


「喰らえぇぇぇぇっ!!!!」


 そして全てを賭けたその一撃は、ついに────



 side:魔王アルス


(俺が……負ける?)


 やけにスローに、目の前に攻撃が迫ってくるのが見える。俺は……押し負けたのか。


(何でだよ……何で、こんな所で)


 あと、少しだけだった。あと少しで、アイツの望みを叶えてやることが出来た。あとほんの少しだけ、俺に力が有れば……


(……っ!!).


 そう思った瞬間俺の目には、相手の瞳に映る自分の顔が見えた。そして俺は、気づいてしまったんだ。


(……だから、負けたのか)


 そこにあったのは、酷く歪んだ顔。悲しみと憎しみで歪んだ、醜い欲望を露わにしている俺の顔だった。


 コイツは……ラルクはずっと、大切なもののために戦っていた。だから、何度も何度も立ち上がって俺に向かってきた。俺だってそうだ……いや、()()()()()()()()


(でも、違った)


 俺が戦ってたのは、俺のためだった。復讐なんて、アイツはもう望んじゃいなかった。俺はただ、命よりも大切なアイツを傷つけたこの世界が、許せなかった。でもそれは、独りよがりな自己満足でしかなかったんだ。だから……


(感謝するぜ、ラルク)


 最後にそれが分かって、よかった。これで、安心して逝ける。たとえこの先に、どんな罰や地獄が待っていようと……その罪を、心から償う事が出来る。


 そして、()()()()は来る────!!



 side:ラルク


 ()()()()は、案外あっけなかった。攻撃が通ると思った瞬間、魔王は抵抗をやめ……俺の攻撃をもろに受け地面に叩きつけられ、沈むような音とともに砂埃の中へと堕ちていった。そして、もう一度その姿を見た時には……既に、魔王は事切れていた。


 しかしその顔は今までのような憎しみに満ちた顔じゃなく、とても穏やかな顔をしていた。頰には涙が伝った跡もあり、およそさっきまでと同じ『魔王』とは思えない。


 もしかしたらコイツは死ぬ前に、救われることが出来たのかもしれない。たとえそうだとしても、コイツのしたことは決して許されることではないが……


(……ちゃんと、罪を償えよ)


 俺にはただ、それを祈ることしかできない。もう、全部終わったんだ……


「……ラルク! ラルク、大丈夫……!?」


「────お前、誰だ?」


 数え切れないほどの、悲劇と犠牲を残して。

次回、第二百話……最終章エピローグです。

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