第百八十八話 躊躇う暇なんてどこにも
第百八十八話! 死ぬ気で戦え、ラルク!!
スキルバーストで『覚醒』『縮地』『突進』を破壊して勢いをつけ、『鋼の肉体』『受け流し』も破壊して万が一攻撃を受けても打ち合えるようにはした。これで……決まりだっ!!
「喰らえぇぇぇぇぇぇっ!!」
踏みしめた地面が割れた音が、背後から遅れて聞こえてくる。音の速さを超えた突進から放つ本気の一撃。予想外の動きをした結果、対応が遅れガラ空きになった魔王アルスの体にそれを打ち込んだ。
空気が割れるような音が響き、衝撃によって起きた風で砂埃が舞う。そしてその瞬間、僕の拳に伝わってきたのは……
「止まった……!?」
まるで素手で鉄を殴った時のような、動きを止められる感覚……なんでだ? いくら勇者と魔王の力があるとはいえ、あれをもろにくらえば致命傷になるはず……
「痛えなぁ……お返しだ!!」
何が起きたのか分からずに困惑していると、砂埃の先から魔王アルスの反撃が鳩尾に飛んできた。
「危ないっ!?」
それになんとかギリギリで反応し、もろに受ける寸前で攻撃をなんとか受け流し、その勢いを利用して距離を取る。念のため『鋼の肉体』と『受け流し』を発動していなかったら今頃腹部を貫かれて死んでいたかもしれない……
「ちゃんと見てんなぁ……まぁ、お互いにノーダメージだしいいか」
そう不敵な笑みを浮かべながら呟く勇者アルスの体には、傷ひとつついていなかった。まさか……スキルバースト5つでも、まだ足りないって言うのか?
『ってて……いや、それは絶対に無い。勇者の能力でステータスに補正はかかってるだろうがスキルバーストは受けられるとは思えない……が、魔王もそんな能力持ってたっけな……』
勇者アルスでも分からない能力……なんだよ、それ……?
『……いや、まあいい。とにかく何かタネがあるはずだ。それが判るまではとにかく攻撃を続けろ、押し切られるなよ』
今は粘るしか無い、ってことか……
「何ぼーっとしてんだよ……今度はこっちから行くぜ?」
あぁもう、考える暇も与えてくれないのか!? また視認できないほどの速度で魔王アルスが僕に迫ってきて……
(『スキルバースト:看破』……っっ!!)
もう痛みなんて知るか。とにかく今は……この攻撃を凌がないと!! 『看破』を壊したおかげで攻撃に余裕を持って対処できるようになったから……
「全部受けれるか!?」
まずは顔面に向かって飛んできているパンチを背中を逸らして避けて、ガラ空きなった所に放たれた足払いをなんとか地面を踏みしめて両足を浮かせて……
「やってやるよ!!」
魔王アルスの顎に向かってサマーソルトを放つ! だが……
「甘い!!」
しかしそれは魔王アルスに掴まれて止められ、そのまま僕の体を持ち上げて……って、このままじゃ地面に叩きつけられる!? ここはどうにかして受け流すしか……
(『スキルバースト:無重力』……痛いっっ!! 何で!?)
しかしそんな考えとは裏腹に、僕は無意識のうちに『無重力』をスキルバーストで壊していた。どうして……いやまさか、『武芸百般』の効果か!
『無重力』を破壊したことにより、僕の周りの物質……もちろん、魔王アルスにも重力がかからなくなった。と言うことは…… 空中戦に持ち込んだほうがいい、ってことか? だとしたら……
(『スキルバースト:初級魔法・全属性』……っ、もう慣れてきた……!!)
『容赦ねぇなお前……!!』
空中戦といえば魔法の撃ち合いだろう!!
「【ウィンド】!!」
風属性初級魔法【ウィンド】を使って僕を捕まえている魔王アルスごと身体を宙に浮かせて空中戦に持ち込む!!
元は初級魔法……少しつむじ風を起こす程度だが、スキルバーストを使ったら【ウィンド】も小規模な竜巻を引き起こすほどの大魔法に変化する!!
「仕方ねぇ、吹っ飛べ!!」
そのまま僕は叩きつけられる代わりに地面に向かって勢いよく吹っ飛ばされた。だが、『スキルバースト』を使った直後の魔法がある今はこっち有利だ!!
「【フライ】!!」
僕は【フライ】を唱え、空中で体勢を整える。よし、このまま……
『ラルク、そろそろ最初のスキルの効果が切れ始めるぞ!』
このタイミングで!? ……だったら、また別のスキルを壊すまでだ!
『お前な……痛みはもちろんだが、そろそろ副作用も酷くなり始めるぞ?』
そんな事はどうでもいい。今は、目の前のコイツを倒すことだけに────
(『スキルバースト:分身・魔法強化・上級魔法:全属性』……っぶない!! 意識が途切れそうだ……!!)
『やっべぇ……意識飛ぶ所だったぞ……』
流石にスキルバースト多重連続使用はまずいようで、たった2割の痛みで意識が飛びそうになってしまった。勇者アルスには申し訳ないが、とにかく今は耐えてもらうしかない。だけど、この攻撃は今までよりももっと強い!!
「これは耐えられるか、魔王!!」
スキルバーストを使用したことで生み出された100体の分身たちで魔王アルスを取り囲む。今、魔王アルスは空中に無重力で放り出されているから、防ぐ術はないはず……
「「「「「「【フレイムメテオ】!!」」」」」」
「「「「【ウィンドストーム】!!」」」」
「「「【ホーリーブラスト】!!」」」
「「「「「【グラウンドエッジ】!!」」」」」
スキルを破壊し威力の上がった上級魔法に、同時に破壊した『魔法強化』によって超強化され、1発1発が1ランク上の超級魔法……それこそ現実で起きたら大災害になるレベルの威力を持った魔法が数百発魔王アルスに向かって襲いかかる!!
これは相殺出来ないだろう……そう思った直後。魔王アルスから、信じられない言葉が聞こえてきた────
「『レベルバースト:10』、消え去れっっ!!」
そう言って、魔王アルスが右手を薙ぎ払った瞬間……僕と僕の分身が放った超威力の魔法は、一瞬にして消しとばされたのだった。
ずっと前、ボクはただの子供だった気がする。あるいは、家族を守りたかっただけの弱虫だった気もする。だけど、そんなことはもう覚えていない。ボクは、全てを壊してしまったから。無に返してしまったから。
────────魔王の回想より




