第百八十七話 化け物
第百八十七話! ついに……
時空の裂け目の先……その先は、どこまでも続いていそうな荒れ果てた荒野だった。てっきり魔王城の中に繋がっているのかと思っていたが、ここも異空間なのか?
僕たちより先に来た人は……戦った跡がないのを見るに、いないのだろうか? それとも……いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。きっとこの空間のどこかに魔王アルスがいる。そう考え、探しに行こうとしたが……
「1番乗りだな、おめでとう」
「────っ!!」
突如、僕の目の前に時空の裂け目が現れて……その向こうから、聞き覚えのある声が聞こえてきた。そして……その声だけで、完全に圧倒されてしまった。
「まさか本当に来ちまうとはな……てっきり途中で折れるもんだと思ってたよ」
僕の頭の中に何度も響いてきた声。何度も何度も聞いた声。それ全く同じ声、全く同じ飄々とした口調なのに……決定的に何かが違う。
それはまるで、僕を人として見ていないような……言うなれば羽虫に話しかけているような、そんな感じだ。でも……
「そんな固まんなよ……感動の再会だぜ? つっても、『お前』はまだ俺に会ったことは無かったか……」
なぜだろう。それを仕方ないと思ってしまう自分がいる。まだ、一方的に話しかけられているだけなのに……その存在から感じる強者の圧は、グレアさんもフィーズさんも比べ物にならないレベルに強い。
対面しただけで思わず息を呑むほどの気迫。全身に鳥肌が立ち……本能が危険だと、逃げろと叫んでいる。こいつが、戦わずとも分かるほどの圧倒的た化け物が、今から倒さなければならない相手……
「んじゃ、一応名乗っとくか。俺の名前はアルス……魔王、アルスだ。まあ、どうせ……」
姿が、消えた……来るっ!!
『ラルク、構えろ!!』
(『修羅』、『スキルバースト:覚醒・鋼の肉体』!!)
こんな化け物相手に、『スキルバースト』の使用を躊躇ってる暇はない。僕はデメリットを顧みず、『覚醒』『鋼の肉体』を破壊する。
(痛い、でも……全然、死ぬよりマシだ!!
いつものように、心臓が張り裂けそうな痛みが走る。だが、今は痛みを勇者アルスが請け負ってくれていることもあり戦闘に支障をきたすほどではない。戦闘態勢は整った……ここからが、勝負だ!!
体の右側にいつのまにか移動していた魔王アルスが放った拳を、左手で殴って相殺して────
「その程度じゃあ、ここで『終わり』なんだけどな」
『……っ、馬鹿!! それだけじゃ死ぬぞ!!』
……勇者アルスのその声が聞こえた時には、もう遅かった。辺りに響いたのは、攻撃が打ち合った時の空気が割れる音ではない……石壁を砕き割る時のような、とても鈍い音だった。
「そんな……!?」
こんなことが、あり得るのか? 『スキルバースト』は、デメリットがある代わりに莫大な出力を発揮する能力。フォーミュラの魔力級も、フィーズさんの全力も、全部これで凌いできた。それなのに、なんで……
「腕が……!!」
左腕の肘から先が、消えている? 鈍い痛みが走ったその先を見ると、そこには……さっきまであったはずの左腕が跡形もなく消え去り、滝のように血が流れ出していた。
『とりあえず止血しろ、燃やせ!』
このまま血を流し続ければ命に関わる、とにかく今は止血をしないと!
「【ファイアボール】……ぁぁぁぁあ!!!!」
熱い……痛い!! 【ファイアボール】で傷口を燃やし、なんとか止血はできた。だが、訳が分からない。一体、何が起きたんだ……!?
「何が起きたんだ、って顔してるけどよ……俺はただ近づいてちょっと魔力込めて殴っただけだぜ? そんな怖がるなよ」
今のが、ただの攻撃? まさかそんなわけ……
『ラルク、理解できねえだろうが受け入れろ。あいつはまだちっとも本気を出しちゃいない。あいつは……挨拶代わりの一撃で、スキルバーストも破ってお前の左腕を持っていったんだ』
……は?
『言ってるだろ、相手は規格外のバケモンだって。スキルバーストさえ、生半可な量じゃ通じねえ……まともにやり合うには、最低5個は砕かねえとダメだろうな』
そんなの、本当の化け物じゃないか……
『だから化け物なんだって。勇者と魔王の力持ってんだぞ?』
「何ぼーっとしてんだ? 諦めちまったのか?」
……っ、仕方ない……!!
(『スキルバースト:縮地・突進・受け流し』………あぁ、痛いっ!!!!)
「でも……っ!!」
5個同時スキルバースト……痛みは2、3個の時と比べ物にならないが、その分感じる力も桁違いだ!!
「…………っ、こいつまさか!?」
正直、今も激痛のせいで意識が切れそうでヤバい! でも、腕が切れた痛み、傷口を焼いた痛み、魂が削れる痛み……僕を気絶させようとしているそれが僕の意識を繋ぎ止めている。この痛みの分はきっちり払ってもらうぞ!!
「喰らえぇぇぇぇぇっ!!」
これで……決める!!
これは決まったな……!




