第百八十三話 決着、そして
「これで、決まったかな……?」
そう言いながら、リュートが墜落した地面を見下ろす。土煙が舞っており、どうなっているかはよく見えない。Sランクモンスターだから死んではいないだろうが……少なくとも、気絶してはいるだろう。
『索敵』の反応的にシェイラさんもリュートも動いていないが……どうなっているか……
「…………嘘だろ?」
土煙が晴れたとき……そこに、シェイラさんの姿はなかった。『索敵』の反応はあるのに、そこにいなかったのだ。一体、どこに……
「────きみ、相当強いんだね」
「……っ!!」
背後から聞こえてくる聴き慣れた声。五月蝿い羽音。おそるおそる振り返ったところにいたのは……子供の龍を抱いた無傷のシェイラさんと、大量の『ポイズンクイーンビー』だった。
たしかに、地面に伏しているリュートは大ダメージを負って気絶している。しかも、その上に魔力の反応もある。なのに……
「どうして……」
「『どうして居場所が分からなかったのか』……不思議でしょ? 私も不思議だったんだよ、なんで姿を消してるのに居場所がバレのかな〜、って。でも、さっきのあれ……『索敵』の応用かな? それで気づいたの。魔力の動きがバレないように動いたら良いことにね」
それって……
「『魔力操作』。『索敵』を持ってるなら知ってるよね? それを使って魔力の流れを私がいない時と同じようにしたんだよ〜。凄いでしょ?」
……凄いなんてもんじゃない。人間離れしてる。魔力の操作自体はそう難しいことじゃないが……操作精度が常識とは桁違いすぎる。魔力は血液みたいなもの……それを操作するのが『魔力操作』。スキルを手に入れて感覚さえ掴めば、その流れを操作するのは容易だ。
だがそれを全くのズレなく、まるで自分がいないかのように、そして別の所に自分が存在するかのように魔力を動かすのは難易度が高すぎる。それをあの数秒で……地面に落とされ、土煙が舞っているほんのわずかな時間でやってのけた。
「これが、Sランク……!!」
本当の化け物。常識の中に収まらない怪物。こんなの……強すぎる。
「でも、もう────」
「『終わり』だよ、シェイラ」
この声は!!
「アルトさんっ!」
「ラッキーだったね、ラルク。あのまま行ってたら危なかったんじゃない?」
「動けない……っ!? あなた、何を……っ」
「空間そのものを固定してるの。流石にそのレベルまで操作するには時間が必要だからね、結構力も使うし……だから、出来る限り使わないようにはしてるんだけど」
……そうか、喋ってる間にもう、さっき言っていた準備が終わったのか!! 『空間操作』で空間そのものを固定して動けないようにしているのか……本当に、逆に何が出来ないんだ。
「もう終わりだよ。抵抗はやめて────」
「『ポイズンクイーンビー』!! やっちゃって!」
まずい、固定していない『ポイズンクイーンビー』が飛んできてる! 流石にアルトさんでもあの数はまずい────止めないと! そう思って飛び込もうとしたが……
「だから……無駄だって。『時空崩壊』」
「「「「キ…………………」」」」
「「…………は?」」
その心配は無用だった。迫ってくるポイズンクイーンビーたちを、断末魔をあげる暇もなく消滅させた……潰したとか、切り裂いたとかじゃない。ほんの一瞬で、完全に存在ごと消し去っていた。
常識では考えられないその光景を見て、もう勝てないと判断したのだろう。必死に逃げ出そうとするシェイラさんだったが、その動きは完全に封じられていた。子供の龍も動けずに震えている。
「頭痛い……ごめんね、シェイラ。辛いかもしれないけど、その子は幻なの。だから……」
「なに、何なの……あなた、何者……? 幻って、何……?」
「私は……『神出鬼没』アルト。シェイラの仲間だよ」
「違う……違う! アルトは、アルトは……うっ……」
そうやって叫ぶシェイラさんの顔が苦痛に歪む。洗脳が解けかけているのか……?
「…………ごめんね、シェイラ。今はちょっと眠ってて」
「いやっ……」
抵抗も許さず、動けなくなったシェイラさんをアルトさんが気絶させる。
「そしてリュート……の、形をしたきみも……ごめんね。せめて……安らかに」
「ク……」
そして、シェイラさんが気絶してもなお守るように抱えていた子供の龍も、アルトさんによって一瞬で消し去られた。そして……
「ラルク、目を────」
「えっ────」
その地点から放たれた眩い光によって、僕たちの体は包まれて……!!




