第百八十話 マボロシノセカイ
「頼む、どうか無事で……」
シェイラさんがドラゴンに囲まれていることを知り、急いで『空間転移』で加勢に向かった。
「ラルク、念のため空中に出るよ!」
「分かりました……『空中歩行』」
何かあっても良いように念のため、ドラゴンの群れの真上に転移した僕たち。その眼科にあったのは……
「クルルゥ! クルゥ!」
「小さい頃から変わらないね〜、リュートは。よしよし……」
「……楽しそうだね」
ヴァルキリードラゴンの群れのど真ん中で、楽しそうに小さな子供の龍を抱いていた。いや……無事なら嬉しいことこの上ないのだが……
「これ、どうすれば良いんでしょうか?」
「さあ……?」
僕はてっきり、シェイラさんを囲んでいるドラゴンたちを倒すのがこの空間を開く条件だと思ってたけど……これ、どうすればいいんだ?
side:シェイラ
「小さい頃から変わらないね〜、リュートは。よしよし……」
リュートが何とかこの状況を説明して、ヴァルキリードラゴンの群れと戦いにならずに済んだが……
「でも……この空間、どうすればいいんだろう?」
この群れを殲滅すること? いや、だとしたらこうやって友好関係を築けるとは思えないし……
(……いや、まだ忘れてる人がいた)
そうだ……そうだった。もしここが私がリュートと出会う前の時を再現しているとするなら、まだ倒さないといけない敵がいる。
「この子たちの、仇……」
まだ、この子たちを倒すであろう敵がいるはずだ。そして、そろそろ来るんじゃ……
『────────!!!!』
そう考えていると、監視用に飛ばしていたソニックフェイルから敵を見つけたことを知らせる信号が送られてきた。これは……真上?
「…………あいつら、かぁ」
そうして見上げた先には、2人の冒険者がいた。何やらこちらを見下ろして話をしているようだが……
「君たちも依頼なんだろうけどさ……此処は私たち以外現実じゃないんだから、大人しくやられてね!」
あの2人には倒れてもらって、さっさとこの空間から脱出することにしよう。
side:アルト
(おかしいなぁ……?)
私は幸せそうにリュートを抱っこしているシェイラを見ながら、そう考える。
シェイラは確かにふわふわした性格をしているが……こういう時にやるべきことを分からない子じゃ無いはずだ。この空間が作り出されたものだと分かっているなら、きっとヴァルキリードラゴンたちを倒そうとするか私たちを探すだろう。
なのに、どうして……
(…………まさか! 『解析』…………っ、やっぱり)
もしかしてこの空間そのものに何か思考を鈍らせるような効果があるんじゃないかと思って、空間そのものを『解析』してみた結果……どうやらシェイラは、一種の催眠状態に陥っているみたいだ。
というか、この空間そのものが最初に入ってきた者の見たいものを見せるようにしている……そして、それを壊すことがこの空間を脱出する条件だ。つまりこの場合、恐らくシェイラが抱いているあの子供の龍を殺すことだろう。だとしたら……
(十中八九、催眠状態のシェイラは私たちに敵対する!!)
これはまずいかもしれない。無論、シェイラか私達2人のどちらかが戦闘不能になるのも危険だが……それより、シェイラが敵になるのがまずい。
確かにシェイラは魔物との戦闘には向いていない。だが……人間を殺す能力は私たちの中でずば抜けて高い!! これは警戒しないと……そう思って、下を向いた瞬間にシェイラと目が合った。
「ラルク、避け────」
そして、それと同時に私の真横を何かが目にも止まらぬ速度で掠めていった。
side:ラルク
「ラルク、避け────」
アルトさんがそう言った瞬間、僕たちの背後から何か不穏な気配を感じて……
「『空中歩行』!!」
嫌な予感がした僕は、咄嗟に『空中歩行』を使って魔力の壁を作り出した。そして、そこには……
「虫の魔物……!?」
これは……ソニックフェイル! Cランクの魔物だが、その名の通り魔物の中でもトップクラスの移動速度を誇る手のひらサイズのハエの魔物だ。もしこれに体当たりされていたら……
(骨折もあり得るよな……)
『身体強化』や『受け流し』を使っていなければ、どれだけステータスが高くても人間、簡単に怪我もするし死んでしまう。そういう点に置いて、もしかしたらシェイラさんの能力は……『殺す』ことにかけて最強格かもしれない。
でも、どうして僕たちに急に攻撃してきたんだ……!?
「ラルク! 今シェイラは催眠にかかってて、私たちを敵だと思ってる! とにかく……あの子供の龍を殺さないと、この空間から出られない! なんとかシェイラを行動不能にして倒すよ!」
つまり……倒す敵はシェイラさん、ってことか……!




