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第百七十九話 幻の世界

「…………子供の、ドラゴン……なの?」


 私が森の中で強い魔物を探していた時、その魔物に出会った。


 木の下に隠すように置いてあったその魔物は、ドラゴンと言うには子供にしてもあまりにも小さく、ワイバーンと言うにはやけに強い気配を放っていた。


「クルゥ?」


 そして……その周りには、親と思われるドラゴンを含んだ沢山の同族の死体が置かれていた。死臭漂うその場で、たった1匹だけ残された子供のドラゴン。それは偶然だったのか、あるいは……


(この小ささじゃ人を乗せられるよう育つまでに1年はかかるだろうしそれに、私は今すぐに強くなりたいんだけど……)


 一応Sランク上位の魔物とはいえ、まだまだ子供。育てる手間も考えれば、今すぐここで経験値にしてしまった方がいいだろう。でも……


「『ヴァルキリードラゴン』の子供、だから……」


 私はまるで言い訳でもするようにそう呟いて、そのドラゴン……リュートを育てることに決めた────決して、自分に重ねてしまったとか、そんな気持ちはない……そう、自分に心の中で言い聞かせながら。




 その後、私は試行錯誤を重ねながらリュートを育てた。体調を崩した時は看病したし、ご飯の種類も色々変えてみた。その結果、リュートはすくすくと育った訳だが……


「クルゥ!」


「近づきすぎだよ……まあ、いいけど」


 リュートを育てていく中で、私は変な感情に目覚めていた。あれだけ嫌っていたはずの魔物に……リュートに、少しずつ愛着のようなものが湧いていた。


 それでも、私は出来る限りその感情を抑えていた。私は、私の家族を奪った魔物と『絆』なんて築けない。そう、信じていたから。


 だけど、リュートは違った。私のことを本当の親だと思って、ずっと甘えてきた。私の気持ちなんて知らないくせに…………知らない、くせに。




 リュートを拾ってから1年が経った。立派に成長したリュートは、私たちの心強い味方になっていた……


(心強い……味方?)


 そして、私もリュートを育てているうちに気づいた。いつのまにか、私にとって魔物は……いや、まだ全員好きにはなれないが、少なくともリュートのことは『味方』だと思っていた……憎しみじゃない、何かで繋がっていた。


 最初こそそれを受け入れなかったが、それでもリュートと何度も何度も戦いを繰り返すことで信頼関係も絆も強くなっていった。そして、ほんの少しずつだけど……他の魔物のことも信頼できるようになっていった。


 だから、私にとってリュートはただの使い魔じゃない。大切な家族であり、仲間であり、そして恩人なんだ……



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「もしかして、この群れ……リュートの親なの?」


 私はコンシールカメレオンの能力で自分の姿を隠しながら、ヴァルキリードラゴンの群れを少し離れたところから見つめていた。


 アルトから聞いたことがある。空間を操る魔法には、魔法の対象者の経験から空間を作り出す魔法もある……って。もし、ここが私の経験を元に作られた場所だとしたら……この子達は、リュートの親とその仲間ってこと?


 でも、私がリュートを拾ったときにはすでに全員死んでしまっていたはず……


「ガルルゥ……?」


 そんなことを考えていると、おそらく群れのリーダーと思われる個体が不審がるような鳴き声を出した……まさか────


『グルルォォォォォォン!!!!』


「きゃあっ!?」


 まずい……! 『咆哮』の効果でコンシールカメレオンの擬態が解けた……しかも、それに気づいたドラゴンがこっちに向かってきてる!


「グルォォォン!」


 早く迎撃しないと────


(…………なんで、リュートの親は殺されたんだろう)


 しかし攻撃しようと思った瞬間、私の頭の中にふとそんな疑問が浮かんだ。もしかして、リュートの親は……


(私に殺されたんじゃ……?)


 そうじゃないのは知っている。ここは、何者かによって私の記憶が再現されただけの場所。だから、ここで私がどんな行動を取っても……


(リュートの、親を……)


 そう、()()()()()()()。しかし、攻撃することを待ってはくれない。だから……


「って、とりあえず受けないと!」


 ヴァルキリードラゴンの前足から放たれた爪撃は、すでに私の目の前に来ていた……


(いなし切れない……!!)


 ただでもSランクの魔物の群れを相手するのは難しいのに、初手でダメージを負うことになるなんて……アルト達が来る保証もない……!! 


 そして私は、来る痛みに備えていたのだが……


「クルゥゥゥゥ!!」


 その攻撃が私に届くことは、なかった。今は動けないはずのリュートが、無理矢理出てきて私を庇ったのだ。


「リュートっ!!」


 私の判断が遅れたばっかりに……


「グルゥ!? グルルル……」


「クルゥゥゥ……」


 何か……話をしてるの? 攻撃はやめてくれたみたいだけど……


「グルルォォ!? グルゥ……グル……ゥゥ」


「クルゥゥゥゥ……クルゥ!」


 群れのリーダーと思われるドラゴンと、リュートがそうやって話していると……奥の方から、また別のドラゴンが出てきた。そして、そのドラゴンが咥えていたのは……


「リュート……」


 子供の頃の、リュートだった。

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