第百七十八話 シェイラの世界
第百七十八話! 辿り着いた先は……!?
「ここは……森?」
飛び込んだ光の先……そこにあったのは、鬱蒼とした森だった。だが、エルフの森のように魔力に満ちているわけではなく、ただの普通の森みたいだ……いや待て。
よく考えたら……いや、よく考えなくてもおかしい。何で魔王城の中に森があるんだ? まさか、魔王城から強制的に別のところに飛ばされた……!? だとしたら……
「アルトさん、もしかして僕たち、罠にかかったんじゃ……」
「いや、ここは────」
「ウキャア!!」
アルトさんが何かを言おうとした瞬間、突然木の上から尻尾が2本、手が6本に分かれた、猿のような魔物が襲いかかってきた! でも、動きはそんなに速くない。奇襲されたが……
「『空中歩行』」
「ウキャッ!?」
『空中歩行』で動きを止められる程度なら……
「『渾身の一撃』!」
「ギャアッ!!」
全くもって問題ない。この程度なら、スキル複合発動を使用する必要もないだろう。そうやって僕が『渾身の一撃』で倒した魔物を見ながら、アルトさんは呟く。
「…………やっぱり。ラルク、ここは……シェイラの記憶が再現されてるのかもしれない」
……シェイラさんの記憶が、再現されてる?
「まだ確信があるわけじゃないんだけど、多分そうだと思う。まず私はここを知ってる。ここは……シェイラとリュートが最初に出会った森だから。3年前くらいに、『神龍の翼』で受けたクエストの帰りに通ったときにね」
シェイラさんとリュートが最初に出会った森……って、だとしたら!
「じゃあやっぱり転移させられたんじゃ……!?」
「多分無いね。私の『空間操作』でシェイラの所まで飛べない。つまり、私はここに来たことがない。だから、ここは多分……シェイラの体験とか記憶を元に作られた、異空間だと思う」
そんな、空間を丸ごと再現するなんてありえない。って、そういえばアルトさんも入学試験で似たようなことしてたな……ん、待てよ? 僕たち、どうやってここから出るんだ?
「だとしたら、どうするんですか? もしここに閉じ込められたままだったら……」
もしかして、このまま……
「その可能性は低いかな。基本的に、空間って一方通行では作れないの。だから、何か条件を満たせば出られるようにはなってるはずなんだけど」
その条件が分からない、ってことか。だとしたら、まずは早くアルトさんのところに向かわないと……
「……うん、見つけた。シェイラはあっちの方向に……って、えっ!?」
「どうしたんですか!?」
どうやら、『空間操作』でシェイラさんを見つけることには成功したみたいだけど……
「シェイラが……大量のドラゴンに襲われてる! それもSランク上位の……こんなの、現実には無かったはずなのに! 早く行かないと危ない!!」
「そんな、急がないと!」
シェイラさんは確か、あまり戦いには長けていなかったはず……それなのに1人で戦うなんて無謀すぎる!
「この距離ならすぐ転移出来る! ラルク、近くに来て!」
そう言われたので、アルトさんの近くへとすぐに移動する。近づいて見たら分かったが、アルトさんは少し涙目になっている。
「行くよ……『転移』!!」
頼む、無事でいてくれ……!!
side:シェイラ
「なんなの、これ……?」
アルトを庇って魔王城の扉に吸い込まれた先は、私が昔にリュートと出会った森の中。そこで私は、リュートと同じ種族のドラゴン……Sランク上位の『ヴァルキリードラゴン』の群れに囲まれていた。
いや、一応私の固有スキル、『一心同体』の効果でコンシールカメレオンの能力を借りて姿が見えないようにはしているからバレないとは思うが……
「どうしてまた、ここに……」
そう呟きながら、私は過去のことを思い出す。
『空間操作』でなんでも出来る万能なアルト、どんどん成長していってそれでもまだまだ底が見えないフィーズ。そんな強みを持つ2人に、私だけが遅れていた。
その頃の私は、魔物に対する『憎しみ』を媒介に魔物を操っていた。
本来、テイマーは魔物との『絆』を用いて使役するのだが……私は、どうしても魔物のことが好きになれなかった。自らの破壊衝動にのみ忠実な、下劣で卑劣な生物。それと仲良くしようなんて……到底理解できなかった。
その結果、テイマーとしての本来の能力を発揮出来ないでいた私は、実力的に伸び悩んでいたのだ。固有スキル『一心同体』の能力で使役している魔物の数と質に応じてステータスやスキルを加算することが出来たから、なんとかついていけていただけだったのだ。
だからこそ、過去の私はクエストの帰りに、1人でこの森にやってきたのだ。人里離れたところにあり魔力に満ちている、Aランクの魔物たちが沢山いるこの森に。
そしてそこで私は、運命を変える出会いを果たすことになる────
条件とは、一体……




