第百七十七話 潜入、魔王城
第百七十六話、突っ込めぇぇぇぇぇえ!
「このまま突っ込んじゃえ!!」
リュートは魔王城に向けて、さらに勢いを増して接近していく。分身からの上級魔法数十発のサイクルを2、3回繰り返して、このまま魔王城に……と思っていたのだが、もうあと10秒も飛べば到達する所まで辿り着いた瞬間。
「ク、ルルルゥ…………」
「リュート!? まさか、瘴気のせい!?」
突如、リュートが減速してどんどん高度を下げていった。多分……瘴気が濃すぎるんだ。薬も過ぎれば毒となる。魔物の元である魔力も、多すぎると魔物が生きるための障害となってしまう。
リュートはもう墜落しないのがやっとというふうになんとか地面に着地し、ぐったりしていた。
「よしよし、リュート……無理させてごめんね。帰ったらいっぱいご飯あげるからね」
「クルゥ…………」
そう言って、シェイラさんはリュートを光の粒に変えて回収した。ここからは魔物もいないし、歩いていくことも出来るから大丈夫だろう。
「みんなはもう着いてそうだよね」
リュートの移動速度は確かに速いが、それはあくまで普通の冒険者と比べれば……という話。グレアさんとフィリアは多分敵の中を突っ切っていっただろうし、フィーズさんとライアは多分フィーズさんがライアを抱えて突っ切っていっただろう。
「ラルク、シェイラ。ここからは何が起こるか分からないから……気を引き締めて行くよ」
ここからは魔王城……もしかしたらすぐに魔王と戦うことになるかもしれないし、何か罠とかがあるかもしれない。気を引き締めないと……
そんなことを考えながら、魔王城に向かって走ることおよそ1分。特にその道のりに魔物や罠が用意されていることもなく、魔王城にたどり着くことが出来た。
「大きい……」
一応、勇者アルスの記憶でも見たことはあったが……実際に見るのは初めてだ。扉だけでも僕の数倍の高さがあり、城のてっぺんは少し下がらないと見ることが出来ないほど高いところにある。
『……ここが、俺の死んだ場所だったのか』
勇者アルスも、どうやら思うところが……ん?
(だったのか……って、まるで人から聞いたみたいな……)
『ん……あぁ、気のせいだろ。そんなことより集中しろ』
……まぁ、いいか。
「じゃあ行くよ。2人とも、覚悟はできた?」
「私はいつでも。召喚は使えない分近接戦はするよ。ラルクは?」
覚悟……覚悟、か。
よく考えたら、僕がここに来るまで色んな人に助けられた。
王都に送り出してくれた父さんと母さん、特訓してくれたシルクさん、強くなる理由をくれたフィリアはもちろん、その他にも色んな人が僕を助けてくれた。
だから今度は、僕がみんなを救ける番だ。
「魔王を倒しに……行きましょう」
「分かった。じゃあ開けるよ……って、あっ────」
アルトさんがそう言って扉を開けた瞬間……アルトさんが扉の中に吸い込まれそうになって……
「アルト、危ない!!」
なんとかそれを庇おうとしたシェイラさんが吸い込まれてしまった!!
「シェイラ!」
「シェイラさん!」
単独行動なんて危険すぎる。僕たちはそれを追って、急いで扉の中へと飛び込んで行った。
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「何これ……無?」
「『空間操作』も反応しない……異空間、かな」
扉の中に入ったはいいものの、そこにあったのはどこまでも続いているかのような真っ黒な空間。『魂の回廊』のまさに真逆みたいな場所だった。
「って、そんな場合じゃない! シェイラ、聞こえる!? 早く探さないと……って、ダメ、『空間操作』じゃ反応しない……」
こんなに焦っているアルトさんを見るのは初めてだ。相当シェイラさんのことが心配なのだろう。
「早くしないと……シェイラに何かあったら……」
僕とフィーズさんが戦っていた時もそうだが、アルトさんは、仲間が傷つくのをひどく怖がる節がある。いつもはクールだけど、本当は優しい人なんだよ、ってライアも言っていた。それ故に……こういう時の不安定さは目立つな。
「あっ、でもあそこ……光が!!」
暗闇のはるか向こう。僕は、突如一粒の白い光が現れたのを見つけた。あれがもしかしたら出口かもしれない。
「シェイラ、今すぐ……」
「待って下さい! 一旦落ち着いてください。あんなの、あからさますぎます」
「でもっ…………ううん、ごめん。ちょっと取り乱してたみたい」
冒険者をしてるときに1番怖いのは、絶望じゃなくてチラついた希望……というのは、冒険者の中では常識だ。それに迂闊に飛び込んで罠にかけられて死んだ例なんて数多くある。
「……うん。ごめんね、もう大丈夫。いつでも逃げられるよう準備は出来てる」
「分かりました。じゃあ……行きましょう!!」
そうして、僕とアルトさんは今度こそその光に向かっていった。光は僕たちが近づくにつれだんだんと大きくなり、目の前に着いたときにはまるでこの黒い空間に開いた一つの穴のようになっていた。
「この先はまた別の異空間に繋がってるみたい。中にはシェイラと……もう一つ、何かの反応があるけど……」
「危険はなさそうですか?」
「分からない……でも、シェイラを助けにいかないと」
「そうですね。じゃあ、行きますよ!!」
僕たちはシェイラさんと合流するため、その光に向かって飛び込んで行ったのだった。
次回、シェイラさん救出なるか……!?




