第百七十六話 魔王城
第百七十五話! 殲滅戦はラルクの得意分野ですが……?
「複合発動、『衝撃波』!! アルトさん、大丈夫ですか!?」
僕は波のように襲いかかってくる魔物を倒しながら、アルトさんにそう聞く。アルトさんはあくまで補助要員、これだけの魔物の相手は厳しいんじゃ────
「大丈夫、私もある程度は戦えるから……『魔術召喚:【インフェルノブレイズ】』」
……そんなことなかった。異空間に保存していた、上級魔法よりも格段に強い超級魔法【インフェルノブレイズ】を発射し、前に立つ魔物を跡形もなく地面ごと焼き払った。何でも出してくるなこの人、逆に何が出来ないんだろう?
「ラルク! アルト! 乗っておいで!」
そうやって地上で戦っていると、いつのまにかリュートに乗っていたシェイラさんが上空から呼びかけてきた。だが……
「空に行っても大丈夫なんですか!?」
僕たちが移動の手段にシェイラさんの召喚獣を使わなかった理由の一つに、空は危ないという理由がある。
僕はともかく、フィーズさんやグレアさん、フィリアは地面がない分行動が制限されるため、咄嗟の対処が難しい。それに、僕も『空中歩行』があるとはいえ地上の方が戦いやすいのも事実だ。だが……
「ラルク、今は空の方が安全。いつ空から攻撃が飛んできてもおかしくないし、これだけ多いと注意できない。それに、逆に行ってあげないとシェイラとリュートが危ない」
アルトさん曰く、空の方が安全とのことだ。だったら……
「分かりました! 複合発動『跳躍』『渾身の一撃』……『ハイジャンプ』!!」
「『転移』」
僕とアルトさんは、シェイラさんの呼びかけに答えてリュートの背中に乗る。固い鱗に包まれているが、所々傷が付いていることから今も相当無理をしているのが分かる。
「2人とも、しっかり掴まってて……リュート! 飛んでいいよ!!」
「キュォォォォォォォォォン!」
その咆哮と共に、リュートはものすごい勢いで魔王城へと向かって進んでいく!! さすが、シェイラさんの相棒をつとめている飛龍……襲いかかってくる魔物の攻撃を避けながらスピードを落とさず飛んでいる。だが……
「シェイラ、前に魔物の群れが。さすがにリュートでもあれは……私がやろうか?」
魔王城への道を塞ぐかのように、数にして百匹以上の、強さ推定Aランクの魔物が飛んでいるのが見える。
「いや、アルトの本気はまだ取っておこう。あれはちょっと……強すぎるから。ラルク、やれる?」
アルトさんの本気……それを見てみたい気もするが、使わなくていいと言うからには何か理由があるのだろう。ここは僕が……
「やってみます! 【ホーリーブラスト】30連!!」
僕は上級魔法【ホーリーブラスト】をその群れに向かって放つ。だが、それで倒せたのはほんの一部だけだった。
「ラルク、本当に大丈夫なの!?」
「はい! ここからです!!」
もちろんだ。相手は恐らくAランク。これはあくまで、目眩しのための攻撃……本命は、今から行う攻撃だ!
「『分身』……行けっ!!」
僕は『分身』を20体生み出し、『空中歩行』と『縮地』を使わせて魔物達の前まで移動させる。そして、その分身達に指示していたのは……
「撃てっ!!」
「「「「「「【ホーリーブラスト】!!!!」」」」」」
「「「「「「「【フレイムメテオ】!!!!」」」」」」」
分身の持つ魔力は、僕の5%……大体5000ちょっと。上級魔法1発を撃つのにかかるのはおよそ800だから、1体あたり6発放つことができる。つまり……
「喰らえ、上級魔法120発だ!」
立ち塞がる魔物達よりも数が多い弾幕と光線で、一気に殲滅できる。目の前にいた魔物の群れは、【ホーリーブラスト】で弱らされた後に、【フレイムメテオ】によって焼かれ……辛うじて生き残った魔物も、分身がトドメを刺していた。
「えげつない……じゃなかった。リュート、今のうちに!」
「ラルク、ナイス……正直ちょっと引いてるけど」
うん、何だろうこの複雑な気持ち。魔物を一掃できて、魔王城への道が開けたのはいいが……よし、考えないようにしよう。
そして僕たちは、もう目と鼻の先にある魔王城へとリュートに乗って近づいて行ったのだった……
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side:『背信の勇者』アルス
感じる。自分の片割れの気配を。
「やっと来たみたいだな……漸く、決着が着けられる」
感じる。自分が愛していた、あの人の気配を。
「全く、この力も厄介なもんだ。定着するまで魔王城から長い間離れられないとか……強いのは確かなんだけどな」
感じる。『終わり』が近づいてきているのを。
「さぁ……まずは、選別からだな。俺に殺されるまでは死ぬなよ、偽善者」
さて、誰が生き残るかな……
⁇?『我の出番は……まだ、時期尚早か……』




