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第百六十七話 想像以上

第百六十七話! 勝てるのか……!?

『……なぁ、あいつ本当に人間か?』


「なんでこのタイミングで呼び出しますかね?」


 てっきり、僕はフィーズさんに殴られて意識を失ったと思ったが……どうやらフォーミュラ戦の時のように、強制的に勇者アルスに呼び出されていたらしい。


『お前、このままだと気絶して負けて終わりだぞ? むしろ感謝して欲しいくらいだ』


「でも、ここから巻き返すのは……」


 確か気絶した時、もうフィーズさんの攻撃は僕に向かって放たれた後だった。かと言って、壊れた右腕と利き手ではない左腕で受けられる気がしない……


『……3回だ』


「はい?」


『スキルバースト、3回までで決めてこい。痛みだけは俺が引き受けてやる』


 ……いやいやいやいや。こんな所であの能力を使うのは……


『じゃあ逆に聞くが、ここで負けたらどうやって魔王討伐に行くつもりだ……受け入れろ、ラルク。勝ち目がどんだけ薄くても、勝つしかないんだよ』


 とんでもない無茶を言ってくれるな……僕だって、出来る限りスキルバーストは使いたくないのに……


『俺だって痛えんだよ、割と……それにまだ……』


「……分かりましたよ」


『ん、そうか。じゃあ……』


「あ、待って下さい!」


『どうした?』


 ……そういえば、ここに来てから何か少し違和感がある気がする。


「……なんか、雰囲気変わってませんか?」


 そう。いつもなら飄々とした感じで、どこか真剣じゃないような雰囲気の勇者アルスが……今日は何故か、あまり笑っていない。というか……なんというか、人間味がない、のか?


『ん? あぁ……最近1日50時間しか寝てなかったからな。疲れてんだよ』


「いくら時間の流れが遅いからって寝過ぎでしょ」


 それだけならいいのだが……


『じゃ、戻すぞ。戻ったら即スキルバースト使えよ』


「……はい。行ってきます」


 ……ここからが、本当に本気同士の戦いってことか……! 気を引き締めないとな。そう思っていたら、少しずつ意識が現実に戻っていき────






『行った、か。はぁ……まだ全部()()()()()無いんだが……またあいつが馬鹿やらかさねえことを祈るだけだな』




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



(戻ってき────ってもう目の前に拳が!?)


 勇者アルスの忠告はこういうことだったか!! だけど、どのスキルを壊せばいい!? 手も足も使わずに、この攻撃を避けるか防ぐか出来るスキル……そうだ、あれだ!!


「『スキルバースト:空中歩行』……っづぁぁぁぁあ!!!!」


 これで……2割……っ!! 意識が飛ぶというほどでは無いが……やっぱり痛い! でも!!


「これで終わり……って、何だこれ!?」


 その痛みの分、恩恵も大きい。スキルバーストで強化された『空中歩行』によって出来た魔力の足場……もとい、フィーズさんの攻撃を防ぐための盾は、その攻撃を完全に受け止めている!! が……


「ぶっ壊れろっ!!」


 連打!? まさか、魔力壁を強引に壊すつもりか……!?


(って、壊すペースが速すぎる!!)


 うっそだろ……スキルバーストを使ったのに、それでさえ魔力壁の生成が間に合わない……だったら!


「これで……割れろっ!!」


 そう言って、フィーズさんが魔力壁を完全に壊そうとした瞬間。僕は魔力壁そのものを消して……


「『スキルバースト:受け流し・渾身の一撃』!!」


 この2つのスキルを同時に破壊────


「っだぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!」


 流石に……2個同時破壊は、魂への負担も大きいようだ……!! 単純にスキルバーストを使った時の数倍もの痛みが僕の体を襲う。勇者アルスはこのさらに4倍の痛みを受けてる……大丈夫なのか!?


『俺のことは……いい、から……さっさと……フィーズを倒せ!!』


 ……そうだ。今は目の前に集中しないと……というか、ここで決め切る!!


 何故僕がこの2つのスキルを()()()()()()()()()()()()()。その理由は……


「スキルバースト+スキル複合発動……」


 そう、このスキルたちは何を隠そう、フィーズさんのその攻撃力をそのまま……いや、何十倍にも増して還元するための技……


「『ジャックポット・カウンター』!!!!」


「これは……避けられねえ!!」


 『ダブルアップ・カウンター』の進化版で、確実に倒す!! 僕は全身全霊を込めて、まだ動く左腕をフィーズさんに向かって振り抜いて────


「危ないっ!!」


 その瞬間、アルトさんの声が聞こえてきてフィーズさんが目の前からいなくなり……直後、まるで雷が落ちたかのような衝撃音とともに目の前には信じられない光景が広がっていた。


「何だよ、これ……」


 ……信じられない。いくらスキルバーストを使ったからって……


『お前……やべぇ、なぁ……』


 勇者アルスが、思わず驚いてそうこぼすほどの事態。そりゃあそうだろう。だって……


「クレーター……!!」


 僕が拳を振り抜いた先の地面。そこにはまるで、巨大魔法が落とされた直後のような大きなクレーターが出来ていた。畑5個分くらいの大きさの地面が抉られ、生えていた木も根元ごと吹き飛ばされている。


「…………ラルク、やべえな……これ、まともに受けてたら絶対5箇所は骨折してたぞ……」


「ほんと、私が助けなかったらどうなってたか……全治1ヶ月くらいにはなってたよ、ほんと」


 よかった。どうやら当たる直前にアルトさんがフィーズさんを僕の背後に瞬間移動させてくれたみたいだ……僕はつい熱くなってやりすぎてしまったらしい。


 もしアルトさんが乱入してフィーズさんを逃がしてくれなかったら……そう考えると、背筋に悪寒が走る。


「……すみませんでした、フィーズさん。完全に熱くなってしまって……もう少しで、もしかしたら……」


「……いや、いいんだよ。お互い様だ。こっちもついカッとなってお前の腕を……待て、相当ひどいな。大丈夫か?」


「はい、痛いのは慣れたので……」


「そうか……お前は強かったよ、ラルク。お前となら……少し、考えてみてもいいかもな」


「本当、ですか……!?」


「……私を倒したんだぞ? 『魔王討伐』を受けたいだなんて言うだけは……いや、それ以上の実力があったよ。お前なら、もしかしたら……私たちの悲願を、叶えられるかもしれない」


「……っ、はい!!」


『本当に、よくやった……! 一歩、前進だな」


 ……とりあえず、第一関門クリア……って、ところかな? これで、やっと休める……


「…………そこの話はついた所で、2人とも。なんで勝手に戦ってたの?」


「「…………お慈悲を下さい」」


 そんなことは無かった。

クレーターが出来る攻撃→フィーズさん骨折


この人、不死身なのでは?

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