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第百五十四話 悪魔の力【最終章プロローグ】

第百五十四話! 最終章『武芸百般』編、プロローグです!!

「……寝れない」


 僕は、Sクラスの生徒用に用意された寮の部屋(なんとトイレ付き、共同浴場もある豪華な寮だ)のベッドの上で、僕はそう呟く。多分、寝られない理由は……『あの話』のせいだろう。時は、世界樹を守ったあの日まで遡る……



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『……来たか、ラルク』


「何ですか、急に呼び出して……」


 今日は色々ありすぎて疲れたから早く寝よう……そう思って、お風呂に入ってすぐに寝たはずだったのだが、僕はどうやら、魂の回廊(いつものくうかん)に呼び出されたようだ。


 目の前で僕を見つめている、勇者アルスの表情は険しい。多分、『スキルバースト』の話なのだろう。


 勇者アルスがした忠告……『二度と、スキルバーストを使うな』。恐らく、その意図を教えてくれるのだろうが……


『何で呼び出したかは分かってるみたいだな? だが。その原因は分かってない、と』


「はい……僕も、あの力が何となく危ないのは分かってます。でも、ただ()()()()なのに何をそんなに怖がっているのかわからなくて」


 『武芸百般』がレベルアップしたことで新しく得た力、『スキルバースト』。スキルを破壊し、その時に出た力で一時的に強大な出力で破壊したスキルが使用可能になる力だ。


 その代償は、魂が引き裂かれるような痛み。恐らく、3回以上使おうものなら心が壊れてしまうだろう。でも……逆に言えば、僕が痛みを我慢するだけで一気に強くなれる力と言える。それを、どうして使っちゃいけないんだ……?


『お前……まさか、()()()()()()のか?』


「気づいてない、って……何の話ですか?」


『……聞き方を変えるぞ。お前がスキルバーストを使った時、痛み以外に何か違和感が無かったか?』


「それは……あっ、そういえば、何か記憶にモヤがかかったような……」


 確か、『スキルバースト』を使った時に何かを思い出せなかった気がする。だけど、それがどうしたって言うんだ?


『事の重大さが分かってねえみたいだから単刀直入に言うぞ。お前が新しく得た力……スキルバーストは、お前のスキルだけじゃない。お前の記憶も、感情も……魂そのものを、破壊する力だ』


「……はい?」


『考えてみりゃ当たり前だ。スキルを破壊する……つまり、体に、魂に刻み込まれた力をぶっ壊してるんだからな。なんらかの弊害があったっておかしくないさ』


 それって……つまり、『スキルバースト』を使い続けたら……


「僕は……壊れる、ってことですか?」


『まあ、使いすぎたらの話だけどな。恐らくこのまま何度も何度もスキルバーストを使えば、感情も記憶も少しずつ消えていって……最後には、何も無くなる。何も感じず、何も思い出せず……そんな姿、俺は見たくねえよ』


 その話を聞いて、僕は背筋に悪寒が走ったのを感じた。


 感情も記憶も消える……それはつまり、『僕』は消えて無くなってしまうってことだ。冒険者として活動したことも、家族のことも、フィリアとの思い出も……全部、それがあったことさえ思い出せなくなる。


 それだけでも恐ろしいのに、それを()()()()()()()()()()()()()()()()()。それは、ある意味では救いかもしれないが……今の僕は、それを何よりも恐ろしく感じているのだ。


『……大丈夫か? 顔色が悪いぞ』


「これを聞いて大丈夫でいられるわけないでしょう……」


『あぁ……たしかに、急すぎたかもな。だが……気休めってわけじゃないが、使わなきゃどうってことはないんだ。そんなに気負わなくても大丈夫だろ』


 まあ確かに……そう、だよな。使わなければいいんだ。使わなければ……


『だから……くれぐれも、乱用だけはするなよ。この力を使っていいのは、絶対に勝たなきゃいけない時だけだ。分かったか?』


「……はい」


 『スキルバースト』。記憶と感情と痛みを代償に、強大な力を得られる、まさに悪魔の力。だからこそ、僕はそれを封印することに決めたのだった。


『他にも言いたいことはあるが……今日じゃなくてもいいか……お前も疲れてるだろうしな。今日はこれで終わりだ。いい夢見ろよ』


「…………それ、本気で言ってます?」


『さあな』


 そうやって軽口を叩く勇者アルスの表情は、笑っているように見えて……やはり、どこかまだ険しいままだった。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「……眠い」


 結局、あの後も中々眠れずに、寝て起きてを繰り返していたら朝になってしまった。ただ、生活バランスを崩してはいけないと思い、眠い(まなこ)を擦って寮の一階に備え付けられた食堂でご飯を食べていると……


「ラルク、大丈夫かい? 最近、あまり寝れてないみたいだけど……」


「ちょっとクマ出来てるじゃねえか……一回落としとくか?」


「ケント、それはやめとこうか」


 ケントとセイルが、そう話しながら僕の横に座ってご飯を食べ始めた。もう1週間も同じ寮で暮らしているのと、2人がいい人だったのである程度打ち解けて話せるようになった。


「ちょっと考え事してたら、気づいたら朝になってて……」


「そうか……俺の両親も、たまにそんなことがあったよ。ちょうど今の君みたいだ」


「僕は毎日快眠だけどな!」


「「それはケントが馬鹿なだけでしょ」」


「酷いなお前ら!?」


「そうだそうだ! ケントをいじめるのは良くないぞ! 私だって毎日快眠なんだからな!」


 ……だけど、こうやって話していると少しは眠気も飛んでいくはず……ん? なんか今、1人増えてなかったか……? そう思って、その声の方向を見ると……


「「「フィーズさん!?」」」


 何でこの人がここに……


「いやー、急に話しかけたら驚くかなって」


「何歳なんですかあなた」


 もう発想が5歳児なんですが……この人、本当に30歳くらいなんだよな?


「永遠の18歳だぞっ☆」


「うわ、キツい……」


 そうやって声を漏らすケント。確かにちょっと思ったけど……それを口に出したら……


「ケント、いい度胸してるな?」


 そう言いながら、フィーズさんがゆっくりとケントの方に近づいていく。


「あ、今のは……」


 ケントも席から立ち上がり、少しずつ後ずさるが……


「……待ぁぁぁぁぁてぇぇぇぇぇぇえ!!!!」


「嫌だぁぁぁぁぁぁあ!!!!」


 ……ご愁傷様。

ちなみにフィーズさんは、剣聖ホープと同じくらいの年に生まれているので大体28歳と言ったところです。

それで永遠の18歳……流石にきt……おっと、だれか来たようだ(作者死亡エンド)


追記:ちなみにSクラスには一部を除いて国レベルの隠蔽工作・情報操作がなされているのでラルクやフィリアが長期間滞在していることに対してはみんなに『故郷に帰った』とか思われてます。

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