第百四十七話 肉弾戦
第百四十七話！ 近距離なら勝ち目は……あるのか？
このまま遠距離から攻撃していても埒が開かないと判断したのか、フォーミュラは遠距離攻撃をやめて肉弾戦を仕掛けてきた。
『体ノスキル、身体強化、空中歩行ヲ発動……身体性能ノ上昇ヲ確認』
『身体強化』……僕も毎回お世話になっている、魔力で自分の体を強化する能力だ。もしもフォーミュラが持つ莫大な魔力を身体能力の向上に使われたら……
『これ……肉弾戦でも勝ち目なくないか？』
「僕の心の声を代弁するの、やめて？」
だが、勇者アルスの言う通り。正直あまり勝ち筋が見えない……やっぱり、こうなったら……
『……なぁ、ラルク。もしかしてだが……もう一回使うつもりか？』
「それしか勝ち目が……」
『やめとけ！ 俺はとにかく……お前の精神が持たない！ 心がぶっ壊れるぞ！？』
だろうなぁ。じゃあ、なんとか今の状態で戦うしか……
『phase3【暗転(Darkening)】……3-2-1──』
『「────来る！！」』
一瞬でも気を抜いたら負ける。一回でも攻撃を見切れなかったら死ぬ。ここからは、絶対に気を抜いたらいけない……何としても、見切る。
『──go』
また、姿が消えた……いや、ただ目で捉え切れてないだけだ。今は『索敵』が使えるから……
「後ろっ！ 『受け流し』『鋼の肉体』！！」
まだ対応できる！ 僕は背後から繰り出された蹴りを全身を使って受け流す。それでも……
「いっ……たいなぁ！！」
全ての勢いを殺し切れない……！ フォーミュラが使っているのはシンプルな『身体強化』のみのはず。それなのに、バケモノみたいな火力してるな……威力だけで言えば、黒騎士以上だ……だけど！
「それが命取りだ！ 『反撃』からの……『ダブルアップ・カウンター』！！」
僕はフォーミュラの攻撃のエネルギーを使って、反撃を……
「って、もう消えた！？」
あんなえげつない威力の攻撃を出しておきながら、もう動けるのか！？ いや、驚いてる場合じゃない……今度は……真上！？
『Checkmate……』
僕が頭上を見ると、フォーミュラが放った踵落としがもう既に目の前まで来ていた。防御は間に合わない。だったら……
「舐めんな！ 『空中歩行』！！」
僕はそう言って、『空中歩行』を応用して自分の目の前に魔力の足場を作り出す。そして、それを思いっきり殴りつける！！
『お前……考えたな』
本来なら防御も回避行動も取れないが、『空中歩行』の足場を殴った反動を利用すれば強引に避けることができる！！
「危なかった……！！」
今一瞬、本気で終わったと思った……割と強い勢いで殴ったから、これで一旦距離を取れるはずだ。
『ラルク、安心してる暇はねえぞ！』
「何ですぐに動けるんだよ！！」
そんなことはなかった。攻撃を回避して安心したのも束の間、フォーミュラは既に反動で吹き飛んだ僕の目の前まで接近してきていた。そして……さっきまでとは違い、真正面から連撃を放ってきた！！
(これは……受けるしかない！！)
もう回避が意味をなさないことは分かった。多分、防御してもジリ貧になって負けるだけだ。だったら……ここで何としても仕留める！！
(『受け流し』、『見切り』、『見切り』、『受け流し』、『見切り』……！！)
僕は『身体強化』『見切り』『覚醒』『思考加速』『受け流し』などの戦闘系のスキルをほぼ全てフル稼働で使いながら、フォーミュラに隙が出来るのを待つ。一撃の威力は少し下がっているから、なんとか受け切れるはず……なのだが……
(全く隙ができない……！！)
何度も何度も攻撃を受け流しているのに、隙ができる気配がない。今はまだ大丈夫だが、このままだと僕の魔力が……
『身体強化、効果上昇……20%ノ魔力使用ヲ許可』
まだ強くなるのか！？ フォーミュラの攻撃がどんどん素早く、そして重くなっていく。このままじゃ、押し負ける……！
『ラルク、危ない！！』
「嘘────！？」
ついに受けが間に合わなくなり、フォーミュラの攻撃が僕の鳩尾に当たりそうになる。これはどう頑張っても避けられない……！！ 僕は『鋼の肉体』を使ってなんとか受けようとするが……
「ウチの生徒に手を出すなぁぁぁぁあ！！」
その攻撃は、僕に届くことはなかった。急に乱入してきた何かに、フォーミュラがぶっ飛ばされたのだ。
「ラルク、悪いな、遅くなった！！ ちょっとギルドと国王と揉めててな！」
姿は、いつもの巫山戯ているその人からは感じられないほどの安心感を与えてくれた。
「……本当に、遅いですよ……！！」
口ではそういうが、心の中では本当に嬉しい。だって……
「少し休んでろ、あとは私が……『神龍の翼』フィーズが引き受ける！！」
最高のタイミングで、最強の援軍が来たのだから。
Sランク冒険者・『前人未踏』フィーズ。
1対1ならば素手で『剣聖』グレアと戦える実力の持ち主であり、名実ともに最強のSランク冒険者。
そのレベルは────1600。
