第百四十三話 再起動
第百四十三話! フィリアの様子が……?
「「眩しいっ……!」」
声にならない叫びとともに、僕達の目の前が真っ白に染まる。太陽と見間違えるほどの眩しい光。これが全部、シェイドの体から溢れ出した魔力だってのか……!?
とりあえず、早くここから逃げないと……そう思った直後、僕は背中におぶっているフィリアの様子がおかしいことに気づいた。まるで力が抜けているような……
「フィリア、大丈夫!?」
「ラルク……うごけ……ないんだけど……」
「はぁ!?」
こんな状況で何を言ってるんだ、フィリア!? まさか急に体の調子が悪くなるなんて……いや、もしかして。
「魔力欠乏……の、逆!?」
まさか、大きな魔力に当てられすぎたのか……!? 理屈は分からないが、魔力が足りなくて魔力欠乏が起こるならその逆があってもおかしくない。最悪の状況だ、一体どうすれば……
「……いや、とりあえず逃げる! フィリア、なんとか掴まって!!」
「わかっ……た……」
はっきり言って、今のフィリアはお荷物。ただでさえ圧倒的な実力差があることがはっきりしている相手と戦わないといけないかもしれないのに、今のフィリアを背負いながら戦うなんて自殺行為だ。
「スキル複合発動『電光石火』!!」
今、僕が出せる最高のスピードでとりあえず目の前の敵から逃げる。それが最善の選択のはずだ。もたもたしてたら、追撃されかねない……
「『電光石火』! 『電光石火』!! フィリア、まだ大丈夫?」
「ちょっとマシになったよ……でも、まだ……」
そうやって全速力でフィリアを魔物たちの侵攻が行われている方角の反対側、この森に残された安全圏まで逃がしている途中、僕はあることに気づく。全く追撃が来ていないのだ。
(おかしいな……1発も追撃が来ないなんて)
そう、全く追撃がないのだ。攻撃してこないに越したことはないが、不気味だな……僕はそんな多少の違和感を憶えながら、フィリアを連れて魔物のいないところまで逃げようとするが……
「ラル……ク……私、もう大丈夫だよ……」
僕の背中におぶられているフィリアが、ある程度離れたところでそう言って来た。だが、その顔色はあからさまに悪い。
「嘘つけ! まだ顔色が……」
「大丈夫、だから……早く、あいつを……」
嘘だ。まだフィリアは戦えるほど回復していない。今の状態で魔物と出会ってしまえば……2、3体程度なら問題ないだろうが、群れと遭遇すれば多分勝てないだろう。ここに置いていくのは、あまりにも危険すぎる。
「いいから! 今は黙って……」
「私……さ、足手まといには、なりたくないんだよ」
……足手まといだなんて……たしかに今はそう言わざるを得ないが、それはあくまであいつとの相性が……
「でも今は……!」
「『仕方ない』? そんなの……戦場じゃ、通用しないよ」
ぐっ。でも、でも……
「ラルクは優しいから……毎回私を守ろうとして、傷ついて……それだけじゃ、嫌なんだよ」
「フィリア……」
そんなこと、思ってたのか? でも、僕は……
「ラルクが私を守ってくれるのは、嬉しい。でも……それで、自分や他のことを蔑ろにするのは見たくないよ」
「……っ!」
「だから、今は……私を信じて? 私、まだラルクに守られてばっかりで信じられないかもしれないけど……大丈夫だから」
「……分かったよ」
その言葉からは、確かな決意を感じた。これ以上何か言うのは、無粋というものだ。僕は『電光石火』の発動をやめ、【フライ】を使いつつ地面に着地する。
そしてフィリアを近くの木にもたれさせ、楽な体勢で座らせる。ここにはまだ魔物がいないが、おそらく時間の問題だろう。
「……絶対に、死なないでよ」
僕は最後に、フィリアにそう言い残して来た道に振り返る。ここからは、僕1人の戦いだ。
「ラルク……みんなを、よろしくね?」
後ろからかけられたその声に応えるように……僕は、『跳躍』で空へと飛び上がった。
side:シェイド……?
────体ヲ得タコトニヨル再起動ヲ確認。主ノ所在地ヲ確認……エラー。主ノ所在地、不明。
フローチャートニ従イ、自己メンテナンスヲ開始……身体構造ノ変化ヲ認識。種族:ゴーレムヨリ種族:ハイエルフニ変化シタコトヲ認識。
新タニ得タ能力ヲ確認……解析完了。固有スキル『魔力支配』ト判明。
種族ノ変化ニヨルバッドステータス『躊躇イ』ヲ検知。原因ハ……体ニ宿ル『心』ト判明。
データ検索……データ検索……エラー。ステータス『躊躇イ』ノ対処法、無シ。
『躊躇イ』ガ命令遂行ニ及ボス影響ハ……現在、ナシ。対処ハ保留トスル。
現在ノ命令……発見。内容ハ……確認。第一目標ト判断。
コレヨリ、命令……『世界樹ノ完全破壊』ヲ開始。成功率ハ……94.3%。




