第百三十七話 兄妹、再開
第百三十七話! ラルク御一行、やっと現実に帰還です!
「戻ってきた……」
気がつくと、僕達はもといた場所へと戻ってきていた。さっきまで浮遊空間にいたから、重力があるのに少し違和感を覚えている。
「なんか……変な感じ。さっきまで別の空間にいたのに……」
フィリアもまだ少し体に違和感を覚えているみたいだ。こんな感覚、初めてだなぁ……
「2人とも、どうやら……悠長にしてる暇はないみたいだよ?」
少し焦った声でそう言うシルクさん。何か近づいて来ているのか? そう思って、僕は『索敵』を発動しようとする……が、そういえば使えないんだった。しかし……
(何か近づいて来てる……!?)
気配で分かる。かなり強大な気配……これは……!!
「やっと見つけた。久しぶりだな、愚妹」
「兄様……!」
ここに侵攻して来た張本人、シェイドだった。でも、どうしてここが……?
「ラルクくん、フィリアちゃん、兄様のスキルは『魔力支配』、自分以外の魔力も支配できる能力だよ。この森の中では最強格の能力かも……」
ああ、そっか!! 世界樹の森に満ちる膨大な魔力、それを操れるなんて、まともにやり合って勝てるか……?
「僕のことを覚えていたのか……全く嬉しくないな。あのままのたれ死んでおけばよかったのに」
どうしてだ? 確か、殺されそうになっていたシルクさんを庇ったのはこいつのはず……どうして、そんなことを……
「どうしてそんな酷いことが言えるんだよ!」
実の妹だろ? なのに、どうして……
「どうして? じゃあ逆に聞くが……お前は自分と無関係なものの死に心を痛めるか?」
無関係……それ、本気で言ってるのか? シルクさんは……お前の妹は、まだお前のことを兄と思ってるんだぞ?
「兄……様?」
「その呼び方は止めろ。僕は一度も、お前を妹だと思ったことはない。お前のような奴と家族だと思うだけで虫唾が走る」
「でも、兄様は私を守って……」
「まだ分からないのか? それは僕にとって都合が良かったからさ。だって、世界樹を燃やしたのは────僕なんだから」
やっぱりか。話を聞いていて、なんとなく分かってはいた。でも……きっと、シルクさんは……
「そんな……!?」
シルクさんはきっと、自分の兄であるはずの彼を疑ったことはなかったんだろう。やはり驚いた顔をしている。
「そうそう、その顔だよ! お前のそんな顔が見たかったんだ、エフィー! 滑稽だよ、まさか自分が騙されているのにも気づかずに……」
「『剣聖技・一閃』」
その瞬間、フィリアの目にも止まらぬ速さの突きがシェイドに向かって放たれる。流石に我慢の限界なのだろう……あいつは、もう許さない。
「甘い。『魔力支配』」
「なにこれ……防がれた!?」
なんだ!? フィリアの攻撃が、見えない壁に阻まれてる……まさか、魔力そのものを高い密度で集めて、壁を張っているのか!!
「でも、これなら……貫ける!!」
「何っ!?」
しかしその透明な壁も、フィリアの一撃にはギリギリ耐えられなかったようだ。ガラスが割れるような音と共に、フィリアは再度地面を蹴って加速してシェイドに向かっていく。
「ならばもう一度……」
「【ホーリーランス】!!」
僕も【ホーリーランス】を詠唱し、フィリアの前方に光の槍を生成する。無詠唱分も合わせると、合計200発……これで……
「割れろ!!」
魔力でできた壁には、魔力で対抗する! 僕の光の槍とその魔力壁は互いに相殺し合い……シェイドの目の前はガラ空きとなった。
「くらえっ!!」
そして……フィリアの剣がシェイドの体を貫き、かろうじてガードが間に合ったシェイドはその体を貫かれることは無かったものの思い切り吹き飛ばされる。
シェイドはまずいと判断したのだろう、攻撃を受けた下腹部を押さえながら、僕達に背を向けて世界樹から離れるように飛んで逃げ始めた。そんなにスピードは速くないので、恐らくただの【フライ】だろう。
確実に決まったはずだったが……フィリアは多分、人を斬ったことがないんだろう。ほんの少しだけど、突く瞬間に……本当に一瞬だけ躊躇いがあった。仕方のないことだけど、シェイドがまだ生きてる……
「フィリア、追うよ!!」
「うん!」
あいつを逃がしたらまずい!! こんな広い森で……しかも、『索敵』が使えない状況だと1度見逃せば多分次はない!!
そう思って、僕たちはシェイドを追いかけようとするが……
「フィリア、どうやって追いかけるつもり!?」
フィリアは固有スキルの関係上、魔法をあまり使えないはず。かと言って、このまま世界樹の外に飛び出すような真似をすれば確実に全身が骨折して死ぬ……
「大丈夫、『空中歩行』があるから!」
なるほど、ノーマルスキルの『空中歩行』で補うのか。でも確か、あれは魔力で足場を作りながら移動する能力だから……そんな長時間は動けないんじゃ?
「フィリア、魔力は持つ?」
「分からない。でも、これしか……」
どうしようか……フィリア無しでシェイドを追いかけるのは心許ないが、フィリアの魔力はいざという時のために残しておきたい……だったら。
「フィリア、僕につかまって!!」
「ラルク、まさか私を持っていく気!?」
「うん、フィリアの魔力は出来る限り戦いのために温存しといて欲しいんだ! だから僕が【空中歩行】を使ってフィリアを連れていく!」
もしも僕がもっと魔法の扱いに長けていたら、フィリアに【フライ】をかけられるが……今の僕にそんな技術はない。
「分かった……魔力は大丈夫なの?」
その心配は無用だ。だって……
「ステータスだけは高いから大丈夫!」
「そ、そう……」
って、こんな話をしている間にどんどんシェイドが逃げていっている。早く追わないと……
「フィリア、乗って!」
「了解!」
そして僕はフィリアをおんぶして、そのまま空を踏みしめる。
(スキル複合発動……『電光石火』!)
今はフィリアも乗っているので、少しスピードは控えめだが……
「行くよっ!!」
その掛け声とともに、僕はフィリアをおんぶしたままシェイドに向かって急接近していったのだった。
シェイドの考えていることは、一体……?




