第百三十二話 女神と勇者
第百三十二話! みんな大好きルキアさん登場です。
目覚めるとそこは、無重力の真っ白な空間だった。ここは……?
『……おや、目覚めましたか』
誰だ!? って、なんだこれ……目の前に、真っ白に輝く球体が浮いている?
「アンタは……?」
『私の名前はルキア……あなたたちが女神と呼んでいる存在です』
へぇ、女神か……
「頭おかしくなったのかな……?」
もしかしたらさっきの落下の衝撃で、頭を打ったのかもしれない……
『幻覚じゃありませんよ。私はれっきとした女神です』
「嘘だろ!? そもそも女神様が俺と話だなんて……いや、仮に本物だとしてなんで俺と話せてるんだよ、俺はまだ生きて……」
『あなた、気づいてないんですか? とっくに死んでますよ』
……は?
『あなたはあの瞬間、あなたの中に生まれた別の人格に体を乗っ取られて、死にました』
……嘘だろ? 俺、死んだのか……?
『ええ、実は……あなたの精神は愛する人を失った悲しみにより、2つに分裂してしまったのです。今ここにいるあなたの人格と、もう一つの人格……世界への復讐を望む人格に。そして……結果、魂そのものにも亀裂が入り、2つに分裂したのです』
ということは、あの押し出されるような感覚は……
『その結果、あなたの人格を宿した側の魂は体から追い出されて……体を失ったその魂は天に還り、あなたたちの言う死を迎えたのです』
「……俺……死んだのか」
なんだろう……実感が湧かないな……
『ですが、あなたの肉体は生きています』
……は?
『あなたの肉体は、もう一つの人格を宿した魂が支配しています。それも、『魔王』の力を得た状態で』
……嘘だろ……!? そんな、だとしたら……
「もしも俺がこのまま死んだら……世界は、どうなるんですか!?」
『簡単です。魔王の力はまだ残っていますが、対抗策である『勇者』の力も『世界樹の巫女』の力も有りませんので……恐らく、下界は全て滅ぶでしょうね。新たな魔王、アルスの手によって』
そんな……!!
「他に対抗策は無いんですか!? 強い固有スキルとか……」
『まあ、無くはありませんが……言ったでしょう、魂が2つに分裂した、と。なので、『覚醒の勇者』の力も2つに分かれています。つまり……魔王アルスは、勇者と魔王の力を両方持っているのです』
「そんなの、チートだろ……!!」
このままだと、世界が滅ぶ? 俺のせいで……いや、俺はもうこの世界なんて、どうだっていいんだ。ホープがいない、この世界なんて────いらない、のか? 俺は本当に、この世界を……見捨てられるのか……?
『アルス、強くなれよ』
『アルス〜、ほら、こっちおいで』
父さんと母さんが俺を育ててくれたこの世界を……
『アルス! 怪我はないかい?』
俺の大切な家族……エフィーさんがいるこの世界を……そして何より……
『アルス、行くよ!』
『諦めないで、アルス!』
『アルス……大好き』
ホープが守りたかった、この世界を……俺は……
「ルキアさん」
『……どうかしましたか?』
「俺に、あと一度……もう一度だけ、チャンスを下さい。この世界を……全てを救うチャンスを」
見捨てられるわけ、ないだろ……!!
『ふふふ……あなたならそう言うと思っていましたよ、アルス。元より、そのためにここに呼んだのですから』
「……何か、策があるんですね?」
『ええ、もちろん。あなたに用意されて選択肢は2つです。1つは不完全な魂のまま、片割れが死するまでここで待ち続けること。もう1つは……これから私の手によって、もう一度この世界に転生すること』
……転生、だって?
「それは、どういう……?」
『先程言った通り、あなたの魂は2つに分裂しています……つまりは、不完全な状態。このままもう一度生まれ変わろうとするのは、本来なら不可能です』
まあそうだろう。仮に新しい生まれ変わったとしても、その中身であるはずの魂が不完全だったら意味ないもんな。
『ですから、私が欠けた部分の魂を【創造】し、あなたを本来生まれてくるはずの別の魂の一部として転生させるのです』
だけどそれをした所で結局、力がなけりゃ意味が無いんじゃ……
『そこは安心して下さい。あなたの魂の方にも 『覚醒の勇者』 の力の一部が少しですが残っています。それに、 『世界樹の巫女』 の力の大部分をあなたが受け継いだようなので……恐らくですが、その2つが混ざり合うことで新しいスキルが誕生すると思われます』
「すると思われますって……何が生まれるか分からないんですか?」
『正直、私もこんなことは初めてなので……スキルが混ざるだなんて、私自身が作ったものにも分からないところがあるものなんですね』
へぇ……って、ちょっと待て。いくらなんでも話が良すぎないか……? 確か魔王ディルボアの話では、この人はあまり俺たちに干渉できないはず。それなのに、こんなことをして……
「……ルキアさん、もしかしてですが……何かデメリットを隠してませんか?」
『……知らないほうが幸せなこともありますよ、アルス』
そんなに酷いデメリットなのか? でも……
「教えてください。知らないほうがよっぽど怖い」
まだ自分だけに被害が及ぶならいい。でも、もしも……例えば、折角救った世界の半分が消滅する、とかだったら? いや、流石にこれは誇張しすぎたが……あまりにも大きすぎるデメリットだとしたら、転生する意味がなくなる。
『はあ、わかりました。いいですか、単刀直入に言うので、落ち着いて聞いて下さい……もしも転生した場合、あなたは魔王アルスを倒そうが倒すまいが……最終的にはあなたの魂そのものが、この世界から未来永劫消え去ります』
……嘘だろ?
新学期突入によりストックが2万字切りました。週末に増やします(謎報告)




