第百三十一話 アルスと……
第百三十一話! 死んだんじゃないの〜?
(痛え……)
全身が、痛い……俺は……死んでない。死んだのは……
《思いだせ》
死んだのは……誰、だっけ?
《目を背けるな》
大切な、人……俺の……
《さあ、思いだせ────》
「うる……せえ……!」
俺は、俺は……!
「ホープ……」
何も、守れなかった。俺のせいで、ホープが……!
「ホープ!!」
どれだけ呼んでも、その返事は返ってこない。なぁ、どうしてだよ……俺は……
「何のために、戦ったんだよ……」
世界を守りたかったから……違う。王様に言われたから……違う。エフィーさんの期待に応えたかったから……間違いじゃないけど、それが全てじゃない……俺は。
「お前と居られたら、それで良かったんだよ……!」
ホープと一緒にいたかった……だから、お前がいなくなったら、俺は……こんな世界、要らねえよ……。
《力が……欲しいか》
……何だ、この声は?
《力が……欲しいか》
低い男の声だ……一体、誰だ?
《力が……欲しいか》
……要らねえよ。もう俺に、戦う意味なんて────
《汝、復讐を望むか……?》
復讐……? なんの……
《女神への、復讐を……世界への復讐を望むか……?》
ホープを奪った、この世界への……復讐、か……そんなの……
「やれるなら……やってやりてえよ……」
救えるものは全て救ってきたつもりだ。助けを求められたら、全て助けてきた。『勇者』として、『剣聖』として……それなのに、あんな最期があるかよ……!
《もう一度問おう……力が、欲しいか────!!》
「俺は……」
力が、欲しい。その言葉を言おうとした瞬間、俺の脳裏に浮かんだのは────
『アルス!』
やっぱり、ホープだった。あいつはそれを望んでるのか? それであいつが報われるのか? 俺の自己満足じゃないのか……!?
(関係ないだろ、そんなの)
俺の中の『何か』が、心の中でそう囁く。
(復讐しろ、アルス)
その囁きは少しずつ俺の心の中で大きくなっていき、どす黒い感情が自分を支配する……
(さあ、早く、その手を────)
「要らねえ……」
《一体、何故────!?》
だって……
「俺はホープ以外、何も要らねえよ。だから、もう……復讐とか、どうでもいいんだ」
なあ、もういいだろ。あいつが、待ってるんだ……早く休ませてくれよ。俺はその声の提案を、完全に拒んで……
『それは、残念だ』
今喋ったのは、俺……!? それに、この胸が焼けるような痛みは……
『さっきの言葉……撤回だ。俺に、力を……全て壊すだけの力を寄越せ、邪神』
今喋ってるのは……俺だけど、俺じゃない。俺から零れ落ちた……魔王の言っていた『反抗心』……いや、今はもう、復讐に囚われた精神の塊だ。
《ほう、これは……面白い》
やめろ……その誘いに乗ったら……!
《契約、成立だ────!!》
ダメだ、体から……押し出される────!!
目を開くと、そこは真っ白な空間。ここは、何だ……!?
『…………まさか、このようなことになるとは』
「アンタは……」
目の前にいるのは、白く輝く球体。お前は……
『はじめまして、私の名はルキア。貴方達の言う、女神……といったものです』
「ルキア……お前が……!」
お前のせいで、ホープが────!!
『止まりなさい』
「っ!? 体が……」
何だ、この力……体が動かねえ……!
「て、めえ……何、を……」
『ここは魂の回廊……私の領域です。勝ち目のない戦いではなく話をしましょう、勇者アルス』
「何を……話、なんて……ねえ!!」
『あら、破られた……』
このまま真っ二つに……
「アルス、やめて!」
その声は……俺はその声の主の方に咄嗟に振り向く。間違いない。間違えるはずがない。そこには……
「ホープ!?」
どうしてお前が、ここに……
「アルス、何でここに来ちゃうかなぁ……せっかく命がけで助けたのにさ」
怒った素振りを見せながらそう言うホープ。何はともあれ……もう一度出会えて、良かった……!
「ホープ……ホープ!! お前、生きて────!」
良かった、どうやったかは知らないけど、あの魔法から逃げ切ってたんだな……!!
「いや、死んでるよ?」
「……は?」
今なんて……
「だから、私はもう死んでるよ?」
「じゃあ、どうして……」
「だって、アルスも死んじゃったからね」
……死んだのか、俺? だったら尚更、どうしてこうやって話せているんだ……?
『あの……お二人とも。感動の再開なところ悪いのですが、話をしても?』
「あっ、ごめんなさい! ラルク、一旦落ち着こう?」
「いやだって、あいつはお前を……」
俺たちを最後に襲ったのは、エルフ……魔王の話が正しければ、あいつは……
『……あのエルフを差し向けたのは、私ではありませんよ?』
「あいつはただ狂ってただけ。ルキアさんでも何するか分かんなかったんだって」
「……そうかよ」
俺の誤解か……でも……
「分かった、話は聞く。だが……俺はお前を信用したわけじゃないからな」
ホープに剣聖の力を与えたのは……魔王を倒す宿命を与えたのはコイツだ。理屈に合わないのはわかっているが……割り切れない。
『いえ、仕方のないことです。この事態の責任は私にもありますから……』
この事態……? あの後に、何が……
『お教えしましょう……あなたの体に何が起こったのかを』




