第百二十四話 追憶と覚悟
第百二十四話! ここからついに、物語は核心に迫っていく────!
『まあ、結論から言おう。俺たちがここに留まり続けているのは、俺を……【背信の勇者】アルスを殺すためだ』
【背信の勇者】……アルス? そんな人、聞いたことがない。
『聞いたことがないのも当然です。彼自身も……そして、貴方達人間も、その存在を隠しているのですから』
『……ったく、本当に皮肉なもんだよ。俺たちが守ろうとしたものが、俺たちを殺したんだぜ? 笑えねえや』
……一体、この人たちは何を言ってるんだ? 色々と知らないことがありすぎて、何が何やら……
『おお、悪い悪い。そういや、お前らはまだ何も知らないんだったな……ルキアさん、思い出させられますかね?』
『ええ、そろそろ潮時でしょう。2人とも、こちらへ』
そう言われ、僕たちはルキアさんの近くに寄っていく。
『今から、あなたたちの封じられた……いえ、私たちが封じた記憶を……魂に刻まれた前世の記憶を呼び起こします。それが……私があなたたちを、ここに呼んだ一番の理由です』
魂に刻まれた記憶を、呼び起こす……? つまり、僕の……そして、フィリアの前世に何かあったのか?
『さあ、2人とも……自らの過去を思い出す準備はできましたか?』
「「僕(私)は────」」
『……ちょっと待て。お前ら、本当に覚悟はできてるか?』
僕たちがルキアさんに返事をしようとすると、『勇者』アルスがそう聞いてきた。
「「覚悟……?」」
『ああ、全てを……お前たちがどうして生まれたのか、どうしてここに連れてこられたのか、どうして『武芸百般』なんてスキルが生まれたのか……そして、お前たちがこれからどうなるか。それを知る覚悟は、出来てるか?』
……全てを知る覚悟、か。そんなの、答えは決まってるだろ?
「出来てるわけ……ないじゃないですか。自分も知らない自分のことなんて、ほんとは怖くて聞きたくないですよ。出来れば……何も知らずに、このまま普通の日々を過ごしていたいですよ」
当たり前だ。急にここに連れてこられて、わけ分からないことばっかり言ってるのを聞かされて……覚悟どころか、自分に何が起こっているのかさえわからない。
『そうか。だったら……』
「……でも」
わからない。分からないけど……
「それでも……それ以上に、何も知らないままでいるのが嫌なんです。これ以上、何も知らないままで……自分のことさえも分からないままでいたくない」
『…………そうかよ。じゃあ、勝手にしろ』
それでも、きっと……いくら先延ばしにしても、いつかはきっと知らなきゃならなくなる。それに、僕だって……これ以上、訳もわからず勇者と一緒にされるのは懲り懲りなんだ。
『で、お前はどうするんだ、フィリア?』
「……私も、してもらいます。今まで知らなかった自分のことを……全部、知りたいんです。それに、わざわざ今まで記憶を封じていたことには訳があるんですよね? だとしたら私は、ラルク1人だけに、それを背負わせたくないから」
『……ったく、やっぱりそうか。じゃあもう、俺からは何も言わねえよ』
その言葉を最後に、勇者アルスはそれ以上僕たちに何も言わなかった。そして少しの静寂の後、ルキアさんが僕たちにもう一度こう聞いてくる。
『さあ、2人とも……自らの過去を思い出す準備はできましたか?』
その言葉に、僕たちは今度こそはっきりと返す。
「「僕(私)に……全てを、教えて下さい」」
『……分かりました。それでは始めましょう……』
「ちょっと待った」
……シルクさん?
「ルキア様……私も、それを教えてもらうことは出来ますか?」
『……エフィー、それはラルクの記憶と同期させて見る形であれば可能ですが……』
『でもエフィーさん、別にあんたは……』
「知らなくて良い、なんて言わないでくださいよ? 私はアルスの親で、ラルクくんの結婚相手なんですから。ラルクくんの過去を見る権利と義務がある」
うん、しれっと結婚相手にされているのはもう面倒だから放っておいて……シルクさんも、僕の過去を見るつもりみたいだ。
『……そう言うと言うことは、エフィーは大方見当はついているようですね?』
「まぁ……そうですね」
『……良いでしょう。では、あなたもこちらへ』
「ありがとうございます」
そしてシルクさんもこちら側にきて、今度こそルキアさんは僕たちの過去を解き放とうとする。
『では、気を取り直して……始めましょうか』
ルキアさんがそう言うと、僕は突如強烈な眠気に襲われる。そして────
『魂に深く刻まれた、その悲しみを。苦しみを。悦びを。愛しさを……あなたたちの記憶を、今こそ解き放ちましょう』
僕の意識は、そこで途切れた。
side:ルキア
『……なあ、ルキアさん』
『どうしましたか、アルス? そんな浮かない顔をして』
ラルクとフィリアが自らの記憶を辿るため、意識を失った少し後。起きているのは私とアルスだけになった空間で、ふとアルスが口を開いた。
『俺は、あいつらになんて謝れば良い? あの2人は……本当は、普通の幸せな人生を送る子供だったはずだ。それを、俺の我儘で……』
『ええ、そうですね。確かに、代償を払うのはあなたです……しかし、ラルクには申し訳ないですが……辛い選択を、強いることになるでしょうね』
さて、ラルク。あなたは全てを知った上で……どういう選択をするのでしょうか?
ラルクに課せられた運命とは、一体何なのか……明日も投稿します。




