第百十六話 勇者の誕生
第百十六話! 俺のバトルフェイズはまだ終了していないぜ!(本日2回目)
「……エフィーさん! 俺の固有スキル何かな!?」
「うーん……アルスはきっと、戦闘系だろうね」
「やった! 俺、父さんみたいな冒険者になりたいんだ……誰にも負けないくらい、誰でも守れるくらい強くなりたい!」
アルスがいじめられていたことが発覚してから2年と少し後。私たちはあの後、アルスが元々住んでいた王都に移住してきた。
王都に行くために貯めていたお金に加えて、私も冒険者として少しの期間活動した時にたまたまレアなスクロールが2つドロップしたため、そのうち片方をお金に変えた結果……王都に移るくらいのお金が手に入った。冒険者稼業万歳だ。
王都に来てからは、アルスは元々の友達と仲良くやっているみたいだ。もちろん、過保護かもしれないが前のような過ちを犯さないようにこっそり後をつけてみたこともあった……大丈夫だった。
そして明日は、アルスの10歳の誕生日。そして、『鑑定の儀』が行われる日……果たして、アルスはどんな固有スキルを授かるだろうか?
(どうか、ルキア様の加護があらんことを)
そんなことを願いながら、私は翌日に胸躍らせるアルスを見ていたのだった……
その日の夜のこと。ちょうど、日付が変わる時のことだっただろうか……?
「ふぅ……アルスも寝たし、私もそろそろ寝るとしようかな」
そう呟き、床に就こうとしたその時……!
「っ!? 何、これ……!?」
私の体の中に、突如電気が走ったような感覚が走る。そしてそれと同時に、私は……アルスの寝ている部屋に、無意識に向かっていた。そしてそれに気づいた時には、既に私はアルスの横に座り込んでいた。
「……エフィー、さん……? どうしたの?」
「いや、なんでもないよ……! 寝顔を見に来ただけさ!」
「……そうですか……ふあぁ、おやすみなさい」
「おやすみ、アルス……」
よかった、不思議には思われていないみたいだ……
(でも、今のは……一体なんだったんだろう?)
まるで、何かに突き動かされたような……そんな感覚。私はその正体がわからないまま、眠りについたのだった……
「アルス、今頃は『鑑定の儀』を受けている頃だろうなぁ」
さてさて、アルスはどんな固有スキルを授かるだろうか……? アルスの夢のために、戦闘系の固有スキルであって欲しいと思うが……そんなことを考えていると、店の面からノックする音が聞こえてくる。アルスが帰ってきたのかな……?
「アルス、お帰り……って、アルス? その人たちは……」
「……貴方が、この子の保護者様ですね? 少しお話ししたいことが」
私が扉を開けると、そこには、豪華な鎧を着た騎士に連れられたアルスが立っていた……って、この人は!
「エルヴィン騎士団長様……!?」
王家直属の騎士団、その団長であるエルヴィン騎士団長だった。それに、後ろの方には高そうな馬車もある……アルスの様子は、いつものように元気はなく、大人しい……アルスに何があったんだ?
「ええ、大丈夫ですけど……うちのアルスが何かしましたか? まさか、何か罰せられるようなことを……」
アルスはそんな子じゃないはず……でも、騎士団長様に連れてこられるような事態なんて……
「いえいえ、とんでもない! 彼は罰せられるようなことも、悪いこともしていませんよ」
そうやって、エルヴィン騎士団長が笑いながら答える。なんだ、だったらどうして……
「それにまさか、勇者様を私たちが罰するなど……滅相もございません」
……は? 今、なんて……
「『勇者』って、それ……もしかして……!」
「……俺だよ。俺が、勇者に選ばれたんだ」
「……ぇぇぇぇぇぇえ!!??」
まさか、アルスが勇者に選ばれるなんて……!
「よかったねぇ! アルス、勇者なんて……戦闘系の中でも、一番強いスキルじゃないか! なのに、なんでそんなに大人しいんだい? もっと喜びなよ!」
すごい、すごいよアルス! 勇者になるなんて……なんか、もう運命みたいなものを感じるよ! でも、どうしてそんなに大人しいんだろう……? その問いに答えるように、エルヴィン騎士団長は私に向かってこう言ってきた。
「つきましては、勇者様の身柄を私たちに引き渡して頂きたい」
……と。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
エルヴィン騎士団長の話によると、どうやらアルスは1人で王城近くの場所で、『勇者』としての力をつけるため様々な訓練を受ける手筈になっているらしい。
私もついていってはいけないかと聞いてみたが、『勇者』育成の邪魔になってはいけない……と断られた。別についていったって変わらないだろうに。本当、人間の国の偉い人の考えていることは分からない。
その後、とりあえず1日待ってもらうようになんとか騎士団長を説得した……だってそんな、急に身柄を引き取るだなんて、アルスは道具じゃないんだよ?
「……アルスは、どうしたいんだい?」
私はやけに大人しいアルスに、そう問いかける……もちろん、こんな問いに意味がないのは分かっている。きっと私の意思もアルスの意思も関係なく、強制的にでもアルスは連れていかれる。でも、つい聞いてしまったのだ。
「……エフィーさんと、離れたくない」
アルス……それは、無理なんだよ……だって君は『勇者』なんだから。たしかに、10歳の子に……それも、一度親しい人を失った子には酷かもしれないが、仕方ないんだ。
「でもね、アルス。君は、『勇者』だから……みんなを守れるようになるために、強くならないといけないんだ。そのためには……あの騎士さんが言ってた通りにしたほうがいいのさ。分かるかい?」
だから、お願い。『行きたい』って……
「……ねえ、エフィーさん。そうしたら……俺、強くなれるのかな?」
「……なれるよ。絶対に」
……だから、言ってくれよ。
「父さんみたいに、強くなれるのかな?」
「アランよりもずっと……ずっと、強くなれるよ」
だから今は、自分の口から言っておくれよ。
「俺は……俺は……!」
『行きたい』って……言ってくれないと、送り出せないじゃないか。
「……でもやっぱり俺は、エフィーさんといたいよ……もう、離れたくないんだ」
……そっか……やっぱり、そうだよなぁ……私だって、一緒にいたいよ。でも……そう葛藤する私の頭の中に、ふと名案が降りてきた。
「……そうだ! アルス、耳を貸してごらん」
私がその『名案』をアルスに聞かせると……
「エフィーさん、それ……いけるの!?」
「ああ、きっと私なら!」
この方法なら、きっといけるはずだ!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
その翌日。アルスを引き取るため、エルヴィン騎士団長がまたやってきた。
「さて、それでは……行きましょう、勇者様」
そう言って、アルスの手を取って馬車に乗せようとする。
「……待ってください、2人とも」
私は、アルスが馬車に乗る前に騎士団長をそう呼び止める。
「……これは決定事項です。引き止めることは……」
「それは分かっています。だから……」
私が合法的にアルスと一緒にいられて、尚且つアルスを強くする方法。それは……!
「私も『勇者』ほどとは言いませんが……相当の実力はあります。だから……一緒に、連れて行ってくれませんか」
『勇者』といえど、今はまだ戦い方も知らない10歳の子供。だったら、戦い方などを教える教育係が数人つくはず……ならば。
私自身が強いことを証明して、アルスの教育係として一緒についていけばいいのだ。
ドロー! モンスターカード!(訳:まだ更新します)




