第百七話 お飾りの巫女
その後、エフィスト様は世界樹の麓……1番下で、気絶した状態で発見された。理由は魔力欠乏。医者曰く、まるで大きな魔力を一瞬で体の外に放出したような状態だったらしい。
シェイドの『魔力干渉』によって強制的に体内に世界樹の魔力を注入して魔力欠乏からエフィスト様を回復させた後に、エフィスト様は『世界樹の巫女』の能力で世界樹の消火を行ったが……その時には既に、世界樹はほとんど燃え尽きていた。
燃えた後に残ったのは、世界樹が燃えた後の灰と、地中に残った世界樹の根のみ。世界樹は魔力さえあれば根っこからだけでも成長するので完全に世界樹の力が無くなることは防げたが、私たちにとってこのことは前代未聞の大事件だった。
人間や亜人たちが進化するまでの数千年前からずっと守り抜いてきた世界樹が、焼失した。その事実は、私たちにとって到底許されることではなかった。
その後、世界樹が焼失した事件の犯人としてエフィスト様が挙げられた。もちろん、エフィスト様はそんなことはしていないと主張した。私も、そう主張し続けた。
しかし、今までの脱走癖から『世界樹の巫女』に選ばれたことに対して恨みを持っていたと思われること、シェイドの『魔力干渉』を『世界樹の巫女』の能力で借り受けて使用したと思われることが原因で、エフィスト様に罰を与えることが決まった。
そして、エフィスト様は世界樹を燃やした罰として、また女神様に対する謝罪として……処刑されることとなった、はずだった。しかし……その時に、シェイドがエフィスト様を庇ったのだ。
何も殺すことはない、まだエフィスト様がやったという決定的な証拠はない。だから、この里から追放するだけでいいのではないか────と。
それを聞いた瞬間、私は耳を疑った。あのシェイドが────エフィスト様を目の敵にしていたあのシェイドが、エフィスト様を庇ったのだ。
私とエフィスト様の必死の反対でも揺らぐことのなかったエフィスト様の処遇は、シェイドのその言葉によって処刑から追放へと変わった。
そして、『世界樹の巫女』であるエフィスト様……いや、世界樹を燃やした大罪人、エフィストは里から追放されることとなった……。
その後、固有スキルとして『世界樹の巫女』を持つ者がいなくなり、誰がその代わりを務めるかという話になった。
そして、その結果……世界樹を任せたとしても最も害のない私が、『賦与』という固有スキルを与えるだけの固有スキルを持つ私が、お飾りの『世界樹の巫女』となった……
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その事件からおよそ30年後。一度は焼かれて無くなった世界樹も、私たちエルフが長年魔力を注ぎ込み続けたことにより急速に成長し、元の世界樹の大きさの半分くらいまでは成長した。
そして、その年に……人間の国で、『勇者』と『剣聖』の固有スキルを持つ者が現れた。そしてそれと同時に、不思議な力をもつ『賢者』と呼ばれる者も現れ、少しずつ魔族を倒すための準備は整っていった……はずだった。
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『勇者』アルスと『剣聖』ホープ、そして『賢者』エフィストの3人で組んだパーティーの活躍はめざましいものだった。魔王軍の幹部級の魔族を幾人も倒したり、誰も踏破出来なかったダンジョンを攻略したり……上げていけばキリがないほどの成果を上げた。
だからこそだったのだろう。その力を危惧した魔王軍は、12年前にファイルガリアへと宣戦布告を行い、人魔大戦の火蓋を切ったのだ。
その戦いは、最初こそ魔族優勢に進んでいた。何故かバルドライア皇国が戦争の参加を拒否したり、魔王軍が急に攻めて来たりしたことが原因だ。
しかし、ファイルガリアが勇者パーティーや冒険者を戦争に参加させるようにした直後から状況は一変、瞬く間に人間側が優勢となった。
誰もがこのまま、魔王軍を倒していき魔王を滅ぼすことができる……そう思っていた。
しかし、10年前……『賢者』エフィストと別行動をして魔王城に攻め入った『勇者』アルスと『剣聖』ホープは、魔王を倒す寸前……魔王がその命を代償に放った極大の魔法を喰らい、相討ちとなった……もしかしたら、それが狙いだったのかもしれない。
そして、その戦争は魔族側も、そして人間側も最大級の戦力を失ったことで、集結したのだった…………
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「ここまでが、今からする話の前置きですね」
「前置きにしては重すぎませんか?」
知らなかった新事実がポンポン出てきて驚きを隠せず、思わず反射的にそう答える。いや……なんかもう、とりあえず情報が多すぎるな……
「……つまり今の話をまとめると、まず50年前の世界樹焼失は『世界樹の巫女』自らが仕組んだものだった……そして、その40年後に起こった人魔大戦は『世界樹を滅ぼす』ためのものではなく『勇者と剣聖を滅ぼす』ためのものだった……と」
「ライア様、その通りです」
ライアが万能すぎる。あの長い前置きをたった30秒でまとめてしまった。
「でも、なんでそんな関係ない2つの話を今、しかも一緒にしたんですか?」
「それはですね……実は、わたしはこの2つの事件が、同じ者によって仕組まれたと思っているのです。そして、その者は今も魔族に、世界樹を滅ぼすための手引きをしています」
「「えっ……!?」」
どうして、そんなことが────!? 動揺する僕たちを差し置いて、シルファ様は話を続ける。
「これはまだ、Sクラスとして来ていただいたフィリア様たちにもまだ言っておりませんでした。なにせ、推測の域を出ないものでしたので……しかし最近の魔族の侵攻により、私はそれに確信を持ちました」
「それは、誰なんですか……!?」
恐る恐る僕はシルファ様にそう問いかける。
「その者の、名は────」
シルファ様がそれを言おうとした瞬間、突如真上から爆発音が響き渡る。まさか、これって……そう思って上を見ると、悪い予想が当たっていた……世界樹が、燃えているのだ。
「そんな……いくらなんでも早すぎる!」
上を見上げ、あり得ないと言うふうにそう声を上げるシルファ様。
「シルファ様! あそこに誰か────あの人は!!」
爆発した所の前に飛んでいた人物。その顔には歪んだ笑みが浮かんでいる。
「そんな、どうして────!!」
「なんで、あなたが……!」
僕らはその人がどうしてそこにいるのか分からず、思わずそう声を漏らす。だって、そうだろ……!?
「そろそろだとは思っていましたが……ついに動き出しましたか、シェイド!!」
世界樹を守るためにいるはずの、エルフの王族……その人が、世界樹を燃やしていたんだから。
すみません! 第百五話で、『世界樹の巫女』は全ての「固有スキル」を使えると書いていましたが、間違いです。正確には「全てのスキル」が使用可能(つまりノーマルスキルも使える)です! すみませんでした! ※現在は既に改稿しています。




