第百六話 シャルローザの焼失
第百六話! タイトルが某ボカロみたくなっていますが気にしないでください。
その翌日から、エフィスト様はどこかへ脱走しないようになった。いや、厳密に言うとエフィスト様が私に声をかけて一緒に外に出るようになった。
無論うるさい弟からは、
『世界樹の巫女だというのに遊びに現を抜かすなど……』
と散々愚痴を言われたが、私は気にしていない。エフィスト様が勝手に脱走するよりも何倍もマシだ。
『世界樹の巫女』としての義務をこなしているときのエフィスト様は、本当に凛々しくて頼り甲斐があるのだが、そうでない時……つまり、ただのまだ子供のエルフとしての『エフィー』は甘えん坊で、ついつい甘やかしてしまうのだが……少しくらいならいいだろう。
そんなふうに、私たちは『世界樹の巫女と従者』として、また『姉と妹』として楽しい日々を過ごしていた……あの事件が、起こるまでは。
「おかしいですね。今日は、やけに遅い……」
それは、ある晴れた昼下がりのこと。いつもは正午までには私を呼びにくるはずのエフィスト様が来なかったのだ。
ついにエフィスト様を待ちかねた私は、彼女のツリーハウスに向かったのだが……
「いない……!?」
そこに、エフィスト様はいなかった。もしかして、また脱走したんじゃ……そう思って、【フライ】を発動した瞬間。私の真下から、突如凄まじい爆発音が聞こえてきた。
「何が────これは!?」
私は何があったのかと思い、咄嗟に下を見る。すると、私の真下では……世界樹の一部が、燃えていた。
「そんな……どうして、世界樹が燃えているんですか!?」
世界樹は、樹木でもあり魔力の塊でもある樹。つまり、樹木と魔力そのものを同時に燃やさない限り、世界樹が燃えることは無い……つまり、これは。
「誰かが意図的に、世界樹を燃やした……!?」
誰かが『世界樹そのものの魔力』を使って火魔法を発動し、魔力ごと世界樹を燃やした、ということ。そして、世界樹に近づくことが許されているのはエルフの王族と従者のみ。その中でこんなことができるのは、私が知る限り2人しかいない。
「エフィスト様か……シェイド」
自分以外の魔力を自由に操作できる固有スキル『魔力干渉』を持つシェイドか、その能力を『世界樹の巫女』の力で使用することができるエフィスト様のみ。
エフィスト様がこんなことをするはずがないと思うのだが、今日に限ってエフィスト様はどこかに消えている。まさか、本当に……
「おい、シルファ! これは一体何事だ!?」
そんなことを考えていると、私に向かってシェイドがそう叫びながら飛んできた。
「私にも分かりません! そんなことより、シェイドあなた、エフィスト様を見ませんでしたか!?」
「あいつか!? 僕は見ていない! ここにいるんじゃないのか?」
「いえ、それが……見当たらないのです」
「まさか、あいつがこれを……早く止めないと! 『魔力干渉』……『索敵』!!」
そう叫び、シェイドが『魔力干渉』を使用して『索敵』を発動する。世界樹から発せられる莫大な量の魔力は、通常では『索敵』の妨げになる。
だがシェイドの『魔力干渉』の力は、それに干渉する時間さえあればその全てをまるで自分の魔力かのように操れるため、この森のほぼ全域が『索敵』の範囲となるのだ。
「……いた! この下だ!」
「分かりました! 早く向かいま────」
シェイドが『索敵』を始めて数分後、エフィスト様の居場所が分かり、すぐに向かおうとしたが……その直後、さっきとは比べ物にならないほど多くの爆発音があたりに響く。
「きゃあっ!?」
世界樹のほとんどが瞬く間に火の手に包まれ、どんどん燃えて無くなっていく。このままでは……
「あいつ……本気で世界樹を潰しに来てる! 僕の『魔力干渉』が使えない!!」
そんな、嘘でしょう……! シェイドの『魔力干渉』が使えなくなったってことは、つまり……
「本当に、エフィスト様が『魔力干渉』を使って……これを、引き起こしている……ってことですか!?」
「僕も信じたくないが……きっと、そういうことだろう。とりあえず、早くあいつを探し出して止めないと!」
……っ! 信じたくありませんが、今はとりあえずエフィスト様を探し出すことが最善です。急いで見つけないと……あれ? 私は何か、重大な思い違いをしている気が……
「何をしている! 早く行くぞ!」
「……はい! 今すぐ行きます!」
そんな些細な疑念はシェイドの私を急かす声によってかき消され、私はシェイドの後を追って世界樹の下へ向かって飛んでいったのだった……




