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第百五話 とあるエルフの話

第百五話! ここから少しずつ過去編が多くなります……

 世界樹(シャルローザ)。女神様のいる神界とこちらの世界の架け橋となっている、半分樹木、半分魔力で出来た不思議な樹である。


 この世界樹を通じて、女神様はこちらの世界に神託を与えたり、『固有スキル』を授けたりしているのだ。


 そして、その女神様と唯一直接会って話ができる存在……それが、『世界樹の巫女』という職業を持つ、エルフの王族の中でも同じ年代に1人しか存在しないエルフだった。


 『世界樹の巫女』に選ばれた者は、女神様と直接会うことができるだけではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 無論、『勇者』など一部のスキルは使えなかったり、本来の力より少し弱くなっていたり、名前を知らないと発動できなかったり、『世界樹の巫女』で固有スキルを借りている間は本来の所有者がスキルを使えなくなるという欠点はあるが、それでもあらゆるスキルを好きな時に使える、最強に等しい能力だ。


 まさに、女神様から与えられた固有スキルの中でも最も神に近い力……全てのスキルを操る存在、と言えるだろう。


 『世界樹の巫女』に選ばれること……それは、エルフにとっては他の何よりも光栄なことだった。だから────




 〜50年前〜


 世界樹の太くて丈夫な枝を利用して作られた、たくさんのツリーハウスが世界樹の周りを囲うように建てられている。ここは、エルフの里の中でも、王族のみが住むことが許されている場所だ。


 そこに住んでいる私、シルファは……現在進行形で、どこかへと消えてしまった『世界樹の巫女』エフィスト様を探していた。


「エフィスト様!? 一体どこに……エフィスト様ぁー!!」


 もしかして、()()脱走したんじゃ……そう思って、風魔法【フライ】を使いながら全速力で枝と枝を飛び回り捜索していると……


「おーい、姉上!! 上、上ですよ! 私がいなくなっただけで大袈裟ですね、もう……」


 ツリーハウスがある所のさらに上……世界樹の1番上に、その人……エフィスト様は座りながら、満面の笑みでこちらに手を振っていた。本当に、あの人は……!!


「もうっ! 心配したんですよ、あなたがいなくなってしまったらって思って……てっきり、魔族にでも攫われてしまったのかと!」


 私はエフィスト様に近づきながら、そう大声で叫ぶ。全く、いくら心配をかけたら気が済むのやら……


「ほんのちょっと景色が見たかっただけじゃないですか……」


 隣まで飛んできた私に、エフィスト様は申し訳なさそうな笑みを浮かべながらそう言ってくる。本当に反省しているのでしょうか……


「はぁ……もう5年も経ったのですから、いい加減自覚して下さい、エフィスト様。あなたは『世界樹の巫女』……世界樹を守り、繁栄させていく使命を女神様から直々に与えられた唯一のお方なのですよ」


 エフィスト様、あなたが10歳の時に、女神様からの神託を受け『世界樹の巫女』となったあの日から……何度この言葉を言って聞かせたでしょうか? まだ15歳で遊びたい盛りなのは分かりますが……


「分かってますよ、姉上……でも『世界樹の巫女』なんて、私には何がいいのか……」


「そ・う・い・う・と・こ・ろ・で・す!! 女神様にお目見えさせて頂けることこそ……」


「我らがエルフの最高の光栄……でしょう? それは分かっています。それでも……私はそれよりも、『世界樹の巫女(こんなかたがき)』があるせいで友人や家族の対応がよそよそしくなってしまっていることが寂しいのですよ」


 ……全く、なんて子供っぽい……いえ、『世界樹の巫女』といえどまだエフィスト様は15歳。私も、エフィスト様が『世界樹の巫女』の力を賜ってからこんな敬語を使うようになりましたが……たしかに、寂しいと感じてもおかしくありませんね。


「……だから、よく衛兵の目を盗んで自室から勝手に出ていっては騒ぎを起こしている、と?」


「そういうこ……」


「迷惑でしょう! やめなさい!」


「うぅ……姉上のいじわる……」


 おっと、少し昔の癖が出てしまいましたね。大体、この子は『世界樹の巫女』になる前からこんな風だった気もしますが……


「……少し言いすぎましたね、エフィスト様。そんなに悲しそうな顔をしないで下さい」


 やはりこの子には、まだ荷が重すぎるのかもしれませんね……『世界樹の巫女』といえど、まだ子供。少し期待をかけ過ぎている節もあります。


「……姉上は、私のこと……嫌いじゃ、ない?」


「ええ、あなたのことは皆大好きですよ、エフィスト様」


 ああ、もう……そんなに泣きそうな顔で聞いてこないで下さい。せっかく『姉』としての私を抑えて、従者の役割を果たそうとしているのに……


「……でも、兄上は私のこと嫌いって言ってたし」


「あの(アホ)は少し嫉妬しているだけですよ……数年もすれば、じきに仲直りもできます」


 あの愚弟(バカ)!! いくら自分が『世界樹の巫女』に選ばれなかったといえ、妹にそんなことを……まあいいです。シェイドは後から問い詰めるとして……


「……姉上は、私のこと……すき?」


 ……もうダメです。やっぱり……私も、まだまだ従者としては未熟なようですね……


「ええ、大好きですよ、()()()()……ほら、おいで」


 私はそう言って、愛しの妹に向かって両手を広げる。するとエフィーは、満面の笑みに戻り……


「姉上……私も、大好きです!!」


 私に向かって飛び込んできました。全くこの子は、本当に甘えん坊なんですから……姉としては、ずっとこのままでいてほしいような、成長してほしいような複雑な気分です。


 そんな心情の中、たった一つだけ……この子がこんな幸せそうな顔ができる日々がずっと続けばいいな……なんて、思っていたりするのです。

追記:『世界樹の巫女』の能力に表記ミスがあったので変更しました。すみませんでした。

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