第百二話 転移魔法陣
第百二話! ラルクたちは一体どこへ連れて行かれるのか……
「ここをこうして……こうして……こう! よし出来た!」
フィーズさんとお別れした後、僕たちは町の中の路地裏に入り、隠し通路みたいな所に入れられ、迷路のような道をずっと進んだ後に、魔法陣の描かれた扉の前まで連れてこられた。
まるで、何かバレたらまずいものがあるみたいなその厳重さ……この扉の先には、一体何があるんだ?
「じゃあ……今から見ることは口外禁止だよ。わかった?」
「「……はい」」
そう言って、シェイラさんが扉を開けると……!
「「魔法陣……?」」
そこにあったのは、部屋一面に描かれた大きな魔法陣だった。この魔法陣で何をするんだ?
「2人とも、この魔法陣の中に立って」
「え、中に……ですか?」
魔法陣の中って……もしかして、これ……
「「転移魔法陣?」」
転移魔法陣。魔法陣の中でも、扱うのにはずば抜けて高度な技術と膨大な魔力が必要な魔法陣だ。まさか、これで……
「正解。今から君たちには、これを使ってSクラス……ではなく、王国直属の部隊として活動してもらうよ」
王国直属の部隊……? Sクラスって、学園内のクラスじゃないのか?
「その部隊って……何をするところなんですか?」
そんなライアの質問に、シェイラさんは答える。
「精鋭を集めろっていう国からのお達しでね。とある場所から、国へ直々の護衛の依頼が来ているらしいんだよ。でも、少し人員が足りないらしくて……そこで、私たちがそのメンバーを集めてくれって言われたんだ」
国に直接、護衛の依頼を……!? そんな権力を持った存在がいるのか? ……でも、いくら国からシェイラさんたちがそう言われていたとしても、まだ受けると決まったわけじゃない。依頼の内容によるよな……
「その内容は……?」
「……ここから先は、国家機密レベルなの。もし他の人に喋ったら……次の日には王都の路地裏のシミになるけど、それでも聞きたい?」
シンプルに怖すぎる。そんなに重要な依頼なのか……!? でも、他の人に話さなければいいだけだ。聞くだけなら大丈夫だろう。
「……僕は、聞きます」
「……ボクも……ちょっと怖いですけど」
僕たちがどんな依頼なのか恐る恐る聞くと、シェイラさんはゆっくりと……とんでもない話を始めた……
人魔大戦。12年前に始まった、ファイルガリア王国を中心とした、女神様から固有スキルを賜る人間の軍と、邪神を信仰する魔王率いる魔族で構成された魔王軍の全面戦争。
その戦争の目的は、突如侵攻してきた魔王軍から『世界樹』を護衛すること。代々その村を守っているエルフたちの住まう『エルフの森』……そこに生えている、僕ら人間の信仰する女神様のいる神界と、こちらの世界をつなぐもの……それが、『世界樹』なのだ。
女神様からの信託を受ける世界樹を守るためのその戦争は、今から10年前……魔王ジェイロンを、勇者アルス様と剣聖ホープ様が相討ちにしたことで魔王軍の侵攻が終わり終結した……はずだった。
それが起こったのは、4年前のこと。エルフの森に突如……魔族が侵攻して来たのだ。どうやってエルフの森まで侵攻してきたかは不明。1度目はなんとか追い返したものの、次はいつ攻めてくるかわからない。
そこで、人魔大戦の時に中心となって戦ったファイルガリアに対して3年前に、エルフから協力の要請が来た。そして、それから数回の侵攻があったが、Sクラスの人達を含むファイルガリアから送られた戦士とエルフ達が協力して、世界樹とエルフの森を守っているのだ……
「……っていう話なんだけど」
「聞いてないですよ……そんなすごい話なんて」
「お姉ちゃんたちが守った方が確実じゃ……?」
「それはできないんだ〜。私たち……というか上位のSランク冒険者は、国から他国への協力及び軍事的な加担が禁止されてるんだよ、強すぎて」
だからって、こんな非常事態の時でさえ許されないなんて……やっぱり地位の高い人は、頭も硬いのだろう。昔っからそうだった。
「でも最近……というかここ1ヶ月、魔族の侵攻が激しくなってきているって報せがきて、フィーズが王様に直談判してくれたおかげで、グレアと一緒に私たちも来年からエルフの森に加勢に行く予定だよ……だから、今年は一緒に行ってあげられない」
……つまり、今年1年が1番危険ってことか……。って、だとしたら!
「そういえば、フィリアは……!?」
確か、フィリアもSクラスに行くって……
「ああ、フィリアちゃん……と、他のSクラスの2人はもう、あっちで1週間前から待機してるよ」
フィリアは、もう行っちゃったのか……
「さて、2人とも。ここから先は、本当の戦場になるかもしれない。今ならまだ引き返せるけど……どうする?」
ここから先は、戦場……今まで『Sクラス』って言っていたのに、シェイラさんは真剣な表情でそう言った。それはつまり……本当に、遊びじゃないってことだろう。それでも……
「やらせて下さい」
それでも、強くなりたい。それが、僕の答えだ。それにフィリアも参加するなら、行かない理由なんてない。
「ボクも……やります。お姉ちゃんが行けないなら、ボクが行く。やれるってとこ……お姉ちゃんに、見せたい」
ライアも参加するみたいだ。これなら心強い……
「そう言うと思ってたよ。じゃあ、2人とも魔法陣の上に乗って」
僕らはそう促され、転移魔法陣の上に乗る。
「ラルク……本当に君も行くんだね」
「ライアこそ。今ならまだ戻れるよ?」
「……お姉ちゃんが行けないならボクが行く。ボク、強いから」
「そっか。僕にも行かないといけない理由があるからね、行くよ」
「……そ」
少しソワソワしながら、ライアとそんなことを話す。というか、フィーズさんもこれを知っててなお、ライアにSクラスに行かないように言わなかった……ってことは、信じてるんだろうな。ライアのこと。
「まあ、侵攻っていっても魔物たちがたびたび攻めてくるのを防ぐだけだから、そんなに気張らなくても大丈夫……さすがに、そんな森を燃やしたりするほどの全面戦争みたいなことにはなってないよ」
良かった。さすがにそこまでではなかったみたいだ……
「私は転移魔法陣を使えない……発動させることしかできないから、着いていってあげられないけど……応援してるよ。荷物は後から送るよ……2人とも、気をつけてね」
そう言うと、シェイラさんは少しずつ魔力を込め始める。そして魔法陣は少しずつ光を増していき、あたりが見えないほどに強まって────!!
瞼越しに魔法陣の光が収まっていくのを感じる。どうやら、転移が終わったようだ……そう思い、僕はゆっくり目を開く。すると、そこには……信じられない光景が広がっていた。
「ここ、は……!?」
「どうして……こんなことに……!!」
僕らは唖然としながら、思わずそう声を漏らす。だって、そうだろう……!
「なんで、森が燃えてるんだよ!!」
僕たちの目の前には、こちらを見ている大量の魔物と、今まさに燃やされているエルフたちの住む森があったんだから……!!
side:シルク
王都にきてからというもの……ラルクくんと話す機会もないし、外に出たらバレるかもしれないし……やることがなくて、暇だ。今日も鑑定の練習でもしようかな、なんて思っていると……
「……っ!? そんな……ルキア様っ!」
突如、背中に悪寒が走る。この感覚……50年前の、あの感覚と一緒────!!
(早く、向かわないと────!!)
ルキア様が……『世界樹』が、危ない!!




