「~~できない」で世界を構築する
枝葉となる部分に「~~できない理由」を作る練習としては、自分が書こうとしている世界の地図を書くことから始めると良いでしょう。
例えば冒険譚である場合、主人公が冒険を始める場所から目的とする場所までは「物理的な移動距離」が必要となります。現代劇にしても主人公が会社までどのぐらいの時間をかけて移動しているのか、主人公がドラマの舞台に立つにはどういった移動が必要なのか、といった「物理的な移動距離」は外せません。文章中にわざわざ書きこまないことが多いので忘れがちですが、登場人物たちがその世界で暮らす『実在の人物』である以上は「テレポートで移動することはできない」のです。
地図はこの「物理的な移動距離」を視覚的に整理するためのものであり、作っておくととても便利です。これは作者が自分の思考整理をするためだけのものであり、もちろん精密な地図である必要はなく、四角に適当に街の場所をかきこんだものでも構わない……つまり「テレポートで移動できない」原則さえ守れば形式は何でもいいのです。
さて、例として「人間と魔族に種族が憎みあって暮らす世界」を簡単に構築してみます。まず白い紙の上に人間が暮らす地域と、魔族が暮らす地域を分けて書いてみましょう。すると、不思議なことに気づくはずです。
――こんなに近しいところに住んでいるのに、なぜ一緒に暮らさないんだろう。
特に魔族が人語を話す種族だった場合、話し合って平和な生活を望むことだって可能なわけです。ここで「魔族と人間が一緒に暮らすことができない理由」が必要になります。
本当は……物語上の必要がなければ魔族と人間が別れて暮らしているという設定そのものをなくせば良いのですけど……ここは説明のため、魔族と人間が敵対している必要がある物語であるという体でお話しますね。
この理由の作り方は一通りではないです。例えば歴史側からのアプローチ――遠い昔に世界を二分する大戦争があって、その時に魔族と人間は決別したとか、もしくは地理側からのアプローチ――人の住む国と魔族の住む国の間にめちゃくちゃ高くて険しい山脈があって交流がないとか、それらしい理由はいくらでも思いつくでしょう。こうして地図の上に「国境」が作られます。
こうして「できない理由」から作られた設定というのは必要最低限かつ揺らぎないものとなります。またここが設定の上限となるため、ここから国の歴史を構築するというマニアックな楽しみ方をすることも可能です。
また、この方法の良い点はコメディを書くならば「コメディックな理由」を当てはめることも可能だということです。
例えば、先ほどの例はガチファンタジーな世界を想定していましたが、かなり緩い魔族と人間は敵対関係にあるが殺しあうほどではないという、おちゃらけコメディーを考えてみましょう。
この場合、コメディーであっても「魔族と人が共存できない理由」は絶対に必要です。が、それが現実の国や歴史の成り立ちと近しいものである必要はないのです。むしろコメディーを書くつもりなのにここぞばかり「太古の昔人と魔族とは壮絶な殺し合いをして……」みたいな重たい設定を持ってくると、せっかくのコメディックな世界観を壊してしまいかねません。
というのも、ここで作った世界観は直接文章に書きこむことはなくても、『物語世界の住人』には影響を及ぼすからです。
昔はむちゃくちゃ仲が悪くて種族的に分かり合えず、人を見たら殺せみたいな魔族を作っちゃったら、転生してきた人間を簡単に自分たちの仲間に迎え入れたりしないでしょう? 少し上手な人になると「俺は魔族の中でも変わり者だからさ」みたいなキャラを作ってきたりもするけど、最初の設定がハードであればあるほど、そうした変わり者は他の魔族たちから手ひどく迫害を受けるはずです。つまり、コメディックな世界にそぐわないドロドロしたものが物語の背後に置かれてしまう。
コメディックな物語を書くときは、「~~できない理由」さえもコメディックに作ってしまうほう軽量かつ読者にもわかりやすいのです。例えば「大昔、魔王と勇者は共同生活をしていたが、魔王がとっておいたプリンを勇者が食べてしまったのでお互いの関係が悪くなった」とかはどうでしょうか、これなら悲壮な話になりようがないでしょう。
この提案をすると「それでは非現実的だ」的な返しをされることも多いですが、実は設定に必要なのは『物語世界との親和性』であって、『現実世界との同一性』ではないのです。つまり非現実的な話を書くときほど、その設定自体も非現実的であるべしという法則があってね……ここで現実を引いてくることをリアリティとは呼ばないのです。
と、これは「~~できない理由」が必ずしも現実に即したものである必要はないという例。自分の物語世界に必要な設定を作ることの方が大事。
「~~できない理由」の話に戻りましょう。
さて、実際に地図として書き起こすと、世界の不備というのが見えやすくなるはずです。たとえば魔族が強く、人間が弱い存在として設定されていた場合、同一の地図上にこの二種族をペタンと置くと、なぜ魔族は人間を滅ぼさないのかという疑問が起きるでしょう。ここには「なぜ魔族は今日まで人間を殲滅することができなかったのか」という理由が必要になります。
また、飛空系の種族や術などを登場させるときに悩ましいのが「どこでも簡単に行けてしまう」というアレ。つまりどれほど世界を広く作っても、その術が無限に発動するのならばあっという間に目的地についてしまうわけです。そうすると物語中に「なぜ飛空術があるのに目的地にたどり着けないのか」という理由が必要になります。
このように、「なぜ主人公の目的は簡単に達成されないのか」を世界自体にも練り込んでおく、これが設定の極意だったりするのです。
さて次は、キャラクター作成にうつりましょう。




