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俺のマスターは吸血姫~無双の戦鬼は跪く!~  作者: 黎明煌
第十章 「無双の戦鬼と、二度目の夏」
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750 「ケダモノ二匹」



「では行こうか、あや」

「わんっ♡」


 事前段階から悲喜こもごもありつつも、遂に開始される変態行為おさんぽ

 街灯のみが照らす薄暗い商店街の中にあり、雅な下駄のカランコロンという音と、ペタペタと手をつく音が響き渡る。


「あ、あぁ……♡ 私、お散歩してる……♡ こんなとこで……♡ 商店街で裸のまま、彼氏くんにお散歩させられてるぅ……♡」


 ついでに感極まったようなか細い吐息と、そこそこの頻度でピト、ピト……と粘性のあるナニカが地へと垂れる音も聞こえてくる。あまり意識を向けない方がいい。俺は今、彼女の良き飼い主なのだからな。散歩開始早々、ケダモノが二匹となってしまっては示しがつかんだろう。このような行為に及んでいることなど誰にも示せんが。


「はっ……♡ はっ……♡ わん、わん♡」


 見下ろせばそこには、よく躾られた犬のようにピタリと足元へと寄り添う綾女の姿。髪が短いゆえその傷一つない背中を大胆に晒し、細い腰から丸みを帯びた尻への曲線もよく見える。

 そんな彼女がこちらを見上げ、愛らしく鳴く。丸っこいアーモンド色の瞳は熱でいたく潤み、トロンと蕩けている。今のところ、楽しんでくれているらしい。本物の犬もこうして飼い主を見て、その喜びを伝えてくれるのだろうか。少しだけ微笑ましい。少しだけな。


(さて……)


 ──問題はここからだ。

 リードを短く持ち、綾女の負担とならぬようゆっくりと歩を進めながら思考を巡らせる。

 これが本当の犬の散歩であれば、このまま商店街の通りを歩いていればいい。

 しかしこれはあくまで、そういった変態行為ぷれい。飼い主として、そしてそれに付き合う旦那として、彼女が悦ぶ"ぷらすあるふぁ"を用意してこそデキる男なのではなかろうか。

 今の彼女は『裸のまま外に出る』という新鮮な刺激で一時的な興奮と快楽を得ているが、じきに慣れてくるはずだ。なにせここは商店街を模しているとはいえ、無人。誰の目もなく安全の保証された露出など、真の露出魔(おれ)からすれば自室で過ごすのとなんら変わりはしない。


(ここは露出の先達として、綾女に最高の露出体験をしてもらいたい)


 家族とは『幸せを分かち合う者達』という要素を含んでいると悪鬼は考える。ならば露出の幸福をも分かち合わねばならんはずだ。たとえどれだけの変態行為であろうと、ひどい絵面であろうと、その根底には互いのことを想う愛がある。これは純愛なのだ!


(ならば、今の俺にできることを──)


 頭の中で組み立て……よし、これだ。犬の散歩には"あじりてぃ"も必要だろう。

 頷いた俺はパチンと指を鳴らし、商店街全域に影を這わせる。そうしてそれを媒介として、旅行前に『記録のため』と準備していた機材を通り一帯に設置した。

 唐突な俺の指鳴らしに、首を傾げる綾女。そんな彼女の前で膝をつき、その熱い頬に手をやりながら言った。


「──たった今、この通りに複数の監視カメラを設置した」

「わっ、わおん!?」

「見えるだろう、道を照らすあの照明が。あの光が照らす範囲こそ、カメラの視覚。あれに照らされた瞬間……その記録が、映像として刻まれてしまうぞ」

「ご、ごくり……!」

「あれを掻い潜りつつ、進んでいくとしよう。今の痴態を余さず残したいというのならば別だがな?」

「く、くうぅ~~~ん……♡♡♡」


 切なそうに鳴く綾女にほくそ笑む。

 ククク、迷っているな? 彼女は初体験時の映像を残してしまうほどの好き者だからな。

 映像を残せば、己の痴態をいずれ誰かに見られてしまうかもしれない。その危険を冒すという背徳感。

 同時にこの痴態を誰かに晒してしまいたいという危険な欲望。そうして晒した時、それに伴う解放感、快楽はいかほどのものだろうか。

 彼女のこれまでの人生は、決して華やかなものではなかった。良い子として、委員長として、陰日向に努力し、誰かを助けてきた。たとえ感謝などされずとも。

 そんな彼女だからこそ、時に『認められたい』、『目立ちたい』と思うことは自然な道理。たとえその欲求を本人が自覚していなかろうと、身体はそれを求めているはず。人間と欲は、決して引き離すことなどできないのだ。


「あぁ……やぁ……♡ こんなの、撮られちゃったらぁ……♡」

「さぁ、行くぞ」

「あ、あ──♡」


 地へと落ちる水の音が早くなる。

 その卑猥な音を聞きしな、俺は誘導するように優しくリードを引く。すると彼女はゆっくりとだが、その四肢を動かし始めた。


「や……♡ そんな、ギリギリのとこ……♡」


 俺の導く経路は、カメラの視覚をかなり攻めた部分。下手をすれば手や足の一部が映っているかもしれないほどの域だ。

 上から照らされる、まるで"すぽっとらいと"かのような監視の光。睥睨するかのように、絶え間なく首を振るその光。それが身体をかすめるたび、彼女の吐息は早くなり、より一層熱くなっていく。


「……っ」


 そしてもちろん、この俺とて動悸が激しくなっている。興奮ではなく、危機意識によって。

 こういった映像が残る危険性は、黄金週間にて経験済みだ。もしこの映像が他の少女の目に触れてしまうようなことがあれば、果たしてどうなることだろうか。

 リゼットや姉上、ガーネットは心底冷ややかな目で俺を見るだろう。刀花やティアなどは真似したがり、その危険性を更に広げてしまうだろう。考えるだに恐ろしいことだ!!


(だが俺は──!)


 その危険性すらも……背負う!

 なぜなら家族とは! 喜びだけでなく、苦難をも共にすることこそ! その在り方であると信じているからだ──!! 死ぬ時は一緒だ──!!


「おっと、今のは少々映ってしまったやもしれんなァ?」

「そ、そんなぁ……♡ いじわるやぁ……♡」

「犬語はよいのか?」

「わ、わおぉ……♡ きゅうぅ~ん♡」


 光を掻い潜り、時に俺のみが光の中へと入り、彼女の焦燥と快楽を煽る。

 正常な思考は既に破棄され、彼女は湯だった頭のまま飼い主に従う。愛する者に隷属する悦びは、この妖刀も知るところだ。その背徳的な熱に身体は火照り、重力に従って重そうに揺れる乳房の先端など、そのまま地に擦れそうなほどピンと固くなっている。

 己の尊厳、その全てを一瞬の後に破壊されてしまうかもしれぬというのに。こんなことをさせられる悲しみより、怒りより……背徳と興奮が、彼女の胸を占める。これまで良い子であったからこそ、神聖なる刀の担い手だからこそ……興奮を、覚えるのだ。


「さぁ、あと少しで抜けるぞ」

「くぅん♡ くぅ~ん♡」


 焦っているのか惜しんでいるのか分からぬ切ない鳴き声。

 それを聞きながら、最早身体ほんの一つ分しか隙間の無い、二つのカメラの間を通り抜けた。


「はっ……♡ はっ……♡」


 今ので、この通りに設置したカメラは最後となる。

 それを理解した綾女は、感じたような吐息を漏らしながらその場にペタンとへたり込んだ。極限の緊張に晒され、それが抜けた今身体に力が入らぬのだろう。

 クタクタとなってしまった彼女の前に跪き、俺はその小さな身体を正面から抱き締めた。


「よしよし、良くできたなあや」

「わ、わぁん……♡ わふ、わふぅん……♡」


 キチンとできた子は、褒めてやらねば。酒上家は褒めて伸ばす。

 柔らかい身体を押し付け、綾女は甘えるようにまたこちらの唇を舐める。その熱く小さな舌を口へと迎え入れれば、途端にねっとりと卑猥な動きで舌を絡め始めた。


「れろぉ……♡ んあぁ……わん、わん……♡」

「あや……」


 二人の間を銀の糸が繋ぎ、発情しきった瞳がこちらの目をじぃ……と覗き込む。

 言葉にせずとも分かる。その期待に満ちた瞳を見れば。彼女はここで、抱かれたがっている。


「あや……」

「わん……♡」


 だが俺はこういった時、少々意地悪なのだ。


「では、折り返しだ。また同じ道を戻るぞ」

「わ、わァ……!」

「返事は。散歩拒否は感心せんぞ? だが、無事踏破した暁には……俺から、たっぷりとご褒美をやろう」

「わ──」


 耳元で囁き、立ち上がる。

 すると彼女はこれまで以上に熱い吐息を漏らし、


「わおぉ~~~ん♡♡♡」


 木霊するほど甘い鳴き声を上げた。綾女は、こういった時にされる意地悪が好きであったりする。

 そうしてまた、来た道をゆっくりと戻っていく。焦らすように、焦らすように、ゆっくりと。

 ご褒美をちらつかされた綾女は、もうそのことしか考えられない。ゆえに──限界はすぐに来る。


「はっ♡ はっ♡ あ、あうぅ……♡」

「どうした、あや」

「うぅ……うぅ~~~……!♡」

「む? ああ、これは失礼した。水分を求めているのだな。もちろん、用意しているぞ」

「うぅ~~……!」


 急かす綾女にすっとぼけ、足を止める俺。

 こちらの和服の裾を噛んで引っ張ってもおかしくなさそうな彼女だったが……俺が袖から取り出した"それ"を見れば、途端に押し黙り、目を見開く。

 俺が取り出したのは、試験管のような容器に入った液体。効果が半日しか保たないと聞いていたため、こんな時のために用意しておいた──絶対避妊薬『デキナイ』だ。


「んむっ♡ んんうぅぅぅぅぅ……♡」


 それを自分の口に含んだ俺は、彼女と口付け……薬を流し込む。

 恍惚の表情を浮かべる綾女は一切の抵抗なくそれを受け入れ、小さくコクコクと喉を鳴らして嚥下していった。

 身体を離せば、彼女の唇から力なく液体が漏れる。どこかいとけない表情の彼女に、俺もまた辛抱たまらず告げた。


「散歩を完遂できなかったゆえ、ご褒美は無しだ。その代わり、これからたっぷりと……お仕置きをくれてやろう」

「ッッッ♡」

「返事は」

「わぅんっ♡ あやのこと、いっぱい躾直してほしいわん♡」

「それもまた飼い主の務めなのだろう。あや……たっぷりと可愛がってやるからな」

「わふっ、わふうぅぅぅ~~~ん♡♡♡」


 そのまま我等は光の届かぬ路地裏へと移動し、


 ──野犬のように、互いの身体を貪り合った。

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