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俺のマスターは吸血姫~無双の戦鬼は跪く!~  作者: 黎明煌
第十章 「無双の戦鬼と、二度目の夏」
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676 「地面師たち」



 三年生の教室も、今日は朝から浮き足立っていた。


「ふんふん、ふんふん」

「今日は気合い入ってるね、刃君?」

「当然だ」


 ご飯が終わって、掃除も終わって、いよいよ授業参観が始まる数分前。

 私、薄野綾女の左隣に座る鬼さんも……どうしてか鼻息を「ふんふん」させて、入念に授業の準備なんてしていた。てっきり「下らん」なんて言って、切って捨てるものかと思ってたケド……?

 私が首を傾げれば、彼はいつもなら開けっ放しの襟部分をピッタリ閉めつつ言う。


「人の親なら、我が子の成長を喜ばぬ者などいない。特にこういった行事に参加するような者ならばな」

「保護者目線……あ、そっか。刀花ちゃん?」

「うむ。俺は刀花が小中学生だった折に、そういった行事に参加している。ゆえに、その意義もまた実感として理解しているのだ。はりきる子というのは一層可愛らしく、そして尊い。俺もカメラを構えながら、体内の水分を涙として二割ほど流したものだ」

「死んじゃう~」


 でもなるほど。そういう経験があるからこそ、刃君もはりきってるんだね。

 腕組みしてうんうん頷く刃君に、私は微笑ましくなってつい笑みが深くなっちゃう。彼がはりきる、もう一つの理由が分かって。


「ふふ♪ 鞘花ちゃんにいいところ見せたいんだ」

「ククク、左様。弟の成長を見せつける貴重な機会、これを逃す手はなかろう。姉上の瞳にそれを焼き付け、帰宅後にきっと褒めてもらうのだ」


 可愛い理由~♡

 刃君は褒めてもらえて、鞘花ちゃんも成長が見られて嬉しい。幸せの循環だね~♪ 良いと思うよっ。

 心がポカポカしていれば、授業開始のチャイムが鳴る。それと同時に、五時間目を担当する初老の男性教諭もゆっくりと登壇した。教室の後ろには、既に保護者の方々も集まってきている。

 ベテランの先生は保護者の目に緊張することもなく、穏やかに会釈すら返して授業を始めた。


「よし、それじゃあ席に着いて。今日は予告通り、調べ学習の中間報告をしてもらいます。皆が興味のある分野、疑問に思っている物事など、それらを掘り下げ、主体的な学び方を身につけられるよう努めてください。その姿勢はきっと、将来の役に立つからね」


 隣で刃君が、その前の席で橘さんも「うんうん」と頷く中、私はちょっぴり緊張しちゃう。

 だってこれ、一人ひとりが前に立って発表する形式なんだもん(班の子もいるけど)。もうそれだけで緊張するのに、今回は保護者さんの目まであるんだからドキドキしっぱなし。

 一部の生徒がはりきる一方で、中には「うげ~」と不満を漏らす子もいて反応も様々。それを見て先生は嬉しそうに笑ってるんだから、この先生も穏やかな性格に見えて、ちょっぴり意地悪なのかも。


「プロジェクターは準備してあるから、各自端末機器と繋いで発表してください。トップバッターは──」


 そうして、調べ学習の中間報告会が幕を開ける。

 内容は本当に生徒の個性が出るから、保護者の人達も興味深そうに注目し始めていた。最初は……あ、班発表だ。


「押忍! 我々非公式ラーメン部は、放課後に調理室を間借りし、日々美味しいラーメンの作り方を研究中であります!!」


 初っぱなから濃い人達来ちゃったなっ。

 プロジェクターに映される、白い作業着に身を包んで自慢げに腕を組む三人の男子生徒の姿。おぉ……なんかできる人達っぽい……!


「そしてこちらが、現在研究中のスープです。保護者の皆様もご試食ください!」


 これ保健所とかのチェック通ってる?

 ……って! ちょっ、いつの間にかうちのお母さん来てるし! それで率先して試食用の小皿もらいに行ってるし!! 悪目立ちやめてよぉ!!


「ほらほら、あやちゃんも!」

「やめてよ……」

「酒上くんもっ!」

「やめてってば……」

「どれ……む、出汁をとる際の臭みが抜けきっていない。三点」

「ガーーーン」


 刃君は辛口レビュアーだった……。


「い、委員長もどうぞ! お母さんも!」

「う、うん、ありがと……チビチビ……あ~……もっと香味野菜とか効かせた方がよかった、カモ……?」

「欲張って色々入れ過ぎて、全部が中途半端になっちゃってるかもね~? コンセプト立てて、それをしっかり貫こう!」

「ガーーーーン。う、うっす! 精進します!!」


 涙を飲んで頭を下げる非公式ラーメン部の人達。あくまで中間報告だから、これから美味しくなるといいね! あれ、ところで麺は……?


「それじゃあ次は……橘さん」

「っ!」


 非公式ラーメン部の人達が下がり、次は橘さんが指名される!

 だ、大丈夫かなぁ……だいぶ濃い人達の後だけど。それに橘さんは失声症で、こういう発表には不向きなのに……。

 そんな橘さんは、いつもと変わらぬクールっぷりで教壇に登り、端末を操作する。ちなみにチラッと保護者さんの方へ目を向けると……な、なんか黒ずくめの怪しい人が一人いるな……橘さんがそっちを見て頬を染めてることからして、もしかして彼氏さんかな……三十路越えの。

 私が勝手にハラハラしている間にも、橘さんは深い水底を思わせる瞳をキリッとさせ、発表用ファイルを開く!


『橘愛なのだ。今日は生物学的観点から、年齢差のある恋の合理性を考察していくのだ』


 教室がざわつく──!!

 あと解説動画でよく聞く合成音声!? いやそれよりテーマテーマ!!

 隣で刃君が「ほほう」と目をキラリとさせ、私は冷や汗がどっと出てくる。か、加減して~……。


『まずはセイウチの生態から解説していくのだ』


 そうして橘さんによる、生物学的観点から見た年の差恋愛の合理性が語られていく。セイウチの知られざる生態も……へ、へぇ~、セイウチって、年齢差のある個体同士(雄が上)での子作りがデフォなんだぁ~……理由は『若い雄は、成長した雄に基本的になんの能力でも勝てないから』だって。世知辛い世界だ……。


『──以上により、生物の命題である"遺伝子を残す"という点において、特にあらゆる能力面で成熟した雄、そして体力と時間を持つ若い雌が結ばれることは、若者同士で結ばれるより合理的な点が多いと現時点では判断できるものとするのだ』


 お、おぉ……。


『質問のある人はいるのだ?』


 謎の迫力に誰もなにも言い出せないよ……。


「はい」


 しかし、ここで先生が手を挙げる──!


「素人質問で恐縮なのですが、生物学的に正しいとしても、人間には倫理観や道徳があります。その結論に、その辺りは加味されているのですか?」

「……………………………………」


 ……ポチポチ。


『以上により、生物の命題である"遺伝子を残す"という点において、特にあらゆる能力的に成熟した雄、そして体力と時間を持つ若い雌が結ばれるのは、若者同士で結ばれるより合理的な点が多い……かもしれないのだ。しかし人間には色々あるので、課題も色々あるのだ』

「ふふ、分かりました」


 橘さんは泣いた──!!


「では次に……薄野さん」


 この流れで私やるの……?

 肩を落とす橘さんとすれ違い、今度は私が教壇に立つ。う、刃君もお母さんもワクワクしてこっち見てる……。


「え、えっと、私は、ダイエット中でも安心して食べられる、低カロリーおやつレシピの研究で~す……」

『っっっ』


 クラスの女の子だけじゃなく、ご婦人方の目の色も変わった──!!


「──い、以上で~す。完成したらレシピも配布しますので、ご家族で作ってみてくださ~い……」

『は~~~い』

「ふふ、良い発表でしたね。さすがは薄野委員長」


 先生に褒められちゃった。そして刃君とお母さんは感涙して拍手してる……あの、恥ずかしいのでやめてくださいなのだ……。


「次は……酒上君ですね」

「ん」


 あ、次は刃君だ。でも鞘花ちゃんがまだ……。


「うん?」


 と、廊下からなにやらどよめきが。

 これは……あ、もしかして鞘花ちゃんが来てくれたのかな? 鞘花ちゃんって綺麗だし、それにいつも素敵なお着物を着てるから、きっと大人の人でも出会えばビックリしちゃうんだね。


「──」


 そうして刃君が教壇に立つと同時に、後ろの扉がガラガラと開き──!!


「あ、どうもどうもお気になさらず~。私は通りすがりの一般修道女なので~」


 上から下まで修道服を着たユースティアさんがニコニコ笑顔で入ってきました!!


「酒上君~、教壇から転げ落ちたら危ないですよ~」


 そして刃君はコントみたいに教壇から崩れ落ちていた……。か、可哀想……じゃあ鞘花ちゃんは一年生の教室かなぁ……。


「きゃあ~♡ せんせ──コホン、じ、刃さま~♡」


 ユースティアさんは推してるアイドルのステージに来たみたいなテンションで手を振っている……さすがに小声だけど。

 そして──、


「え、あれってペルフェクティオさん……?」

「伝説の退学RTA半日のペルフェクティオさん……?」

「私達の集団幻覚じゃなかったんだペルフェクティオさん……」

「──ッッッ」


 周囲のヒソヒソ声に、こちらも膝から崩れ落ちるユースティアさん……。

 そうだよ、ここはユースティアさんが半日だけ所属してたクラスだよ……よく来れたね……自分にとって黒歴史すぎて、忘れてたのかなぁ。忘れてたんだろうなぁ……。


「はぁ……」


 持ち直した刃君が、教壇の上で大きくため息をつく。あれは完全にやる気をなくしちゃってるね……わ、私が見てるから、頑張ろっ! ね!?


「では……発表を始める」


 私が内心でエールを送っていれば、刃君はぶっきらぼうな感じでそう言ってテーマを発表する。


「お題は不老不死の探究についてだ」


 教室がまた違う意味でざわつく──!!

 でも刃君は気にした様子もなく、淡々とスライドを示していった!


「古今東西、不老不死に関した伝説は数知れず。中でも口腔接種による効能が比較的多い。日本においては人魚の肉や非時香菓ときじくのかくのみ。中国では仙桃、インド神話においては"あむりた"、"めそぽたみあ"神話ならば霊草などだな。錬金術による賢者の石なども有名どころである」


 おぉ、一応きちんと調べてるみたい。鞘花ちゃんに見てもらうためだったのに……わ、私が見てるからねっ。ぐすぐす泣いてるユースティアさんもっ。


「どれも伝説上のものであり、俺も方々を探してみたが今のところ成果はない。口から接種するものに関しては、世界に散らばる強者どもが隠し持っていることを願うばかりだ」


 奪う気だ……。


「一方で、行為によって不老不死となる方法もまたあるとされる。閻魔帳に書かれている己の名を消すことや、過酷な祈りによって神の国へと至ることなどだ」


 ユースティアさんが大きく頷いてる……か、勧誘はやめてね? 退室させられちゃうから……。


「そして俺はその数ある方法の中、実際に試し、そして研究中であるものが一つある」


 え、それってまさか……!?


「──性交だ」


 先生これいいんですか……!?


「それもただの性交ではない。莫大なる陽気、そして陰気を交わらせた性交だ。これを房中術という。これを俺は日々実践し続けているが、これもいまだ大きな変化は見られないのが現状だ……」

「酒上君の彼女って……」

「そんな、ブルームフィールドさん……」

「いいなぁ……」


 刃君の彼女は公的にはリゼットちゃんになってるから、リゼットちゃんに飛び火が! ホントは鞘花ちゃんとのことなのにね。これ鞘花ちゃん来てなくてよかったな……あと最後の「いいなぁ」の声は女の子からです。いやダメだよっ!?

 私が冷や汗を流していれば、壇上の刃君はスライドを見ながら難しそうに唸っている。


「果たして何が足りぬのか……相手と俺の内包する気は充分のはず。気持ちもこれ以上ないほどに通じ合っている。何も分からぬがゆえ、一つひとつ手段と成果を積み重ねていくしかあるまい……というのが、中間的報告となる」

「はい」

「む、教諭」


 教室中がざわつく中、ずっと興味深そうに聞いていた先生が手を挙げる。あの、いいんですかこれ……まぁ房中術だって昔からあるものですケドも……。


「素人質問で恐縮なのですが」


 多分こればっかりは素人しかいないんじゃないかな……。


「それについて、酒上君が現在注力していることについて教えてください」

「現在か」


 え、それって刃君個人の努力? それとも鞘花ちゃんとの営みについてってコト……!?

 私がアワアワとしていると、刃君は「ふむ」と小さく頷き、言い放った。


「今は、俺個人ができる鍛練に注力している。気は充分、気持ちも通じ合っているとなると、足りぬ部分は己の身体部分にあるのではないかと思ったのだ」

「ふむふむ。何を鍛えているのですか?」

「チ○ポだ」


 その一言で、教室の空気が凍りついた。


「──チ○ポだ」


 良い声で繰り返さなくていいからっ。

 聞こえなかったわけじゃっ、ないからっっっ。


「俺は頭があまり良くなくてな。身体を動かすことしか能がない。そして房中術において鍛える部分としては下半身しかなかろうと思い、ここのところそうした鍛練を行っている」

「ほほう、というと……?」

「──チン立て伏せだ」


 チン立て伏せってなに──!?

 ざわつく教室(特に男子)に、刃君はそのやり方について説明する!


「腕立て伏せと似たようなものだ。これを腕ではなく、硬くした股間によって行う。効能に関しては、他に類を見ないため所感の範囲ではあるのだが……勃起時の更なる硬質化や肥大化。持続性も上昇しているように見られる。営みに言及すれば、現時点でもより充実した行為が可能になっていくと判断できるだろう」

『っっっ』


 なんか女の子(ご婦人方含む)もドキドキしてるんですけど! 私もしてます! でもそれってつまり床オ──、


「う、嘘だ──!!」


 と、そこでクラスでも大柄な男の子、太田太おおたふとしくんが立ち上がって言う!


「そんなことできるわけがねぇ! 確かにチン……男性器に関してはっ、球海綿体筋とか腸腰筋とかがあって……だがそこに関する運動も、スイング運動くらいしか聞いたことがねぇし!」


 詳しいね太田くん……悩んでるのかな……。


「真剣に悩んでる奴だっていんのに、下らねぇ嘘ついてんじゃねぇよ! 本当にできんなら──」

「ふん……橘、音楽を」

『(デーデン♪ テレレレーレー♪)This ain't a song for the broken-hearted♪』


 ボン・ジ○ヴィ!?

 そして上半身を脱ぐ刃君! 上半身は関係ないんじゃないかな!? 橘さんもどうしてノータイムでボ○・ジョヴィを!? 打ち合わせてたのかな!?

 特徴的なメロディが流れる中、存分に筋肉を見せつけた刃君はサビに入ると共に身体を倒し──!


『It's my life──!!』

「ふんっ、ふんっ、ふんっ──!!」

「うそ、だろ……!?」


 ──こうして刃君は、伝説になった。

 色んな意味で。


(わ~~~~……!)


 そ、そっか~……刃君、隠れてそんな運動してたんだ~……そ、それって、鞘花ちゃんだけじゃなくて、私にも恩恵あるよね……刃君のアレ、今よりもっと硬くて立派になっちゃうんだ……♡ ドキドキ……!


「マジかよあの野郎やりやがった……」

「さ、酒上君……す、すっご……♡」

「しぇんしぇえしゅてき……♡♡♡」

「はっはっはっはっ! いやこれはすごいな!」


 一部、刃君のことをエッチな目で見てる人がいますケド……こ、このクラスで刃君をエッチな目で見ていいのは私だけだよ! ユースティアさんは手遅れということで……あと先生は笑いすぎです。あとで主任の先生に怒られちゃうんじゃないかな……今年で定年の先生は無敵モードなのかもしれない……。


「ふぅ……どれ、理解したか? 甲斐性のある男というのは、愛する女のためならばチン立て伏せができるものなのだ」

「マジかよ……」


 そうかな……そうカモ……。

 全男子の驚愕と羨望、そしてご婦人方を含む女子達のドキドキした視線を一身に浴びながら、一汗流した刃君は爽やかにも見える汗と共に告げた。


「──以上だ。己に自信のない男は実践し、近頃物足りないと感じている人妻方も、夫に勧めてみるといい」

『っっっ!』


 こうして──。

 私達のクラスとご家庭では、一時期そうした運動が流行った。

 さすがに成功者は出なかったけど……そんな修行に明け暮れる人達は、真剣な表情で地面と向き合う姿から、敬意を込めて『地面師たち』と呼ばれた──……。

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