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俺のマスターは吸血姫~無双の戦鬼は跪く!~  作者: 黎明煌
第十章 「無双の戦鬼と、二度目の夏」
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672「第一回吉良坂流魔術道場」



「──押忍、吉良坂流魔術道場へようこそ。この魔術の『ま』の字も知らねぇような、とりまガシガシしてりゃいいと思ってるクソ童貞アンド『いつか素敵な王子様が私を迎えに来てくれるもん♪』と勘違いしてロクに交通費も出さねぇような頭ゆるふわ処女どもがよ。今日はお前達にハイハイの仕方から教えてやるから覚悟しとけよテメーら。それもただのハイハイじゃねえぞ。ド級のハイハイだ。全一のハイハイ覚えるまでこの部屋から出さねぇからよ」


 わぁ体育会系だぁ~。『教室』って聞いてたのに『道場』になってるし。

 土曜の夜。今日は私……河合カノンとガーネット先輩のスケジュールも合い、ジンジンも時間が作れるとのことだったので、第一回魔術教室が開催されることになったんだけど……。

 広さと防音、そしてセキュリティが万全という理由で先輩のタワーマンションに集まった私達。

 案内されたのは、色とりどりの背表紙をした本が大量に詰め込まれた本棚や、煙を上げる大きな釜などが設置してある……恐らく、先輩の魔法とか魔術の諸々が仕舞ってある部屋。

 その中心で、ピンクジャージを着て竹刀を片手に持った先輩は険しい目をしてピシィ! と竹刀で床を叩いた! でもフカフカの赤い絨毯が敷き詰められてるせいかあんまりいい音してないですね!

 ですが私もそこそこ事務所の後輩をやっているので、ノリよくビシッと手を上げて応えます!


「了解しました先輩! 河合カノン、頑張って全一ハイハイできるようになります!!」

「ハイハイで魔術が上手くなるわけねぇだろ!!!! †今宵の月のように†」


 ごもっともなのですが納得いきません……。

 苦笑する私の隣で欠伸を漏らすジンジン。そんな私達新米魔術師を前に、先輩は竹刀の先でトントンと床を叩く。


「あとこの時間、あたしのことは師匠マスターと呼べ」

「はいっ、師匠!」

「断る。俺が『マスター』と呼ぶのは、この世界において一人の少女だけと誓っている」

「うるせぇ呼べ」

「聞けんな」

「呼べ」

「聞けん」

「 呼 べ 」

「聞けん聞けん」

「この不良生徒がっ。もう学級崩壊させやがってよ! 君が謝りに来るまで、先生職員室から出ませんからね!! えぇんか!?!?」


 ヒラヒラと手を振るジンジンに、先輩は悔しそうに地団駄する。そんなこだわるところかなぁ……。


「……ちらっ」


 私はコソコソと魔具の方のスマホを取り出し、先輩の名前を入力する。

 すると液晶に、先輩の内心がつらつらと綴られていった。


『くっそ~、どうにかリゼットちゃんだけの特別を味見できねぇかなって思ってたのに、頑なになりやがってぇ~……ちょっとくらい呼んでくれてもいいじゃんね!! あたしだってマスターって呼ばれたい! 一応テメーはあたしの使い魔で、あたしはご主人様ぞ!?』


 わー……可愛い嫉妬♪

 先輩ったら、やっぱり心の中では独占欲の強い女の子なんだな──、


「──どうやら秘密の花園を踏み荒らすドブネズミがいるみてぇだなぁ……? こんのハ○マイ○ニーみてぇな髪型したゆるふわ栗毛アイドルがよ。髪型だけはいっちょまえの魔法使いじゃねぇか? この前の『バキバキに硬くなった(オニイチャン・)巨根を(ハ・)女の子に生やす魔術(オシマイ)』で懲りてないのかな? じゃあ今日は出血大サービスで……二本に増やしちゃうゾ☆」

「本っっっ当にすみませんでしたマジで勘弁してください」


 いつの間にか後ろに回っていた先輩の笑顔の囁きに、私はプライドも捨て神妙に土下座した。怖い……男の子のおち○ち○怖い……そんな魔術を放てる先輩も怖い……。

 軽くトラウマを抱えた私がガタガタと震えていれば、ジンジンは片眉をピクリと上げ、自分の黒い杖をフリフリしながら先輩に聞く。


「して、どのような修練をするのだ? 初歩的な魔術の修得などか?」

「ん~、まぁそれでもいいならいンだけど。ぶっちゃけつまらんよ? お約束なのが『魔具の先に(ハイ・)火を灯す魔術(ジッポ)』ね。『シュガー・メイプル・シナモンロール、魔具の先に(ハイ・)火を灯す魔術(ジッポ)』ほいっ」

「おぉっ」


 軽い調子で先輩は、魔法少女っぽいステッキの先端にライター程度の火を灯して見せた。

 土下座から立ち上がった私は、初めて見る魔術にパチパチと拍手をし、ジンジンはなぜか不思議そうに首を傾げた。


「……それは、どういった時に役立つ魔術なのだ?」

「上司がタバコの火を欲しがってる時にやると案外ウケいいよ」


 なぜそんな魔術が初心者お約束なんですかね……初心者だからでしょうか……。


「小難しい詠唱並べ立てないでいいからってのもある。詠唱開始キーワードから、そのまま繋げればいいから」

「ふむふむ、どれ……」


 頷いたジンジンが、眼前に杖を掲げる。


「『ますたー・すきすき・ふぉーりんらゔ』」


 すごい呪文。


「『魔具の先に(ハイ・)火を灯す魔術(ジッポ)』──!!」


 ──劫ッッッ!!


「天井焼けてますね~」

「止めろバカチン敷金礼金払えんだろうなテメー。火災報知器切っといて正解だったなこりゃ」


 火柱を上げるジンジンの杖に、先輩はこうなることが分かっていたのか呆れながら背中に蹴りを入れた。


「はいはいつよいつよい。普段から魔力を感知したり、扱ってる奴なら楽勝だからなぁこれ。これはカノンちゃんが練習するとよいよ」

「は、はいっ。やってみます」

「魔力ってのは己の内側にもあり、外側にもある。その流れを意識して、自分という宇宙の中へ取り込み、変換し、出力する……ってイメージね。呪文はトランス状態になりやすくするためで、ぶっちゃけ内容自体は変えちゃってもいい。あたしもたまに変えてるしね。とはいえ『この文言が万人にしっくりくる』って考えのもと百年単位で練られてる言葉だから、案外この歴史はバカにできないからそこは覚えといてね」

「は、はいっ」


 歴史も交えて、心構えまでしっかりと教えてくれる先輩。き、緊張するっ。

 私は初心者の練習用の杖を握り(スマホはちょっと使いにくい……)、まずは事前に設定しておいた詠唱開始キーワードを唱える!


「じっ……『ジンジン・すきすき・ふぉーりんらゔ!』」

「バカみてーな詠唱開始キーワードしてんな」

「今俺のこともバカと言ったか?」

「そうだよダブルバカ。バカの二大巨頭がよ。恥ずかしいわ師匠として」


 ちょっと頬が熱いですけど、私はそのまま杖をブンと振り下ろした。


「『魔具の先に(ハイ・)火を灯す魔術(ジッポ)!』」


 ………………あれ。


「何も起こりません……」


 静けさを保つ杖の先端に目をパチクリとすれば、先輩は「しゃーない」と軽く肩を竦めた。


「ま、元一般人が魔力把握すんのって実際難しいからねん。魔力は内側と外側にあるって言ったけど、それをどうイメージするかも人によるし。ちなみにあたしは外のを『霧みたいに細かく漂ってるもの』として、内側のを『放水する用に貯めてる水』みたいな感じでイメージしてる。中には『精霊と対話する感じ』ってしてる人もいるし、まずは自分に合ったイメージを見つけるとこからやね。ちなみにダーリンはどんなイメージしてる?」

「あまり考えたことはないが……そうだな。俺は逆に内側を莫大な血液とし、矮小な外側についてはそれで洗い流す感覚だ」

「とまぁ、こんな感じで千差万別なわけ。コイツみてぇな魔力タンクのイメージは参考にならねぇだろうけど。メジャーなとこで言えば水とか炎とか、そういう感じでイメージしてこ。その感覚がひいては、個人由来の魔法の制御にも繋がるからね」

「了解です、師匠!!」


 師匠の優しい笑顔に、つい敬礼を返してしまう。私のためを想って言ってくれる言葉って、ついかしこまっちゃうよね。


「俺はどうすればいい」

「加減しろバカ」

「もっと有用な魔術を教えてくれ」

「あーン? 弟子が生意気言いやがってよ。んじゃあ、初心者でも簡単に使えるあたしのお気に入り魔術を教えてやんよ。『夜中に逃げた(サーチ・)ゴキの(アンド・)位置を探る魔術(デストロイ)』か『尿意が何時(ハレ・)間後に来る(トキドキ・)か占う魔術(アメ)』か『布団を最高品質で(アイリス・)フカフカホカホカ(クソデカ・)にする魔術(マウンテン)』どれがいい?」


 え、地味にどれも覚えたい……特に最後。いいよね、布団乾燥機。


「ふん。どれもよさげに聞こえるが……隠している部分を吐け」

「分かってんじゃん。『夜中に逃げた(サーチ・)ゴキの(アンド)位置を探る魔術(デストロイ)』は『使った瞬間、卵が部屋の中のどこかに低確率で現れる』、『尿意が何時(ハレ・)間後に来る(トキドキ・)か占う魔術(アメ)』は『半々の確率で外れる』、『布団を最高品質で(アイリス・)フカフカホカホカ(クソデカ・)にする魔術(マウンテン)』は『失敗すると発火する』どれがいい?」

「どれもいらん」


 素直に高い布団乾燥機買おうかな……。


「ちっ、つまんねーなー。じゃあ、これ。『女の子の爪をピカ(ツルツル・)ピカにする魔術(ピカピカ)』とか。これならオメーのご主人様も姉妹も喜ぶっしょ。えぇ? こういうのが欲しかったんだるぉん?」

「そういうのでいいのだ、そういうので」

「代償に『使用者の頭がピカピカになる』としても?」

「…………許容する」


 あまりに大きなデメリットだけどするんだ……。


「よく言った、それでこそ皆の下僕。んじゃあ──」

「あ、すみません師匠。ちょっとお手洗いに……」

「ダメだ、漏らせ」


 スパルタぁ!


「うそうそ、いっていーよ☆ ちなみに『膀胱の中身(モレ・)を入れ(ア・)替える魔術(モーレ)』もあるけど試してみる? デュフ、デュフフフ……せ、先輩と、シェア膀胱する? あたしも結構溜まってるから意味ないけど」

「間に合ってるんで結構です……」


 その魔術は誰がどんな考えで編み出したものなんでしょうか……。


「あ、ついでにあたしの部屋からヘアゴム取ってきて。下ろしてるとやっぱこの部屋あちーわ」

「釜の火を消せばいいのでは……」

「絶対避妊薬『デキナイ』の煮込み中だから無理。途中でやめると『チョットデキチャウ』になっから」

「すごいの作ってますね。自分用ですか?」

「コイツのお姉ちゃん用」

「すごい人としてるんだねジンジン」

「姉上を不老不死にするためにな。無論、姉上に快楽を味わってもらいたいという想いを前提としているが」

「そ、そう……」


 私、だいぶ濃い界隈にお邪魔しちゃったのかな……私はついていけるだろうか……。

 先輩の鬼指導が始まるのを背に、私はそそくさと部屋を出てお手洗いへ。


「えっと、先輩の部屋は……」


 その流れで、私は記憶を辿りながらテトテトと先輩の部屋の前へ。そういえば、以前に来た時にはお部屋を間違えて、記憶を消されちゃったんだよね。


「あの時には、ジンジンの痕跡が至るところに残ってたけど」


 先輩のお部屋にも、そういうのあるのかな……ドキドキ。も、もしゴミ箱に使用済みゴムとかあったらどうしよう! 脳が焼けちゃう(よろこんじゃう)かも!


「お邪魔しま~す……」


 胸の高鳴りを押さえつつ、扉を開ける。


「……ちょっと散らかってる」


 十代の女の子が住むにしては立派なお部屋だけど、床には脱ぎ散らかされた衣類や乱れた布団、果ては枕まで落ちていた。

 でもドレッサーの化粧品類はキチンと整理されている。さすが先輩は、仕事に対しては真剣ですね……ギャップ萌え!


「ヘアゴム、ヘアゴム……っと」


 どの色にしようかと指先で選別しながら、先程までの先輩のことを想う。

 仕事とは違って、初心者にも優しく教えてくれる先輩。先輩の過去に何があったかは知らないけれど、その優しさと真剣さはきっと、その何かがあったからこそなのだと思う。そう感じる。それにはきっと、ジンジンも関わっているって。


「……まだまだ、遠いなぁ」


 ひょんなことから秘密を共有する仲になったけど、分からないことだらけ。知らないことだらけだ。


「……うんっ」


 先輩に似合うピンクのものを選び、私は気を引き締める。

 分からないなら、知っていけばいい。足を踏み出すのは怖いけど、無知でいる方が私は怖い。だから私はここにいる。


「よし……とりあえず」


 とりあえず──!


「先輩のジンジンとの匂わせグッズ、どこかにないかなぁ~」


 とりあえず、私は自分の脳を焼くため軽く部屋を見渡した。だってあんまり表面的に二人がイチャイチャしないんですもん!! 私は先輩のことが好きなジンジンが好きなのに!!


「前はお箸とかお着替えとか、シャンプーとかあったのに……」


 キョロキョロとしてみても、全部先輩のモノしか見付けられない。ゴミ箱も……ないかぁ。丸まったティッシュはあるけど……むっ、そういえば先輩とジンジンはナマでしてるって。ということは、ゴムではなく原液がそこにある可能性……!? いや、いや……さすがにそれは、我慢……我慢……せめて匂いを嗅ぐだけ……!!


「……『性欲を増幅させる魔術』とかないのかな」


 なんの香りもしないゴミ箱から鼻を引っ込め、想像の翼を広げる。

 もしそれをジンジンにかけたら、私の目の前で先輩を……おぉ、おぉ……!! いい!


「よし、まずはそれを目標にしよう。小さなことからコツコツと……アイドル業と同じ同じ♪」


 これでも地下上がりなので、地道な努力は得意なのです! じゃあまずは初心者用の魔術ができるようにならないとね! やる気が出てきたかも!


「早く戻って練習しよっ。あ、でも──」


 扉近くに転がってる枕だけ戻しておこう。先輩が忘れたまま、熱い飲み物でも運んでたら危ないもんね。


「よいしょ……ん?」


 ちょっと大きめの、モフッとした枕を掬い上げるように持つと……なんか、手触りが思ったのと違う……? いや、何か裏側に別の物が貼り付けてある……?


「うん……?」


 大きめのラベルか何かかな? と思い、私は無造作にそれをひっくり返した。


 そこには──!!




挿絵(By みてみん)




 キメキメの笑顔をキメる先輩と、ジンジンのツーショット写真がテープで貼られていましたっっっ!!!!


「きゃあ~~~~~~~♡♡♡」


 先輩ったら……!!

 好きな人とのツーショット写真を、枕の裏に仕込んで毎晩寝てるんだぁ~~~~~~~~~~~♡♡♡


「あぁ~~~~強火~~~~♡」


 私が入り込む余地のないラブラブっぷりに……あの普段カッコいい先輩の、私には決して見せない恋する乙女っぷりに脳が焼けちゃう(よろこんじゃう)~~~♡♡♡


「──ご馳走さまでした」


 枕を扉付近の邪魔にならないところに置き直し、手を合わせる。これは栄養価が高いです……!


「さてさて」


 気取られない内に、早く戻らないと。それとも二人がイチャイチャしだす頃を見計らって、戻るようにした方がいいのかな……?


「……うん、こっそり戻ろう」


 そして二人がイチャイチャしてたらこっそり覗こう。

 そう決めた私は、いそいそと先輩の部屋を出て──、


「──フリーズ、ドンムーブ」


 ですよね。

 そこにはこちらに銃口を向け……真っ赤な顔で、涙目になって、プルプルと震える先輩がいた! きっと送り出した後に『やべっ』て気付いたんでしょうね。


「言い残すことは」

「本望」


 ──タワーマンションの一室に銃声が響き、私はせっかく教えてもらった知識を、綺麗さっぱりと忘れてしまうのでした。

 その記憶を持っていけないのは残念ですが……今は、その可愛いお顔を見られた事実のみでよしとしておきますよ……先輩。


 地道な努力をコツコツと、ですからね……!




というわけで、第六章『無双の戦鬼と笑顔の魔法』のイメージイラストが届きました!

イラストレーター様はもちろん、maruma (まるま)先生!

ガーネットちゃんの可愛さに、跪くがよいよ!

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