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俺のマスターは吸血姫~無双の戦鬼は跪く!~  作者: 黎明煌
第一章 「無双の戦鬼、忠誠を誓う」
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27 「姉だから大きい、それだけにございます」


「申し訳ございませんリゼット様、刀花ちゃんに服まで買っていただいて……」

「え、えぇ……いいのよ。眷属に報いるのもご主人様の務めだから……」

「思えば、刀花ちゃんには不自由をさせてきました。こうして満足に服も買ってあげられなくて。不甲斐ない姉でございます」

「そ、そう……」


 服の入った包装を小脇に歩く隣の少女は、ほう……と頬に手を当て悩ましい吐息を漏らしている。そして話題のトーカは彼女を挟んだ隣に位置し、ハミングしながら彼女と手を繋いでいた。

 服を買い終わり、次はどこに向かおうかと三人で繁華街を歩く。

 午後の日差しを浴びながら、手を繋いで睦まじく歩く美人姉妹の姿に、道行く人々は微笑ましい視線を向けている。中にはありがたそうに手を合わせて「あら~」と呟く男もいた。なんで男なのに「あら~」なのかしら。ア○ラー?


「ふふ、お優しいご主人様のためにも、姉妹揃ってご奉仕させていただきます。ね、刀花ちゃん。お友達のために頑張れますね?」

「はーい!」


 元気な返事にクスクスと満足そうに笑う彼女の笑顔は、穏やかな風を感じるほど涼やかで、周囲を自然と和らげる魅力に溢れていた。

 ……しかし、そんな隣を歩く黒髪ロング和服美少女を見る私の目は白い。


「ね、ねぇジン──」

「クスクス、めっ♪」


 真実を知る私がそれを暴こうとすると、彼女のふっくらとした指が私の唇にちょんと当てられた。


「きちんと鞘花、と呼んでくださいましね。ご主人様♪」

「もーなんなのこの状況はー!?」


 背中を走るむず痒さに耐えきれず、私は頭を抱えて叫んだ。そして「あらあら」と笑う大和撫子にビッと指を突きつける。


「キャラが違いすぎるでしょう!? なんで身体まで変化してるのよ!? なんでそんなに胸がでかいのよ!? なんでそんなに甘甘なのよ!? なんでそんなに胸がでかいのよ!?」

「二回言いましたね~」

「二回言いましたわね~」


 ぜぇぜぇと肩で息をする私に酒上姉妹(?)は突っ込みをいれる。しまったつい本音が。でも女装でそんな大きくする必要ないでしょ当て擦りか何かなの?

 意識して深く深呼吸をし、落ち着いたところで腕を組んで問いかけた。


「で、なんなのよそのサヤカっていうのは」

「あー、本人は潜入用と言ってはいますけど、元凶は私なんです」


 トーカが珍しく困ったように頭をかきながらあははと笑う。元凶?

 首をかしげていると、隣の和服少女がおかしそうに「そうでしたね」と、笑って言葉を繋いだ。


「私は刀花ちゃんが小さい頃から一緒に暮らしてきました。もちろん、刀花ちゃんの成長だって全て見てきました。そんな中で、刀花ちゃんにもあったんですよ、反抗期が」

「いやぁお恥ずかしい……」


 恥じるように顔を隠すトーカに、その姉は優しく笑いかけている。


『お兄ちゃんじゃなくてお姉ちゃんがいい』


「ふふ、当時は困ったものでした。しかし私とて無双の戦鬼。所有者の願いは全て叶えてご覧にいれます」


 得意気にサヤカは胸に手を当て、妹への献身を語る。その顔には妹の我儘への苦労というより、してやれることへの誇らしさがあった。


「様々な媒体から”姉”という存在を読み解き、試行錯誤を繰り返し、刀花ちゃんの理想を再現し……そうして完成したのが、この私なのです」

「へー、そんな経緯が。人格とかもインストール的なことをしてるの? 変装が終わったら正気に戻るとか」

「いや、全霊で演技しているだけだ」

「うわ急に地声で喋らないでよ気持ち悪いわね……」

「兄さんは常に全力ですから。いいですよぉ、全肯定お姉ちゃんキャラは……」


 トーカの言っていることはよく分からないけれどとにかくすごい自信ね。それにしてもこれ演技だったの……普段のジンからは想像もつかない達者ぶりになんだか混乱しちゃうわね。同一人物ってことはわかったけれど。


「素朴な疑問なのだけど恥ずかしくないの?」

「あら、鬼が女に化けるなんて当たり前のことですわ」


 そう言いながらサヤカは通りかかった公園内のクレープの屋台に目を留めて、そちらへと足を進めていった。


「男を誑かし、子どもを拐うのに最も適した姿ですからね」


 二人分の注文をしながら、「まぁ私はそんなことしませんけれど」と冗談っぽく言う。


「私のこの姿は、ただあなた達の願いを叶え、いつもとは少し方向性の違う奉仕をするためだけのものに過ぎませんわ。戦鬼の在り方としても何も変わってはおりませんゆえ。難しく考えず、存分に甘えてくださいな」


 店主からクレープを受け取り、私とトーカに差し出すと、サヤカは「ねっ♪」と、いたずらっぽくこちらにウインクしてみせた。


「あ、ありがとう……」


 顔を少し伏せてサヤカからクレープを受け取る。

 ウインクにちょっとドキドキした……。それに本質がジンと変わらないとわかったというのも余計に私の鼓動を早くする。


「むふー、兄さんも大好きですけど、姉さんも大好きです」

「ふふ、私も大好きですよ刀花ちゃん。ただ威嚇が出来ないのが辛いところですわ。ですので人気のないあちらのスペースで食べましょうか」


 公園内の東屋に移動し腰を下ろしてクレープを食べる。クリームに包まれたフルーツがとっても甘いけれど、隣でしっとりとした笑顔で妹と私を見つめる視線に、私は別の甘さを感じていた。


「姉さーん、膝枕」

「ふふ、はいはい」


 食べ終わったトーカは早速サヤカに甘えだす。

 サヤカは和服の皺を伸ばし、トーカをその太股に受け入れた。優しく髪を撫でると、トーカは犬のように頬擦りをして満足げな息を漏らした。いいなぁ……。


「クスクス」


 その様子をじっと見ていると、サヤカは含み笑いをしてちょいちょいと手招きしてみせる。

 うっ、いえ……こんな公衆の面前でさすがにそれは。それに私はリゼット=ブルームフィールド。英国の貴族、そしてご主人様としての威厳が──


「リズ、おいで」


 あ、無理。好き。

 一瞬で陥落した私は招かれるままにサヤカの太股へ頭を寄せた。するとサヤカは夢の中で母がしてくれたように梳るようにして髪を撫で始めた。あー! お姉様! 困りますお姉様! あーっ!!

 トーカが右、私が左の太股といった具合で膝枕を享受する。夏の日差しを屋根が遮り、穏やかな風が頬を撫でていった。


「朝から歩き通しで疲れたでしょう。ゆっくりとお休みくださいませ」


 サヤカのその言葉で目蓋が重くなる。慣れない買い物で少々はしゃぎすぎたのか、今すぐにでも眠れそう。ここはお言葉に甘えて寝させてもらおうかしら。


「なんだか、どんどん自分がダメになってる気がする……」

「あら、いいのですよリゼット様。ご実家のほうでも気が休まる時間はあまりなかったでしょう。もっと甘えてくれて構いませんよ」

「うー、私って実は結構だらしないわよ……?」

「どうかその姿を見せてくださいまし。尽くし甲斐があるというものですわ」

「……だらしなくして、嫌いにならない?」

「クスクス」


 彼女は言葉の代わりに私の前髪をかきあげ、おでこに唇を落とした。触れた部分が火傷したように熱い。あぁ、お姉しゃま……。

 私は「姉さん、私にもー!」「はいはい」という声を聞きながら目を閉じる。彼女の体温がさらさらとした着物越しに伝わってきて心地いい。

 誰かに素直に甘えるのって久しぶり……ずっとこんな時間が続けばいいのに。そんな風に思いながら、私は穏やかな微睡みの中に意識を──


「へいへーい! カワイコちゃんが三人も集まって男旱ぃ? 寂しくなーい?」

「こりゃ俺達で慰めてやんねェとな、ベッドの上でよォ!」

「あら」


 しかし、無粋で下品な声に私の希望は打ち砕かれた。

 ガバッと起き上がると、そこにはいかにも遊んでいる感丸出しの若者が二人、チェーンをジャラジャラさせながら私達を値踏みするかのように見つめていた。


「うっわレベルたっか。おいおい俺達ついてね?」

「俺そっちのポニテのやつな、おっぱいでけーし」

「それ言ったら和服の上からでもわかるのがヤベーって。ま、どうせ全員ヤルんだからどーでもいーでしょ」

「あらあら」


 こちらの事情など鑑みずに、男達は下卑た想像を膨らませ、顔に欲望を張り付け笑っている。その雰囲気に生理的嫌悪感を掻き立てられ、夏だというのに寒気がした。

 隣を見るとトーカは一瞬だけ目を開け、なんでもないようにニコニコとして、再びサヤカの膝で眠りについた。サヤカは──


「ま、ま。立ち話もなんだし、ちょっと静かなとこ行こうよ。大丈夫大丈夫、気持ちよくなれるお薬もあるからさぁ」

「俺は別にここでおっ始めても構わねェけどな、ギャハハ!」

「あーらあらあら」


 男達は手を伸ばす。

 邪な願望を力ずくで叶えるべく、刹那の快楽に酔い、にやけた顔で手を伸ばす先は──


「クスクスクスクス」


 よりにもよってその男達は、私達を守護する戦鬼の肩に手をかけた。


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