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俺のマスターは吸血姫~無双の戦鬼は跪く!~  作者: 黎明煌
第三章 「無双の戦鬼、友達できるかな?」
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129 「君のせい、なんだからね?」



「ふう……疲れたあ……」


 しっとりと濡れた髪の毛もそのままに。

 私、薄野綾女はボフッと勢いよく正面から自室のベッドに倒れ込んだ。

 お風呂上がりの火照った身体に、冷たいベッドシーツが心地いい。


「今日は本当に色々あったねえ……」


 はふう、と身体を包み込む充足感に息をつきながら今日という一日を回想する。

 学園で橘さんに慰めて貰って、このはちゃんから謝礼を貰って。

 そこから不幸の原因が分かって、刃君が全力地球サッカーをして……正直何が起きたかはあんまりよく分からなかったけど。


 ──そうして、喫茶店にいっぱいお客さんが来てくれるようになって。


 おかげでいつもはそんなに忙しくないはずのディナータイムすら、立ち止まる暇もなかった。


「でも……嬉しい」


 そんな急に来た繁忙期を乗り切り、心地いい疲労感を感じながらベッドにダイブしたのだった。


「ああでも、ちょっと仕事でミスしちゃったな」


 急激な仕事の増加に、普段あんまり手伝わないディナータイム。それらが重なってしまったがゆえの失敗、っていうのもあるんだけど……。


「……刃君」


 ……熱い。

 彼の名前を呼んだだけで、胸の奥がポッと熱くなる。

 夏休み明けに転校してきた彼。なぜかその横顔が気になった彼。私だけじゃなくお店も助けてくれた彼。背中をポンと押してくれた彼。気がつけばいつもその横顔を見ていた彼。


 ──今日のお仕事中、ずっと彼の横顔から目が離せなかった。


 おかげで注文をミスしたり、お釣りを間違えたり。

 お仕事が苦手な彼からすら、今日はフォローをされるという体たらくだった。


「……君の、せいなんだからね?」


 ああ、人のせいにするのはダメなことだけど、ついいじけるように唇を尖らせる。


「……ふふっ」


 だけどそんな口も、すぐにふにゃっと綻ぶ。彼のことを考えると、なんだか胸がポカポカして楽しくなってきちゃう。

 素足をベッドシーツにパタパタぶつける音が部屋に響く。埃を立てるのはダメなことだけど、身体を動かしていないとなんだか心の中の何かが爆発してしまいそうだった。


「……ああでも、髪乾かさないと」


 しばらくパタパタし続けていると、少し肩がひんやりしてくる。

 もう季節も秋口。朝と夜はそこそこ冷える時期になってきた。風邪をひく前に──、


「よいしょ……うん?」


 しかし。

 身体を起こした瞬間、脇に置いていたスマホがポロンと鳴り、メッセージの着信を告げる。


「誰からだろ……?」


 またベッドに身体をボフッと預け、仰向けになりながらスマホを掴んで画面を表示。


「あ……」


 そこに書かれていたのは……、


『我が共、綾女え。

 息災か? 今日は色々な転機があり心労も玉ったどろう。仕事ちうも少女虚ろげだった。今日はさっさと風呂に入り、疲れを居安がいい。ぴーえす、最近少し冷える。髪はちやんと乾かせよ』


「……ふふ」


 ……パタパタ。


「ふふふ」


 パタパタパタ。


「ふふふふっ♪」


 パタパタパタパタ。


 ああ、ダメ。これはダメなことだよ。


「もう……君のせいなんだからね?」


 さっきは唇を尖らせて言った言葉を、私はまた繰り返す。

 だけど、彼らしい誤字だらけの文字列を追うたびに……どうしても唇に力が入ってくれなかった。


「ふふ、はーい。乾かします乾かしまーす」


 楽しげに言って、今度こそ身体を起こす。

 髪も傷んじゃうしね。明日も彼と学園で会うんだから、痛んじゃった髪を見られるのは……女の子として、やっぱり困る。


「……私も伸ばしてみようかなあ」


 ドレッサーの前に座り、独り呟く。

 肩口をくすぐるカフェオレ色の髪が、ドライヤーから吹く温風でサラサラと揺れる。

 リゼットちゃんも刀花ちゃんも髪長いし……刃君って、長い方がタイプなのかなあ?


「……な、何考えてるんだろ、私」


 そ、そういうことを考えるのは……ダ、ダメなことだよ、うん。うう頬が熱い……!


「こ、コホン……『ありがとう刃君、今髪を乾かしてるよ。君は今、何してるの?』っと」


 なんでそんなことを考えちゃうのか。

 その理由からわざとらしく目を背けながら、私はドライヤー片手に誤魔化すようにしてスマホに打ち込む。


「送信っと」


 ふう、危ない危ない。

 なんだかあと少しで、心が危ない領域に突入しちゃうところだったよ。


「うんうん、普通普通。身だしなみの話だからね。男の子相手だもん、気にするのは普通普通──お?」


 誰に言ってるか分からない言い訳を独りで呟いていると、再びスマホがポロンと鳴る。


「……あ、珍しい。写真だ」


 開いてみると一枚の自撮り写真。だけど……、


「じょ、情報量が多い……」


 場所はおそらく仲良し三人組が住んでいるお屋敷のお部屋。

 まずカメラ目線で絨毯の上で胡座をかく刃君。そしてその隣にはなんだか不機嫌そうに牙を剥く金髪のお姫様……リゼットちゃんがいる。そして彼の膝にはスヤスヤと眠る可愛らしい妹……刀花ちゃんが沈んでいた。


「うーん……? あ、ゲームしてるんだ」


 刃君とリゼットちゃんが黒いコントローラーを握っているのに気付く。負けちゃったんだね、リゼットちゃん……ふふ、刃君が若干得意そうな顔してるよ。


「……刃君、着物だ」


 制服とかウエイター服なら見慣れてるけど……着物なんだ、家では。あ、でも本気を出す時に一瞬だけ着物だったかな?


「ふ、ふーん……?」


 何でもないように呟きながら、彼の姿をまじまじと見つめる。

 さ、鎖骨見えてる……鎖骨どころかちょっぴり胸板も見えちゃってる……。


「……と、友達の写真を一枚も持ってないのは、友達としてダメなことだよね? うん」


 ──保存、と。


「いやいやなんで友達の写真を保存するだけでこんなにドキドキするかなあ!?」


 他意はないよ!? ないったら!


「ほ、他の部分他の部分……」


 ドライヤーを冷風に切り替えながら写真を覗き込む。

 あ、きっと皆お風呂上がりなんだね。リゼットちゃんも刀花ちゃんも薄着……ちょっと待って!?


「リゼットちゃんすごい肩出てる! しかもこれブラ紐じゃ……!? 刀花ちゃんなんて長袖のシャツ一枚!? 胸のボタンが!? 生足がー!?」


 こ、このお屋敷の風紀はどうなってるのかな!? クラス委員長として見過ごせませんですのことよ!? 身体冷えるよ!? ダメダメダメ!!


「……」


 チラッと、視線を下にして自分の服装を見る。

 普通の、一般的な上下ピンク色のチェック柄パジャマ。リゼットちゃんみたいにセクシーでも、刀花ちゃんみたいにエッ──だ、大胆なわけでもない、普通の。


「むむむ……」


 で、でも、私だって、胸なら……負けてないよ? 歩いてたら足下見えないよ?


「……こうかな」


 スマホを自撮りモードに切り替え、斜め上から構えてみる。


「ちょっとボタン開けて……わわ、先っちょ見えちゃう……下も開けておへそ出して──ぴーす」


 パシャリ☆


「おお、えっちだ……」


 私じゃないみたい……。

 よし、じゃあこれを送信──、


「っていやいやいや!! 何してるの私っ!」


 おバカなのかな!?

 あとワンタップで送信しちゃうところだよ! 何考えてるの!?


「け、消さなきゃ……あ……へっ、へくちっ」


 ポチ。


「あ──」


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「あああああああああ!!??」


 既読。


「あああああああああああああ!!??」


(なんかパンダが寝てるスタンプ)


「刃君んんんんんんんんん!!??」


 それはどんな感情を表わすスタンプなのかな!?


「あわわわわわ……!」


 削除削除!

 た、多分刃君機械苦手だから、保存はされてないはず! でも……!


「み、見られたぁ……!」


 髪が生乾きだったから、つい冷えてくしゃみが!


「あーん! 見られた見られた見られたぁ! パジャマと谷間とおへそ、男の子に見られちゃったよぉ! あ、明日どんな顔して刃君に会えばいいの!? 恥ずかしい、恥ずかしい……!」


 …………。


「…………感想、ないね」


 しばらく頭を抱えてたけど。

 あるのは、意味不明なパンダのスタンプだけ。いや何か言われちゃうのもそれはそれで反応に困るんだけども!


「う、うぅ~……!」


 ど、どうなんだよぉー……。

 可愛いって……思ってくれたのかよぉ~……。


「……はあ。何してるんだか、私」


 もう。

 君と会ってからというもの、変になっちゃったよ……私。


「……君のせいだぞ、っと」


 簡単に髪を梳かして。

 電気を消してそう言いながらベッドに沈む。

 そうだよ、君のせいだよ。


「私がこんな性格なのも君に会ったのが切っ掛けだし、不幸が舞い込んだのも君がお店に入ったせいだし……」


 そうだよそうだよ。

 ぶつくさ言いながらモゾモゾと動き、枕の下からある物を取り出す。


「──“こんな気持ち”になっちゃうのも、君のせいなんだから」


 それは、一本のボールペン。

 深海を思わせる青いボディに、ペリカンのクチバシを模したクリップ。

 そして頂点には、君を……刃君を表わす刀のロゴ。


「……おやすみ、刃君」


 チュ……。


 そのロゴに、そっと内緒の口付けをして。


「いい加減にしないと、君に責任……取ってもらうからね?」


 ボールペンを枕の下に戻して、私はそう呟いて布団を被る。夢でもまた、会えるように。

 リゼットちゃんと刀花ちゃんは一緒に住んでるんだから、少しくらいいいよね?


「もう、ほんとに……もう」


 ──君は本当に、悪い鬼さんだよ。まったく。


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